ビジネスをとりまく環境が激しく変化していく中、働き方改革による労働環境の変化し、価値観の多様化した今、ESに取り組むことが企業にとって重要になりました。
時代の変化にスピーディに対応すべく、人材採用や離職防止の観点からESを推進し、「従業員満足度」を高める目的でCHOが求められています。
CHOには、従業員満足度の向上に向けた理想の組織の姿を描き、働くモチベーションを高めることに繋がる環境整備を推進することが大きな役割です。
そこで今回、CHOとは、ESの推進役となるCHOの意味・仕事内容と役割について解説します。
■CHOとは?
CHOとは、「チーフ・ハピネス・オフィサー」と呼ばれ、企業において、従業員の「幸福」を考え、経営陣の1人として「従業員満足度」の向上を推進する役職を指します。
CHOは、英語で「Chief Happiness Officer」の略になります。日本語では、「最高幸福責任者」を意味します。
CXOとして従業員の働く「幸せ」をマネジメントする責任を担い、従業員満足度に繋がるESの取り組みを通して、社員の幸福度を向上させます。
従業員が働きやすい環境整備を行い、ESを高めることができれば、それに合わせて従業員の会社に対する愛着や貢献意識であるエンゲージメントも高まります。
会社と社員の関係性が深まり、エンゲージメントが強化され、会社への帰属意識が高い状態にあれば、人材の流出を防ぐことができます。
高いパフォーマンスを上げる優秀な従業員が、ビジネスの成果を上げることにやりがいを感じ、長いスパンで働いて貰えるEVPを作り上げることで、会社の業績向上にも繋がります。
愛社精神の高い従業員が増えると、口コミでも社外への認知度が高まったりするため、企業の魅力を高めることに繋がります。
CHOには、経営と働く環境の整備や改善、人材のマネジメントのスキルを発揮し、経営陣と従業員の間に立ってバランスを取り、 経営目的に沿ったESの戦略を立案し実行して行くことが期待されています。
■ESとは?
ESとは、職務内容、労働環境や待遇、人間関係、福利厚生など、従業員の仕事や職場に対する満足度を表す指標です。
ESは、英語で「Employee Satisfaction」の略称になります。日本語では「従業員満足度」の意味を持ちます。
従業員満足度が高い職場を作り上げるためには、会社としてのビジネスモデルの競争優位性も大事な要素になりますが、生産性の向上や優秀な人材の定着といったメリットが生まれます。
ESが高く、バリュープロポジションが構築できている会社では、従業員が転職することにメリットを感じることが少なくなるため、人材の定着率が高まる傾向になると考えられています。
既存社員の定着率が高ければ、新たな人材の採用や人材育成に関するコストを削減しやすくなります。
ESが高まることによって、成果を生み出す原動力となるハイクラスな人材が定着し、ビジネス全体の生産性の向上に繋がるため、企業価値向上にも繋がります。
CHOは、経営陣とともに経営戦略に基づき、効果的なESの戦略を立案し実行していくことが求められるため、 CEOやCOOと同等の経営に対する理解と、従業員への価値提案を行う知見と推進力が求められます。
■CHOの役割とミッション
CEOが掲げるビジョンを実現するためには、経営戦略を立案した上で、ライバルとの違いが独自の競争優位性を考えることが重要になります。
加えて企業価値を向上させ、事業を創造しスケールアウトしていくのは、経営陣だけでの頑張りだけでなく、その組織で働くすべての人材のモチベーションが鍵になると言えます。
大切な経営資源のひとつである人材がどうすれば長く定着するかを考え、経営と従業員という両者の視点でどのように活かして行くかを練り上げるのが、CHOのミッションになります。
CHOの最大のミッションは、企業で働く従業員のモチベーションの向上を実現するためのESの推進を行うことになります。
ESを高めていくためには、自社の現状と課題を分析した上で、離職率が高い場合にはその原因となるボトルネックを把握し、会社の方向性に合致した様々な施策に取り組んでいくことが必要です。
CHOのミッションは、主に下記の3つになります。
