営業活動やマーケティングを推進する際に、「損失回避」に対する人間心理を深く理解することで、相手の行動を促すことに繋がります。
なぜなら、相手の不安を取り除く提案をしてあげれば、購入を検討しても良いと考える人が多く、そこには人間の「思考の癖」というものが存在しているからです。
「プロスペクト理論」を理解すれば、ビジネスで人や会社がそのような選択をするのかが理解できるようなります。
そこで今回、プロスペクト理論とは何か?営業活動にプロスペクト理論を活かすコツについて解説します。
「ほとんどの人は、今持っているものを守ることに必死で、本当に夢見ているものを手に入れるためのリスクを避けている。」
<アンソニー・ロビンズ>
■プロスペクト理論とは?
プロスペクト理論とは、行動経済学の基礎になる理論であり、 不確実性の高い状況下における意思決定モデルの一つになります。
プロスペクトは、英語の「Prospect」のことであり、期待や予想、見込みなどのニュアンスを持ちます。英語でプロスペクト理論は、「prospect theory」として使われています。
プロスペクト理論の基本は、「人間は与えられた情報から、期待値となる事象が発生する確率に比例してものごとを判断するのではなく、状況や条件によって、その期待値を歪めて判断してしまう」というものです。
「行動経済学」における代表的な成果として知られています。
選択の結果、得られる利益がある場合や選択により何らかの損害が出てしまう可能性がある中で、人がなぜ、そのような選択をするかを説明する画期的な理論となります。
■プロスペクト理論のルーツ
プロスペクト理論は、1979年に期待効用仮説に対して、心理学に基づく現実的な理論として、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって論文で発表されました。
期待効用理論の「期待(expectation)」という語に替わるものとして名前に選ばれました。
プロスペクト理論の基本的な考え方は、人は確率の認識を状況や条件によって歪んで認識してしまうということです。プロスペクト理論は分かり難い考え方ですが、以下2つの柱を理解すると、イメージが掴みやすくなります。
・価値関数
・確率荷重関数
価値関数とは、価値の感じ方のズレを示します。人が感じる価値と客観的な価値にはズレがあるという考え方です。
プロスペクト理論において、行動ファイナンスや行動経済学と呼ばれる心理学の要素を応用した、新たな経済学の分野を切り開いたとして、カーネマンは2002年の「ノーベル経済学賞」を受賞しています。
■プロスペクト理論とフレーミング効果との違い
プロスペクト理論とよく似た理論として、フレーミング効果があります。フレーミング効果とは、物事の表現の仕方(フレーム)を変えることで、相手に与える印象が変わる効果です。
この効果はプロスペクト理論に深く関わっていますが、言葉の表現の仕方にフォーカスが当たっている点に違いがあります。
たとえば、「成功率が98%の投資」と、「失敗率が2%の投資」は、成功率でみると変わりませんが、前者の方がよい印象を受ける人が多いでしょう。広告やマーケティング、コピーライティングでよく活用される効果です。
フレーミング効果はなぜ起こるのでしょうか? カーネマン氏とトヴェルスキー氏は、「プロスペクト理論」に関連する、フレーミング効果の発生について次のように説明しています。
人間の価値の感じ方には偏りがある。
・利益が出ているとき:確実性を好み、損失を避ける。
・損失が出ているとき:リスクを負ってでも利益を求める。
■プロスペクト理論により投資家の判断行動が解明
プロスペクト理論は、ファイナンスにおける意思決定において、人々が既知の確率を伴う選択肢の間でどのように意思決定をするかを解明しています。
期待効用理論のアノマリーを克服する理論として論文が作成されました。
「プロスペクト(prospect)」という語は、「期待、予想、見通し」といった意味を持ち、その元々の由来は「宝くじ」になります。
宝くじで1等が当たる確率は1,000万分の1です。例えるならば、精米200kgが1,000万粒と言われていますので、200kgのお米の山の中から1粒だけ当たりの粒があるということです。
行動経済学における最も代表的な理論の一つとして知られており、そのモデルは記述的(descriptive)になります。
規範的(canonical)モデルと異なり、最適解を求めることよりも、現実の選択がどのように行われているかをモデル化することを目指すものです。
個人が損失と利得をどのように評価するのかを、実験などで観察された経験的事実から出発して記述する理論となります。
■プロスペクト理論の認知バイアスとは?
プロスペクト理論により、従来の投資効用理論では説明のつかない投資家の判断行動が現実に即した形で解明されました。
プロスペクト理論では、二種類の認知バイアスを取り入れています。
1、「アレのパラドックス」
「確率に対する人の反応が線形でない。」これは、期待効用理論のアノマリーで「アレのパラドクス」としてよく知られています。
事故に遭遇する確率は限りなく低いのに、みんな保険に入っています。
なぜ、99.9%大丈夫なのに100%の安心を求めてお金を払うのでしょうか?
