中小企業が事業を行う上で、顧問やコンサルタントと顧問契約を行った際には、顧問料の中から源泉徴収を差し引いて報酬を支払いますが、源泉徴収を行わずに報酬を支払うこともあります。
身近なところでは、税理士や公認会計士、弁護士、弁理士、社労士など、国家資格を保有する士業と顧問契約を行い、報酬を支払っている企業も沢山あると思います。
そこで、今回、顧問料の源泉徴収とは何か、顧問料からの源泉徴収は必要なのかついて、解説します。
■顧問料の源泉徴収とは?
顧問料の源泉徴収とは、国家資格者も該当しますが、それ以外にも知見やスキルを活かして働く、特定分野プロの人材や、コンサルタントと称する個人に対して、企業が報酬を支払う際に、顧問として関与する業務に対して支払う、報酬から源泉徴収の支払い義務があることを意味します。
フリーランスの顧問やプロ人材の場合も条件を充たせば、プロ人材に仕事を依頼する会社が報酬から差し引いて税務署に支払うか、もしくは源泉徴収が差し引かれていない場合には、仕事を受けた本人が顧問料から源泉徴収の支払いをしなければなりません。
税理士等に支払う報酬については、支払金額に10.21%の税率を乗じた金額を源泉徴収します。
ただし、同一人に対し1回に支払われる金額が100万円を超える場合には、その超える部分の金額については、20.42%税率を乗じて計算します。
司法書士に支払う報酬については、1回の支払金額から1万円を控除した残額に10.21%の税率を乗じた金額を源泉徴収します。
この場合、司法書士を通じて支払った登録免許税や登記簿謄本の手数料等は、源泉徴収の対象から除外して計算をします。また、控除する1万円は、一つの委託契約ごとに控除します。
■源泉徴収が必要な報酬の例
源泉徴収は支払先や支払う名目が複数あります。ここでは源泉徴収が必要な報酬例を5つ解説します。
1、従業員への給与等
従業員への給与、賞与の支払いは源泉徴収の対象になります。退職金制度を設けている場合、退職金の支払いも対象です。
ただし、一定以下の通勤手当や旅費、出張費などは源泉徴収の対象外となります。
2、税理士や弁護士への顧問料
社外の税理士や弁護士、また司法書士など特定の資格を持つ個人に支払う報酬は源泉徴収の対象になります。
交通費や出張費を負担する場合、一定の範囲内で、かつ直接ホテルなどへ支払うものは対象に含める必要はありません。
3、広告宣伝のための賞金
自社商品の広告宣伝のため、賞品や現金などの金品を個人に支払う場合、源泉徴収の対象となります。懸賞クイズや抽選などのキャンペーンを行う場合が該当します。
賞品が旅行に限定されているものや、50万円以下の賞品や現金は源泉徴収の対象になりません。
4、原稿料や講演料
原稿料や講演料に対して報酬を支払う場合も源泉徴収の対象になります。取材費や調査費などの名目で支払う場合でも、実態が報酬であるなら源泉徴収が必要です。
【原稿料や講演料に含まれるもの】
・挿絵やデザイン、校正、書籍の装丁、写真など
・作曲やレコード吹き込み
・翻訳、通訳
・著作権や工業所有権の使用料
・技芸、スポーツなどの教授、指導に対する報酬
・金商法28条第6項に係る投資助言業に対する報酬
注意したいのは、いわゆる原稿料や講演料以外にデザインや著作権などの報酬も対象になる点です。原稿の取り扱いや講演を行っていない企業でも源泉徴収の対象となる可能性に注意しましょう。
例外的に「懸賞応募作品などの入選者に対する賞金や、新聞などへの投稿に対する謝金」のうち1人に対して1回5万円以下の金額は源泉徴収が不要です。
5、外交員などへの報酬
自社商品の販売を外部委託契約などで企業と直接雇用契約を結んでいない者(外交員)に委託している場合、その報酬も源泉徴収の対象です。外交員への報酬に給与が含まれる場合も対象となります。
■源泉報酬の計算方法
源泉所得税の計算は、報酬の支払い先によって計算方法が異なります。
基本は支払う報酬の10.21%が源泉徴収所得税となる点は押さえておきましょう。源泉徴収が必要な報酬のうち特定のものは報酬の金額から一定額を差し引いてから税率を掛けます。
弁護士や税理士などへの顧問料は報酬から源泉徴収として差し引く際の固定金額がなく、報酬が100万円以下と、100万円超で計算方法が異なります。原稿料や講演料、また専属契約する個人への契約金などの源泉徴収も同じ計算方法です。
