訴訟大国の欧米企業の間では、「CLO」というポジションを作り「最高法務責任者」が戦略的に法務を推進することが当たり前になっています。
現在、上場企業のコンプライアンスが高まっている昨今、IPOを目指すスタートアップの間でも顧問弁護士に契約書チェックを依頼したり、法令違反によるリスクの指摘を受けるだけでは不十分になっています。
そこで、企業法務に精通した「CLO」を登用することで、企業の経営方針に照らした「戦略法務」を推進し、ベストな意思決定をする企業が増えています。
今回、CLOとは何か「最高法務責任者」の仕事内容とCLOの役割について解説します。
■CLOとは?
CLOとは、英語の「Chief Legal Officer」の略で、日本語で「最高法務責任者」を意味します。CLOは、CEOやCFOと同様、法務部門の「最高責任者」である「CXO」という「ジョブタイトル」(肩書)になります。
法務部門のトップマネジメントとして、法的リスクを最小限に抑えるための指揮を執る役職です。外資系の企業では「GC」「ゼネラル・カウンセル」と呼ばれています。
弁護士資格を有している人材を登用することが多い職種ですが、CLOがその企業の「法律顧問」を兼ねるケースも多いです。
CLOは、契約書のレビューや法律問題へのアドバイスなどの業務を行うという点では、社内弁護士や顧問弁護士と共通しますが、会社から役員としての報酬を貰うインハウス型の「最高法務責任者」としてのポジションになります。
上司の指揮命令に従わなければならない社内弁護士や、あくまでも社外から第三者としてアドバイスを行う顧問弁護士とは異なります。
CLOは、経営者の一人として、取締役と同じ立場で法的な知見に基づき、確かな経営判断を行うことができます。
■CLOの立場が高い欧米企業
アメリカでは、社内での「CLO」(最高法務責任者)の地位は極めて高く、CLOが契約書の中身やビジネスプランの内容を確認して「ノー」と言えば、プロジェクト全体がストップするとも言われています。
その理由としては、巨額の訴訟が多いアメリカでは、企業における法務部の扱いや「コンプライアンス」の解釈も日本企業と米国企業では、大きく異なるからです。
コンプライアンス「compliance」とは、「法令遵守」を意味しています。ただし、単に企業としてビジネスを展開する上で「法令を守れば良い」という訳ではありません。
現在、企業に求められている「コンプライアンス」とは、法令遵守だけでなく、倫理観、公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務を行うことを意味しています。
米国の上場企業のCEOを含めたCXOは、日本の大手企業の取締役と比べると破格の年棒で雇用されます。
その分、CEOには、時価総額を高めることや配当金など、リターンの最大化を求める株主からのプレッシャーが強くなります。
多額のストックオプションや高額報酬などに応えるべく、株価に反映される事業価値の向上、業績向上への強いモチベーションが生まれます。
そして、それに伴い大きな経営責任も負うことになりますが、無理な業績拡大を行おうと法令違反にあたるような経営判断をしてしまい、プロジェクトを推進してしまう可能性が高くなります。
そのようなことを抑制するためにCLOは、法律の専門家であると同時に、単なる法的なアドバイスを超えて、CEOやCOOなどと共に企業の意思決定に積極的に関与していくことが求められる立場にあると言えます。
■訴訟大国アメリカでは万全な備えが必要
アメリカでのビジネスで避けることができないのが「訴訟」です。「訴訟大国アメリカ」などと言われるほど、日本人では考えられないようなレベルで訴訟や裁判が多いです。
日本と米国では法制度が大きく異なるため、米国に進出する企業に日本の裁判所では、あり得ないほど高額な賠償命令が下され、企業の財務に深刻なダメージを与えるケースが多く報告されています。
例えば、米国の訴訟では、ケガを負った責任の所在が本当に企業にあるのかが分からないまま、個人が企業を相手に被告として訴訟を起こされ、なぜか負けてしまうことが頻繁にあります。
アメリカでビジネスをしていると実に多くの訴訟に遭遇します。PL(製造物責任)、知的所有権(特許)、人種差別、年齢差別、性差別、セクハラ、パワハラなども一例です。
こうした訴訟リスクを回避するためには、日本と米国の法制度の違いを理解し、専門知識を持ったCLOを任命し、弁護士チームと迅速なサポートが受けられる体制を社内に構築しておく必要があると言えます。
CLOは会社の役員、経営陣の1人として、複数の専門家からリーガルオピニオンを集めて検証することはもちろん、一般論的な法的リスクの指摘を行います。
会社の状況や方針も含めて総合的に法的リスクを評価し、自社の経営リスクとして管理し意思決定をする責務があります。
■CLOの仕事内容と役割
CLOは全ての法務に関する業務全責任を負うポジションで、法務部門のトップではありますが、従来イメージされてきた法務担当者と違い「より経営に近い立場」になります。
1、CLOの代表的な仕事内容
従来の法務の主な業務である、契約書のレビューや紛争の事前予防的な観点に基づく契約書の作成などの仕事内容に加え、CLOは下記のような業務を行います。
・コーポレートガバナンスの強化
・法的なリスクのマネジメント
・法律の改正や新たな制定に伴う規制対応
・外部弁護士のコントロール
・内部統制システムの構築
CLOは社外からアドバイスを行う顧問弁護士や、法務部の社員として働くインハウスローヤー(企業内弁護士)とは異なり、CEOやCFOと同様、経営責任のある「役員」という立場にあります。
そのため、ガバナンス体制の強化について CEOに提言したり、企業戦略について法務の観点から助言したりと、幅広い役割が求められます。
2、弁護士の意見に反対することも必要