「アレの逆説」により、投資家は収益よりも損失の方に敏感に反応し、収益が出ている場合は損失回避的な利益確定に走りやすいからだと言われています。
アレの逆説「Allais Paradox」とは、リスクがある選択を行うときに、発生確率によって、一貫性のない選択を行ってしまう現象のことです。
2、「確実性効果」
確実性効果(certainty effect)とは、行動経済学の用語で、100%確実なものに過大な価値を感じる現象のことを指します。
天文学的な確率でしか当たりを引けない宝くじに、「もしかしたら当たるんじゃないか?」と思ってしまうのはなぜでしょうか?
「人は富そのものでなく、富の変化量から効用を得る。」からです。
投資家は損失が出ている場合はそれを取り戻そうとして、より大きなリスクを取るような投資判断を行いやすいとされています。
■プロスペクト理論の3つの心理作用
プロスペクト理論により3つの心理作用が働きます。
1、損失回避性
人間は、「得をすること」以上に「損をすること」を恐れる傾向があります。
利益と損失が同額の場合、利益を得た時の喜びより損失を出した時の苦しみのほうが上回ることが起こります。このような心理作用が「損失回避性」と呼ばれるものです。
損失回避性とは、人がモノを選ぶ際の慣習を指し、利益を得ることより損を回避することを選ぶ傾向があることを意味しています。
2、参照点依存性
例えば、株取引で多くの人は、得をしている場面ではリスクを負って大きな利益を獲得しようとはせず「安定志向」に走ります。
一方で損をしている場面では、リスクを負ってでも大きな利益を獲得しようとするリスク志向」を選択することもあります。このような心理作用が、「参照点依存」です。
参照点依存とは、人がモノを選ぶ際に、絶対的な選択基準を持っている訳ではないことを表しています。
3、感応度逓減性
利益や損失が大きくなるほど、主観的な喜びや苦しみの変化は小さくなっていく。これをプロスペクト理論では、「感応度逓減性(かんのうどていげんせい)」と呼びます。
感応度逓減性とは、同じ価値のある利益や損失でも、その母数が大きくなるほどに感度が鈍くなる心理作用です。
感応度逓減性は、買い物や投資における私たちの行動に直結しています。大きな資産を持った時や多額の借金を抱えた時は、損得への意識が麻痺してしまうため、金銭価格が狂ってしまうことがあります。
■プロスペクト理論の3つの応用例
認知度が低い商品、新ジャンル、これまでにない商品には、プロスペクト理論を活用すると、成約率が伸びやすくなるでしょう
1、フィア・アピール
プロスペクト理論によると、私たちは利得よりも損失を重く評価する傾向があります。この損失回避性を応用したのが「フィア・アピール」です。
フィアとは英語で「恐怖」のことです。「この商品を買わないと損しますよ」というように、顧客が被る損失をアピールし、購買意欲を高めることを狙う交渉テクニックが、フィア・アピールです。
消費者は、人生に不安、恐怖感を漠然にもっています。その不安をベースに不安を明瞭にし、どうすれば不安を除去できるかを訴求します。例えば、 死亡保険、ガン保険、入院保険、火災保険など保険広告は、その殆どがフィア・アピールを駆使した広告に該当します。
フィア・アピールの例として、以下のようなコピーがあります。
・保険商品:「もしあなたが事故にあったら、家族はどうなるでしょうか?」
・害虫駆除:「シロアリは、あなたの大切な家をボロボロにしてしまいます。」
・英会話教材:「間違った英語で、外国人を怒らせてしまっているかもしれません。」
・金融商品:「賢く資産運用をしないと、老後の貯えが心配です。」
フィア・アピールは、様々な商品の宣伝に役立ちます。
「数量限定」「期間限定」なども、フィア・アピールの一種になります。家庭生活でも口内洗浄剤、防臭剤、薬、ベビー用品などの広告に利用されています。
いたずらに危機感を煽るのはよくありませんが、コピーライティングを駆使し、ランディングページ等の伝え方を工夫するだけで、商品の売れ行きを改善できる可能性があります。
最近は、高齢化時代ですので、健康に関わる視点から、販売商品を訴求するメッセージを数多く創造すると売上増に繋がると言われています。
2、松竹梅モデル
松竹梅モデルとは、商品に3つのランクを用意した場合、真ん中の竹に該当する商品が多く売れる仕組みのことです。
松竹梅モデルでは、
「ランクの高いものを購入すれば価格に喪失感を覚える。」
「ランクの低いものを購入すれば、機能を省いた点に罪悪感を覚える。」
「よって、真ん中のランクが選ばれる。」
といったプロスペクト理論における極端の回避性が生かされています。
【福袋購入の際の消費者の期待感】
・梅の福袋は手に取りやすいけど、それなりのものしか入ってなさそう。
・竹の福袋はそこそこの値段だし、変なものは入っていないだろう。
・松の福袋は高いけど、良いものが入っているに違いない。