・経営者と従業員の間に立ち、人事が掌握する人的資源管理とESに責任を持つこと。
・企業ビジョンや理念の達成、企業価値の向上のためにESの取り組みに寄与すること。
・従業員の幸福度ESに注目し、その向上・改善を図ることで自社の成長に資すること。
CHOは、仕事の成果を高めるために、環境整備を行うだけでなく、社員の喜びは何か?を考え抜き、トップマネジメントとして愛社精神を醸成することに全責任を負います。
例えば、労働条件、職場環境への不満解消や、仕事に対するやりがいの創出などによってESを高めることができれば、従業員のモチベーションや意欲も高まって能動的、自律的に仕事に取り組むようになることが期待できます。
意欲的な従業員が増えれば、組織内でのコミュニケーションの活性化が促進され、既存ビジネスのオペレーショナル・エクセレンスにも効果的です。
また、新商品開発や新規事業立ち上げ、イノベーションを創造する可能性を高め、その結果として生産性の向上が期待できます。
生産性が向上し、仕事効率化が促進されれば、最終的な企業業績の向上に繋がることもあり得るでしょう。
■ES(従業員満足度)を高める方法
従業員満足度を向上させる上では、ビジョンへの共感やマネジメント層への納得感がカギになります。
1、企業理念やビジョンの浸透と共有
優れた経営者は、会社の「価値観」を共有することを目的に、「行動指針」に繋がる考え方をビジョンとして示します。
従業員満足度が低い場合、CHOは経営陣とビジョンや組織文化を見直し、必要に応じた人事施策を講じる必要があると言えます。
ビジョンは、企業としてどのような価値提供をするのか、どのような社会貢献をするのかといった全体的な方向性を指します。
経営者が掲げたビジョンに共感している従業員は、会社に対する期待感や誇りを持ち、会社への信頼が高く、能動的に自社の貢献に向けた行動を取ろうとします。
この企業理念やビジョンに従業員が共感することができれば、会社と従業員のエンゲージメントが高まり、帰属意識や一体感が増し、ESの向上が期待できます。
2、人事評価制度の見直し
人事評価への不満が起こる原因のひとつとして、「評価に対する納得性の欠如」が挙げられます。
従業員自身への評価に対する不満が積み重なると、当然ですがESは低下していきます。
自分の仕事の内容と社会への貢献や会社の業績への影響と照らし合わせた際に、思うように結果が出せず、貢献できていないと感じてしまうことは、一長一短の関係になります。
知見やスキルを活かし、価値ある仕事が出来ている感じると、会社に対しての愛着や従業員満足度は高くなります。
ESを高める上では、評価者が主観的な評価に陥らないように、CHOが基準を明確にすることが欠かせません。誰もが納得する公平で客観的な評価することができる評価制度は重要な要素になります。
3、業務効率化など職場環境の整備、改善
従業員のエンゲージメントを高める上では、仕事をする職場環境を整えることも、ES向上に繋がる取り組みのひとつになります。
ただし、従業員満足度を高める上では、単にオフィスの環境整備を行い、福利厚生、就業規則を整備すればいいという訳ではありません。
現在、特定分野のプロを目指し、スキルアップに繋がる仕事をしたいビジネスマンが増えました。
スキルアップを含め、従業員のニーズをきちんと捉えているか、ワーク・ライフ・バランスを実現できているかの観点で、施策を立案することが必要になると言えます。
CHOが率先し業務の効率化が進めることで、残業時間の短縮が実現できれば、働きやすさが増してESの向上にも繋がります。
その結果、生産性の向上や採用強化、定着率の向上などにも寄与することが期待できます。
■CHOのジョブ・ディスクリプション
CHOの主な役割は企業の人事統括にあり、主に採用戦略や組織作り、また従業員のモチベーション管理を行います。
1、ES戦略のトップマネジメント
CHOは経営陣の一人としてESを中心とした人材戦略の指揮を執る役割を担っています。
従業員満足度が高い職場は、従業員の生産性や顧客対応へのモチベーションが高い傾向にあると言われています。
CHOは、ESの最高責任者になるので、人事労務のスペシャリストであることが必要最低条件になります。当然のことながらCHOは、人事分野に関する事項を熟知していなければなりません。
