現在、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大のみにとどまらず、近年、製造業のサプライチェーンのリスクとなる「不確実性」は様々な業界で高まっています。
また、世界各国でカーボンニュートラルやデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが急速に進展しています。
このような中で、サプライチェーン全体を可視化した上での準備や、危機事象の内容に関わらず残されたリソースでの事業継続を図るためにはDXが鍵になります。
DXを駆使した技能承継のナレッジマネジメントを着実に進めることが、今後のレジリエンス強化には不可欠だと言えます。
そこで今回、技能承継とは何か、DXの推進で暗黙知をナレッジマネジメントする必要性について解説します。
■技能承継とは?
技能承継とは、「特定の技能、技術を後継者に伝承すること」になります。単に技能や技術を次世代にバトンタッチするのではなく、「今の指導者を超える新しい指導者を育成する」人材育成のニュアンスが含まれます。
技能承継とは、英語で「Skill succession」と表記されます。日本語では、「技術やノウハウを次世代に伝承して行く」という意味があります。
中小の製造メーカーの場合は特に、技能継承や世代を超えたノウハウの共有することは、事業継続の意味で大きな課題になっています。
なぜなら、技能継承が進まなければ、もの作りを行う製造業では従来と同様の品質を確保することが困難になるなど、企業の競争力にダイレクトに影響することになる可能性があるからです。
技能やノウハウを持つ熟練社員が定年退職するまでというタイムリミットを考えると、多くの企業にとって技能継承は、早急に対処しなければならない課題です。
特にベテラン中心であることが多いものづくりに携わる中小企業では、 技能継承は今すぐ取り組まなければいけません。
経済産業省のアンケートによれば、中小製造業において確保が特に課題となっている人材をみると、「技能人材」と回答した企業の割合が59.8%を占めています。
「設計・デザイン人材」の8.6%や「営業・販売、顧客へのアフターサービス人材」の7.7%などを大きく上回っています。
技能を継承するためには、新たな働き手を確保した上で、地道に技術やノウハウを教え込むしかありません。ですが、日本企業の大多数を占める中小企業において技能継承の影響は深刻です。
なぜなら、人口の少子高齢化が進むなか、中小企業において若手のエンジニア人材の確保は年々難しくなっているからです。
現状、DXの取り組みは、製造事業者に限らず多くの企業において未着手又は一部部門での実施にとどまっており、十分に進んでいるとは言えません。
その背景には、中小企業の場合、即戦力となるデジタル人材の確保が難しいことが挙げられます。
また、DXの推進には、経営ビジョンや戦略の策定による方向付けや、IT環境の構築・活用など、経営トップの判断とトップダウンによる取り組みが必要不可欠になっています。
■DXによる技能を承継する仕組みとは?
ビジネスの根幹は「競合他社との差別化をもたらす、企業固有の技能・技術」だと言えます。
そして技能・技術伝承の対象になるものこそ、そうした固有の技能・技術です。
技能とは、「人に内在する、暗黙知を主体とする能力であり、その人を離れては存在しえず、実際の体験等を通じて人から人へと承継されるもの」と定義されています。
企業が保有する技能・技術には必ず「暗黙知」があります。
暗黙知とは、熟練社員の中に積み上げられた経験と、そこから来る勘や、本人は意識すらしていないコツなどのことです。これらは企業にとっての無形資産とも言えます。
暗黙知は個人の過去の経験から成り立つ主観的な知識、あるいは言語化されていない(できない)知識やノウハウのことです。
主観的な知識である暗黙知を第三者に伝えようとしても、物事の捉え方は人それぞれです。知識の正確な落とし込みは容易ではないでしょう。
このように、「技能」は人から人へ継承されるので、継承するのに長い時間が必要になります。また、人の中に内在する知見になるため、一度失われてしまうと、容易に復活することができなくなります。
そのため、今後は技能承継の受け手となる人材を確保することと、より効果的な技能継承の取組みに、一層の工夫が必要になってきます。
人材育成における企業の役割の重要性は変わることはありませんが、デジタル化等の急速かつ広範な変化が進む中で、今後は、暗黙知をいかに形式知化していくかが求められているのです。
昨今、企業を取り巻く環境の変化により、企業ごとの暗黙知である、経験・ノウハウ・勘などの文化継承が困難になりつつあります。
そこで、「個々の従業員が持つ暗黙知を形式知化する」「形式知化して視覚化された暗黙知を全社的に共有する」というDXによる「ナレッジマネジメント」が注目を集めているのです。
■ナレッジマネジメントが注目される背景
中小企業の製造工程は、従業員の熟練技能を必要とする工程が多く、半数を超える企業が、半分以上の製造工程で熟練技能を必要としています。
従業員規模別では、規模の小さい企業のほうが、生産規模別では、大量生産ではなく、顧客の要望に応えて少量生産する企業のほうが、熟練技能を必要としている傾向がみられます。
ナレッジには、「経験や体験を通して得ることができた知識」「企業にとって有益な情報」「付加価値のある知識や認識」といった意味があります。