インハウスローヤーや顧問弁護士同じようにCLOも、契約書のレビューや法律問題へのアドバイス業務を行う場合もありますが、CLOは経営者の一人として経営戦略に関わる役割を担うのが大きな違いです。
弁護士とCLOの違いは、以下になります。
・弁護士:企業の代理人やアドバイザーとして第三者の立場で仕事をする。
・CLO:経営者として重圧と責任を受け止め、主体的に企業法務に取り組む。
CLOは、弁護士とは立ち位置が異なり、対応策を採ったとしても残りうるリスクを取るべきか、取らざるべきかという経営判断を行います。
欧米企業と比較した場合、日本企業の会社役員らは、顧問弁護士のアドバイスをそのまま受け入れてしまう傾向にあると言われています。
しかし、CLOが経営に参画する場合には、想定するリスクを鑑みながら経営戦略を踏まえ、最善策を選択するために顧問弁護士のアドバイスに対して「ノー」という勇気も必要になってくるでしょう。
3、CLOに求められる資質
CLOには、企業法務を専門とする一般的な弁護士に比べ、「ビジネスセンス」「経営者としてのバランス感覚」、「決断力」そして、「リーダーシップ」が必要になります。
確かな法的知識をもとにしつつも、法律的な解釈にとらわれすぎることなく、経営陣の1人として時には、会社の発展のためにダイナミックな判断を下すことも必要になるからです。
CLOは、リスクをチェックしたり懸念を指摘するだけでなく、法律知識やスキルを経営戦略に反映させます。
その上で企業価値の向上に貢献」したり、経営問題と密接に関わる法務問題について、経営戦略として良い打ち手を実現することが求められます。
■日本企業でもCLOを任命し「戦略法務」が必要な理由
CLOは、経営者目線でCEOらと共に企業の意思決定に積極的に関わっていくことが必要な立場でもあります。
法律知識やスキルを経営戦略に活かし、企業価値をどのように上げることができるのか、経営問題と密接に関わる法務問題について、より最適な手法を導き出すといった、「戦略法務」を担う役割も担っています。
CLOには、法務問題を検討・構築・処理し最適解を導くといった「戦略法務」を担う大事な役割があります。従来型の法務と比較して戦略法務が「攻め」の法務と言われることがあるのはこのためです。
戦略法務とは、紛争の予防・解決を直接の目的とはせず、幅広く企業活動をバックアップする「新しい法務」と捉えることができます。
戦略法務は、主に経営活動の「攻め(パートナー機能)」の部分にあたり、予防法務、臨床法務は「守り(ガーディアン機能)」にあたります。
戦略法務を効果的に機能させるためには、CLOを配置するとともに、社内の法務機能を強化し、外部の顧問弁護士との役割分担が重要になります。
■まとめ
「CLO」は、英語の「Chief Legal Officer」の頭文字をとった略称で、日本では「最高法務責任者」とも呼ばれます。
コンプライアンスは、欧米企業を問わず、日本の企業も事業をおこなう上で遵守する必要があります。
なぜなら、コンプライアンス違反は、取引先や顧客の信頼や社会的信用を大きく失い、その後の経営に多大な悪影響を与える可能性が高いからです。
欧米では、ビジネスにおける法務の重要性の認識が日本とは異なります。法令遵守はもちろんですが、経営陣の個人的な責任問題が即訴訟になりやすいです。
また、訴訟になった際には、損害賠償額が大きいこともあり、企業経営における法務という機能の位置づけや優先度がとても高い、という背景があります。
持続的な経営を目標にする場合、コンプライアンスの正しい意味を理解した上で、社会から求められる企業像を理解し、法令違反によるトラブルを未然に防ぐことが大事になります。
戦略法務への適性を備えた人材を、CLOとして自社の法務部と外部弁護士の双方で確保し、経営陣とともに経営課題を解決していきましょう。
「ベストを尽くすことが要求され、ベストを尽くしても失敗する可能性があるとき、それは挑戦になる。
そして挑戦すれば、何かが得られる。自分の力を他人に証明するだけではなく、自分自身に証明するチャンスが与えられるのだ。リスクの大きい選択をすれば、自分をより深く知ることができる。そして、共に戦う人のことも。」
<カーリー・フィオリーナ>
■最後に
CLOさえいれば顧問弁護士は不要なのでは?と思われる社長も多いと思います。しかし、そもそもCLOと顧問弁護士では求められるタスクフォースが大きく異なります。
CLOがいれば顧問弁護士が不要、という関係ではありません。顧問弁護士はあくまでも社外の弁護士であり、契約内容にもよりますが、アドバイスまでの立場であることが一般的です。
CEOによる意思決定後は、CLOが決定に基づいた法務のオペレーション、リソース配分にまで責任を持ち、問題があれば解決策を示し、完了するまでの責任を負います。
現在、CLO制度を導入していない会社がすぐにCLOという役職を設置するのは難易度が高いかもしれません。
しかし、日本でもベンチャー企業から大手企業まで、今後CLOのポジションを新設する動きが活発化する可能性は十分ありますので、常に情報収集のアンテナを張り、社内に法務顧問を置く置くことも有効な施策になります。
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顧問弁護士も法務顧問も、社内では裏方と位置付けられることが多いですが、ビジネスを推進して行く重要なプロ人材になります。
特に企業間の契約手続きや訴訟が発生する多い大手企業の場合、「インハウスローヤー」や弁護士資格を持つ優秀な「CLO」が必要とされています。
欧米の会社では、社外取締役の設置が当然のこととみなされ、取締役の半数以上を社外取締役が占めるとも言われています。
日本でも、改正会社法の成立により、上場企業を中心に社外取締役の設置が義務化されたことに伴い、増加傾向にあります。
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