ただし、司法書士などへの報酬は1件の委託ごとに1万円を、広告宣伝のための賞金などは50万円を差し引き計算します。
外交員は報酬から12万円を源泉徴収として、差し引きますが、給与を含めて支払っている場合、差し引く12万円から給与の額を差し引き、残差を報酬から差し引きます。
■顧問報酬の支払いには源泉徴収義務の可能性がある
企業は源泉徴収する義務があるため、方法や期日、特例などについて周知しておくことは重要です。ここでは押さえておきたいポイントを4つに分けて説明します。
1、一定の報酬の場合、支払者である企業に納税の義務がある
所得税の納税義務は、本来は所得を受ける側に発生しますが、所得税法では「源泉徴収義務者」が定められています。
一定の報酬の支払いを行う側は、所得を受ける側に代わり所得税を徴収し、納付する義務が課されているのです。
2、源泉徴収した所得税は原則翌月10日までに納付
支払う報酬から源泉徴収した所得税は、報酬を支払った月の翌月10日までに納付する必要があります。特に月末の報酬などはスケジュールがタイトになりやすいので留意しましょう。
3、「納期の特例」を受けると負担を減らせる
「源泉徴収の納期の特例」を受けると納付の回数を減らすことができます。
対象は、給与等の特定の報酬に限られていますが、1~6月分の報酬は7月10日、7~12月分の報酬は1月20日にまとめることが可能です。特例を受けるには従業員の数が常時10人未満である必要があります。
【源泉所得税の納期の特例を受ける要件】
・給与を支払う従業員が常時10人未満
・申請書を所轄税務署へ提出し、承認を受ける
4、納税が遅れるとペナルティが課せられる可能性がある
源泉徴収した所得税を所定の日までに納めなかった場合、延滞税が加算される可能性があります。スケジュールをしっかり管理しましょう。
■まとめ
源泉徴収の対象となる報酬・料金の範囲は多岐にわたっているため、なかなか把握しにくいものです。
顧問料の源泉徴収の支払いの際には、支払う必要があるかを含めて報酬の内容が適切かどうか確認し、正しく計算しましょう。特に、手取り契約の場合は、源泉徴収金額の計算は注意が必要です。
外部への報酬で支払先が法人である場合は、基本的に源泉徴収義務はありません。なぜなら、法人への報酬で源泉徴収義務があるのは「馬主たる法人への競馬の賞金」のみに限定されているためです。
また、税理士などへの顧問料であったとしても、税理士法人などと契約している場合は、源泉徴収せずに支払ってよいとされています。
経営者が源泉徴収のすべてを把握する必要はありませんが、自分の事業に関する支払い報酬・料金については、きちんと理解することが大切です。
所得税の源泉徴収は企業にとって負担のかかる業務です。創業期にある企業ならなおさら負担が大きいでしょう。
報酬の支払先が法人の場合は源泉徴収の義務はありません。また納付の特例を受けられれば納付の回数を年2回に減らすことが可能です。従業員が10人未満であれば申請を検討してみましょう。
■最後に
フリーランスは、1つの企業に専属で雇用され雇用契約にも基づく従業員扱いではないため、「労働基準法」などの労働法規が適用されません。
例えば、「最低賃金」「労働時間」「休日」「有給休暇」「労働災害での補償」など、会社に勤める人を保護する規定からは対象外となります。
つまり、独立した事業主として、多くを自己責任で進めなければなりません。
フリーランスと同じような言葉に「個人事業主」があります。個人事業主とは「その事業を法人ではなく個人で行う者として税務署に開業届けを提出している人」のことです。
フリーランスの人も税法上は個人事業主のくくりの中に含まれます。どちらも特定の法人や団体に属さずに業務を行い、給与ではなく報酬として収入を得る点は変わりません。
「事業が成功するのは、ある特定のことに対して強い情熱を持つ人物が、『自分たちなら変えられる』『影響を及ぼすことができる』『もっとうまくできる』と思って事業を生んだ場合です。
そして、エネルギーにあふれる創業者が事業を通じて得られる喜びを仲間に伝え、彼らも喜びを感じるようにする必要があるのです。」
<マイケル・ポーター>
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