ナレッジマネジメントとは、個人の暗黙知を形式知に変換して、作業の効率化や知識の共有などを行うことです。
ナレッジマネジメントの目的は、企業としての価値を高めることで、ナレッジとは、「経験や体験を通して得た知識」「企業にとって有益な情報」「付加価値のある知識や認識」です。
伝統的な日本企業ではベテランの知識や経験が自然継承により次世代に受け継がれてきました。
日本企業の「強み」もこの脈々と引き継がれた知識や経験にありましたが、近年商品市場において大きな変化が起きており、自然継承だけでは競争優位を保つことは難しくなってきています。
ナレッジは、企業にとって有益な情報や経験を通して得た知識のことです。
ナレッジの共有は、自社の企業価値向上につながります。今までは模倣が難しかったような「知識や経験」も、統計学や人工知能を導入した方法が進化したことで「形」にすることができるようになりました。
「ヒト」の中に眠る「知識や経験」の重要性が増したことと「形」として残す技術が発展したことがナレッジマネジメントに注目が集まっている理由になります。
優秀な人材が持つナレッジを社内で共有できれば、従業員の能力やレベルが向上し、企業の業績や価値の向上が期待できるでしょう。
■技能継承がうまくいっている企業の5つの特徴
中小ものづくり企業では、技能継承がうまくいっていない企業のほうが多いようです。そこで、技能継承がうまくいっている企業にはどのような傾向があるのか、特徴をまとめてみます。
1、企業変革力が高い。
環境や状況が予測困難なほど激しく変化する中では、企業には、その変化に対応するために自己を変革していく能力が最も重要なものとなります。
そのような能力を、「企業変革力」「ダイナミック・ケイパビリティ」と言います。
長年にわたって蓄積してきた技能は中小製造業の強みであり、技能人材の不足は中小製造業の存続を危うくしかねません。
不確実性の時代で日本の製造業の戦略は、デジタル人材を獲得し、「企業変革力」の強化に取り組むことが企業の存続と発展に不可欠だと言えます。
2、デジタルトランスフォーメーションに前向き。
IoT や AI といったデジタル技術は、生産性の向上や安定稼働、品質の確保など、製造業に様々な恩恵を与えます。
そのため、デジタル技術が企業変革力を高める上での強力な武器になることは間違いありません。
例えば、脅威や機会をいち早く感知するのに有効なリアルタイム・データの収集や AI の活用、機会を逃さず捕捉するための変種変量生産や「サービタイゼーション」が必要になります。
サービタイゼーションとは、製品を製造し販売するという従来のビジネスモデルと異なり、製品とサービスを統合し、新たな付加価値を提供するビジネスモデルのことです。
組織や企業文化を柔軟なものへと変容させるデジタルトランスフォーメーションは、企業変革力を飛躍的に増幅させるものとなります。
3、競争優位性のあるポジションを獲得している。
これまで、日本の製造業の強みは、製造現場の熟練技能「いわゆる「匠の技」」にあるとされてきました。
ですが、「匠の技」を支えてきた人材の高齢化により、製造技能の継承が問題となるなど、現場の熟練技能に依存することの限界が見えつあります。
そのため、単に新しいデジタル技術を導入するというのではなく、それを企業変革力の強化に結びつけられる企業が、この不確実性の時代における競争で優位なポジションを得ることが可能になります。
しかし、日本の製造業は、IT投資目的の消極性、データの収集やインターネット活用の停滞、老朽化した基幹系システムの存在といった課題を抱えている会社も多いのが現状です。
4、デジタル人材を獲得している。
製造業日本の製造業のデジタル化を進める場合にボトルネックとなるのはやはり、人材の質的不足となります。
製造業のデジタル化に必要な人材の能力として、システム思考と数理のスキルになります。
また、デジタル化に必要な人材の確保と育成の方策について、労働政策の観点からは、デジタル技術革新に対応できる労働者の確保・育成を行い、付加価値の創出による個々人の労働生産性をより高めることが重要になります。
5、技能承継に取り組んでいる
中小企業の製造工程は、従業員の熟練技能を必要とする工程が多く、半数を超える企業が、半分以上の製造工程で熟練技能を必要としています。
今後、ものづくり人材にはデジタル技術を活用できるスキルがより一層求められ、同時に、日本のものづくりの源泉である熟練技能は、多くの企業が、今までどおり必要になります。
ベテランから中堅へ、中堅から若手へと、技能の受け手と伝え手の年代が近く、円滑に継承を進めやすくなります。
加えて、従業員のモチベーション向上につながる取り組みを行って、従業員のやる気を引き出し、自らの成長を促すことがOJTやOff-JTの仕組みをうまく機能させることに繋がります。
■DXの推進に向けて経営者が実践すべき4つの事柄
製造業におけるリモート化の取り組みは、レジリエンス強化のみならず、ノウハウのデジタル化や職人のトレーニングにも活用することができます。
日本のものづくりを支えてきた現場の優れた技術の未来への承継や更なる有効活用にも繋がることが期待されています。
1、ビジョンとビジネスモデルの策定
設計したビジネスモデルを実現するための方策として、デジタル技術を活用する戦略を公表すること。
製造事業者において、効率的かつ戦略的なDX投資を進めるためには、自社がバリューチェーン上で担っている役割(営業、設計開発、製造)などを的確に把握することが大前提になります。