なお、松竹梅の法則を成立させるためには、「梅」の商品に意味を持たせなければいけません。
それは、松竹梅の商品群全体に対する「アンカリング」の役割になります。アンカリングのアンカーとは、船が海に落とす錨(イカリ)の事で、マーケティング的には商品に対しての「第一印象」を指します。
3、リスクリバーサル
商品・サービスに魅力を感じていたとしても、「損したくない」という気持ちが購入の足枷になることがあります。
人や会社が商品を買おうとしたり、高額なサービスを利用したいと考える際に、「買って損をしたらどうしよう」という不安がよぎります。
せっかく商品に魅力を感じていても、不信感が拭いきれず、購入に踏み切れない顧客も少なくないはずです。
顧客の不安を取り除くことで購入を促す技術が「リスクリバーサル(リスク保証)」です。
リスクリバーサルの具体的なやり方は、次の通りです。
・無料期間を設ける。
・返金保証を設ける。
・アフターサポートを充実させる。
・修理保証。
商品の性質や顧客の属性によって、商品・サービスに抱える不安は変わって来ます。
例えば、高額な情報商材に返金保証を付けた分、成約率が上がり、入ってくる売上の方が物凄く大きくなるというのが、リスクリバーサルを付けるメリットです。
仮にリスクリバーサルを付けることで、成約率が2倍に上がり、数十件以上安定して売れるとしたら、数件の返金が発生したとしても、それ以上に売上として入ってくるものの方が大きいはずです。
リスクリバーサルを用いる時は、見込客が何に対して不安を抱えているか明確にした上で、不安を的確に解消できる施策を実践することが重要だと言えます。
■まとめ
プロスペクト理論とは、理論で行動経済学の理論の一つで、「人の判断は、不確実性がある判断のとき、条件や状況によって、合理的な価値判断ができない場合がある」という理論です。
プロスペクト理論とは、予想した利害額や確率などの諸条件により、人間が行う意思決定をモデル化したものです。
プロスペクト理論によると、人は確率通りに行動せず、状況や条件によって確率を歪めて解釈します。大まかに以下のような傾向があると言われています。
・人は損失を回避する傾向がある。
・それまでの状況によって、判断が変わる。
・扱う金額で損得の考え方が変わる。
プロスペクト理論は、人材育成にも応用できる理論になります。
例えば、新規事業立上げの目標に対して、従業員が失敗する可能性が高いと感じている場合、事業責任者として自ら立候補をするモチベーションが下がる場合があります。
その場合は、経営幹部が事業開発の責任者を募る前に、キックオフミーティングを開催しチャレンジする意味合いを説明すると応募者が増えます。
また、事業開発に際しては、定期的なフォローを行い、目標までに必要な行程を整理する、目標の修正を行うなどすることで、モチベーションが高められるでしょう。
■最後に
プロスペクト理論には、損失をできるだけ回避したがる損失回避性があります。プロスペクト理論における損失回避性から考えると、「人材に不利や損害が生じた場合の心理的損害を考える」「参照点を把握する」必要が生じます。
新規での営業活動では、検討確度の高い顧客先にアプローチすることが売上を上げる「KFS」になります。KFSとは成功への鍵を握る要素、すなわち重要成功要因のこと。英語の”Key Factor for Success”の略語です。
キーマンとの商談が有効だと頭では分かっていても、正社員の営業マンを沢山採用することは大きなリスクになります。
大手企業の最終決裁者に若手の営業マンが代表電話からアプローチしを行い役員クラスとアポイントを取得し、有効商談を行うのは非常に厳しいと言えます。
ホットな新規顧客数を増やすには、リード顧客との人脈を持ち、関係性の深い顧問からの紹介を貰うことが、「プロスペクト理論」という観点からも、リスクが少なく最も有効な「KFS」だと言えます。
日本最大級の顧問契約マッチングサイト「KENJINS」では、大手企業の社長や取締役、決裁権限者など、リード顧客となる会社のキーマンとの人脈を豊富に持つ営業顧問など、5000人を超える顧問をネットワークしています。
営業活動における新規開拓の強化に必要な営業プロセスの改善を図り、「目標を達成するための要因」となる「Key Performance Indicators」を実現することを目的に、営業顧問のチームビルディングを行い、販路拡大に必要な実行サポートを行っています。
リード顧客との人脈と太いパイプを持つ営業顧問ならば、「成果報酬型」で大手企業の役員クラスや決裁権限者への「トップダウン営業」による営業活動の実行支援が可能です。
【無料お試し】が可能ですので、まずは会社アカウントを登録し、是非、どのような営業顧問がいるか選定をしてみてください。
【人数無制限】複数の営業顧問が大手企業の役員クラスを成果報酬型で紹介!
https://kenjins.jp/lp/saleslep/