労働基準法や最新の法令、人事管理手法、最新の人事トレンド等を常にキャッチアップし、 社内への落とし込みなど必要に応じて、対応していく必要があります。
人事戦略のなかで最も重い責任を背負うことになるCHOへの就任は、人事関連の専門知識や経験の保有が必要条件といえます。
2、CEOやCHROの人材戦略のパートナー
CHOのジョブ・ディスクリプションとしては、人事戦略を経営戦略と密接に関連づけ、従業員満足度を踏まえながら、企業価値の向上に繋げていくことが不可欠となっています。
そのため、経営に関する深い理解がなければ、事業戦略に則った人事やESの戦略を立案することは難しいでしょう。
CHOは、経営者として自社の経営戦略や事業戦略を深く理解していなければなりません。
なぜなら、CHOは人材の面から企業経営を支える立場であり、CEOに対してESの向上に必要なアドバイスをする機会も少なくないからです。
CHOがCHROと兼任している際には、人材の採用や人事施策を立案する際に、各事業部の戦略を認識していなければ、ヒューマンリソースの施策とビジネス戦略の方向性にズレが生じてしまうためです。
3、組織変革のチェンジ・リーダー
時代の変化はめまぐるしく、既に企業規模や業界を問わず、「終身雇用制度」は崩壊したと言えます。
転職することが一般的になった今、「年功序列制度」は形骸化し、フリーランスや副業の仕事をするビジネスマンも増えつつあります。
このような状況下で、旧態依然の人材配置や異動を行っていては、組織がうまく機能しなくなる恐れがあります。
CHOは時代の流れを敏感に察知し、雇用形態が多様化した現代にマッチするES戦略を練り、主導しなければなりません。
企業ビジョンに共感している従業員は、自社のビジョンやバリュープロポジションを自分の言葉で説明できるスキルが高いと言われています。
社内の従業員がどれぐらいビジョンに共感しているかを把握し、そうでない無い場合には、仕事のミッションを含めた組織文化を浸透させることもESの重要な項目の一つになります。
従業員満足度を高め、活気あふれる風土変革の中心的人物として、チェンジ・リーダーなることは、CHOの役割だと言えるのです。
■CHOに必要な知識・経験・スキル
ESは、福利厚生やマネジメント、職場環境、働きがいなどについて社員の満足度を表す指標を意味します。
ESに取り組むCHOには、必要な経験やスキルがあります。
1、経営陣や従業員との対話と傾聴力
広い視野をもって他人の意見にも耳を傾けられる傾聴力の高い人材であり、経営戦略や事業戦略を理解していることがCHOの理想像だと言えます。
CHOには、現場の社員とコミュニケーションを図り、巻き込むリーダーシップも必要です。
時には、CHOが適宜、1on1ミーティングを行い、ヒアリングした内容を経営陣に届けるような社内の調整役としての動きも必要になります。
1on1ミーティングとは、上司が部下の育成やモチベーション向上を目的に行う個人面談です。
その目的は、部下と信頼関係を築き、モチベーションの向上やその成長を促すことにあります。
コミュニケーション能力が備わっていれば、風通しの良いチームを構築して、メンバーと話し合いながら納得のいく着地点を見つけられるはずです。
2、人材のマネジメント能力
現場のマネージャーやリーダーの良き相談役になるためには、CHOにもマネジメント能力が求められます。
人材不足が叫ばれる昨今、企業にとって社員の能力を伸ばすことは緊急の課題です。
部下の考えを理解したコミュニケーションが取れていたり、部下の仕事ぶりを把握して、きちんと称賛したりしている上司がいる部署のメンバーは、従業員満足度が高くなります。
事業戦略に則ったES戦略を立案して終わるのではなく、現場の意見に耳を傾けて、時には戦略を修正することも必要になります。
CHROには、人材の採用戦略や育成計画が求められますが、CHOには、ESの度合いを定期的に確認し、従業員のモチベーションを管理・指導できる人材が適任です。
3、ヒューマンリソースの戦略を成功に導く実行力