2、デジタル戦略の推進
戦略の推進に必要な体制・組織に関する事項を示していること。組織づくり・人材・企業文化に関する方策ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けた方策を示すことが必要になります。
また、ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標について社内で共有することも大事な取り組みになります。
3、デジタル化の成果と重要な成果指標
デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標について公表していること。
各工程における管理情報の種類・粒度が異なるため、使用するデジタルツールは様々ですが、DX深化には各工程間のデータ連携が重要になります。
例えば、製造現場での無線通信技術の活用も、ダイナミック・ケイパビリティ強化のカギとなります。
状況に応じて柔軟・迅速に組み換えられる生産ラインは、平時のみならず、有事の際も代替生産や増産を可能たらしめ、サプライチェーンの維持に大きく貢献するものと考えられています。
4、ITを駆使したガバナンスシステム
経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略について、経営者が自ら対外的にメッセージの発信を行っていること。
ユーザー企業に加え、OT市場に優位性を有する我が国の産業機械メーカーにとっても重要な分岐点であり、今後、IT市場も視野に入れた事業展開を行うことが競争戦略を策定する上で重要になります。
■まとめ
「伝承」という言葉には「古くから受け継がれてきた伝統を受け継ぐ」という意味があります。技能承継を行う際に大切なことは、「技能・技術の明瞭化」することです。
企業固有の技能・技術とはなにか?その強みとは何か?それを有している人材は誰か?どんな暗黙知があるか?どうやって明確にするか?このことを真剣に考え、明瞭化を実施しなければ技能・技術伝承は成功しません。
技能承継がうまくいっている企業は、ベテランのエンジニアが持っている暗黙知や熟練技能を機械やITで代替しています。
従業員間で承継する技能の種類を少なくすることで、ベテランに依存する生産体制から脱却し、従業員の若返りを可能にしています。
熟練技能を標準化し、マニュアルを作成したり、動画コンテンツやデータベースを活用し、ベテランがもっている経験やノウハウを社内で共有することで、若手でも難易度の高いテクニカルな作業ができるようになります。
機械化やIT化あるいは標準化・マニュアル化できない熟練技能は、ベテランから若手に承継していく必要があります。
そのためには、採用するデジタル人材のターゲットを明確にしたり、自社の知名度を向上させたりして、優秀なDX人材を確保することが鍵となります。
そうして採用した人材を育成して技能を承継するには、技能をITで見える化してOJTを行ったり、Off-JTの仕組みを作ったりすることが重要になると言えます。
また、ものづくり人材の高齢化や技能継承の取組みのためには、様々な技能継承の取り組みを行って行く中で、継承すべき技能を明確にし、熟練技能者を引き続きキーパーソンとして活用することが、技能を確実に継承させるためのポイントになると言えます。
「価値ある事業は、ささやかで人知れぬ出発、地道な苦労、少しずつ向上しようとする、努力といった風土のうちで、真に発展し、開花する。」
<フローレンス・ナイチンゲール>
■最後に
ものづくりの現場では、技能者の高齢化や後継者不足が深刻化しており、長年培われた価値ある技能が失われようとしています。
一方、若者の間では、ものづくり離れが進んでおり、技能について知る機会そのものが減少しています。
日本最大級の顧問契約マッチングサイト「KENJINS」では、技能承継による暗黙知のナレッジマネジメントは、平時から常に備えがあって初めてできるものだと考えています。
技術や経営ノウハウを承継するにしても、会社内に後継者がいれば問題ありませんが、いない場合には後継者を探す、あるいは後継者を育てる必要があります。
経営者や技術者が若いうちには大きな問題にはならないのですが、エンジニアが高齢になったときにはこれらの問題が顕在化するのです。技術承継するにしても直ぐにはできず、時間が掛かるため事前の準備が必要になってきます。
従来、“匠(たくみ)”と呼ばれる熟練技能者のノウハウとその継承・進化が競争力の源泉となってきた製造業においても、これらの課題による影響が顕在化しつつあります。
KENJINSでは、5000人を超えるフリーランスの顧問や副業のプロ人材を集結させており、中小製造業にとって重要になる、ITや機械技術が高度化に合わせて、何が技能かを見極め、人的資産を伝承する仕組みを構築する実行支援を推進しています。
その理由としては今後、こういった課題を克服し生産性向上を両立するためには、ノウハウを「人から人」へ継承するだけではなく、「人からデジタルへ」継承することも大事な取り組みになると言えるからです。
技能承継に欠かせないDX化を推進する技術顧問やノウハウを伝承するために必要なプロ人材の活用なら、「顧問報酬100%」で「中間マージン無し」でダントツの費用対効果を保証するKENJINSに、是非、一度ご相談ください。
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