ES戦略を立案できても、それを成功させることができなければ、CHOに適任とはいえません。
CHOが各部署のマネジャーとのフィードバックを通して、チームのエンゲージメントや成長も促せることから、業務の質やスピードの向上による業績の向上にも効果が望めるでしょう。
また、従業員に対して「権限委譲」を進めることは、マネジメント層の業務の負荷を減らす効果があります。
その理由としては、管理職の業務の負担が大きくなれば、マネジメントは手薄になり、部下のモチベーションやパフォーマンスは下がってしまうからです。
CHOには、経営会議で立案されたES戦略を成功に導くために、課題把握能力や問題解決能力、リーダーシップといったCEOと同じような実行力が求められます。
課題把握能力や問題解決能力を有しているCHOは、従業員満足度の向上に向けた課題を整理し、現時点で最善な解決手段を見つけ出すことに秀でています。
■まとめ
人材不足が深刻になる中で、企業にとっては優秀な人材を確保するために「従業員満足度」となるESを高めることは、持続的な経営とビジネスの発展に欠かせない施策になっています。
会社のバリュープロポジションを高め、従業員が自分の適性に合う仕事や、スキルを活かした仕事ができていると感じられれば、ESは自然に高まっていくと考えられます。
従業員満足度が向上することで、その企業で働く人材は高いモチベーションを維持しながら、能動的に仕事に取り組むことが可能になります。
その結果、大きな成果を上げられたり、生産性を高められたりすることに繋がるため、ESの向上は、会社へのメリットが非常に大きい取り組みになると言えます。
現在、ESという考え方の価値が高まると同時に、ESの向上を推進するCHOのポジションの価値が高まってきております。
ESを高めるためにCHOが担う最大の役割は、経営資源の中で最も大事な人の感情にフォーカスし、人材の定着という課題に向き合うことです。
卓越したスキルを持つCHOは、業績が向上したり、低迷する原因にもなり得る人材確保の施策を立案します。そして、ESを高める要素に対して主体的に関与し、企業として人を惹きつける様々な取り組みを継続して取り組みます。
企業ビジョンを実現するためには、経営者と従業員、評価やマネジメントに関連し、ESの推進役となるCHOが必要です。
なぜなら、高い意欲のある従業員が多い職場は、組織内のコミュニケーションや連携も活発になるからです。
優秀なCHOがいれば、新規事業や新サービスの開発など、企業や組織にイノベーションが起きやすく、企業の業績向上に繋がります。
「本人がやりたいと思わせる仕事や条件を作り出し、本人が選んだと思えるようにしていくことで、やる気も成果も上げることができる。」
<ロッシェル・カップ>
■最後に
全体の状況を見渡して適切なリーダーシップを発揮していくことが、ESの向上に向けてCHOに期待される役割の一つです。
CHOは、「最高幸福責任者」と訳されるように、従業員満足度の向上に必要となる施策の立案と実行のプロでなければ務まりません。
現代におけるビジネス環境は著しい変化にさらされており、一つの考えや方法にしがみついていては、あっという間に時代遅れとなります。
ESを意識しながら、CHOとして時代の変化に対応した専門的なヒューマンリソースの最適化の施策を打ち出すことは、非常に難しい課題になります。
その理由としては、CHOは、ESの推進を行う「最高幸福責任者」というポジションであるため、CHOとして活躍するためには、長期的な計画を立て、キャリア形成をしていく必要があるからです。
現在、日本企業の多くは、ESにかんする知見が少ないため大手企業であっても、ESの施策の立案に長けた外部コンサルタントを登用し推進しています。
中小企業やスタートアップに場合、ハイクラスなCHOを採用するすることは難易度が高いため、即戦力となるCHOが採用できない場合には、フリーランスのCHOにアウトソーシングする選択肢もあります。
今後は多くの企業が、経営戦略の一環としてESを重要なテーマであると位置づけ、その責任者として優れたCHOを求めるようになるはずです。
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