新規顧客に商品やサービスを購入して貰うためには、顧客の「心を動かす」ことが必要不可欠になります。
その際に絶大な効果を発揮してくれるのが「心理学」のテクニックです。なぜなら、心理学に基づく、営業テクニックを身につけておけば、自分にとって有利な状況を作り上げやすくなるからです。
営業活動は、人と人との心理戦であると言えます。
なぜなら、商談ではヒアリングから提案をした上で条件面などを交渉し、自分に有利な立場を築きつつ、最終的に両者を「Win-Win」の関係に持ち込む必要があるからです。
顧客の購買心理に対して科学的にアプローチして導き出された価値ある「営業心理学」のテクニックは、どのようなタイプの顧客に対しても応用することが可能です。
そこで今回、営業心理学とは何か、新規開拓の商談に営業心理学を活かすポイントについて解説します。
「人間に関することに安定などないことを忘れてはならない。それゆえに、繁栄している時には過度の喜びを避け、逆境にある時には過度の落ち込みを避けなさい。」
<ソクラテス>
■営業心理学とは?
営業心理学とは、営業活動において、売上を伸ばすために行動経済学や社会心理学にもとづく、セールスアプローチ手法になります。
心理学は、人間の思考や気持ちはあいまいな部分が多い一方、科学的に分析できる部分も多々あります。見込客がどのような感情を持っている時にどういった反応を示すのか、そのメカニズムは、ある程度系統立てて説明することができます。
このメカニズムを営業活動で活用することを「購買心理学」と称しています。
購買心理とは「人が物を買うときの原理原則」であり、「営業で使える心理学のテクニック」になります。
心理学のテクニックは、顧客との関係性構築や効果的なプレゼンテーションの実現、成約率向上に役立つものばかりです。
実際、多くの営業マンは無意識のうちに、様々な心理学的な影響を及ぼすテクニックを営業で活用しています。
限られた時間の中で顧客から信頼を得るためには、「営業心理学」が必須であることの現れでしょう。
営業心理学を理解することで、今まで気づかなかった顧客の気持ちの変化に気づけるようになり、より有利に商談を進められるようになります。
■営業活動で営業心理学を取り入れる3つのメリット
営業活動に心理学を取り入れると次のようなメリットがあります。営業心理学の知識を身につけ、使えそうな場面が来たらさりげなく取り入れてみましょう。
1、人間心理に基づく提案ができる。
人間は、脳に支配されていると言っても過言ではありません。それゆえに、人間には自動的に反応してしまう心理テクニックが間違いなく存在します。
その人間心理を理解できれば、営業のトークやアプローチ、テクニックが変わり売上に大きな影響をもたらします。
例えば、こちらの主張など聞く気はないという相手には「ソクラテス・ストラテジー」で対応します。
意見を直接主張せず、質問の中に紛れ込ませることで相手の態度を変えていく技術です。
あるテーマについて相手に何も伝えずに、質問を繰り返していくことで、相手の好奇心を刺激して、テーマについての理解を論理的にだんだんと進めていく心理的方法になります。別名、「ソクラテス式問答法」とも呼ばれています。
【ソクラテス式問答法を適用している実例】
「その考えはどこからきたものですか?」
「どうしてそう信じるようになりましたか?」
「代替手段はなんですか?」
など、複数人同士の対話や、自身への自問にも使えそうな質問となっています。自社製品の質をいきなりアピールするよりも、品質にこだわる旨を顧客自身が発言するように誘導すれば話を聞いて貰いやすくなります。
2、信頼を得ることができる。
心理学をうまく活用することで相手からの好感度が高まり、信頼を獲得しやすくなります。
人はあらかじめ並べられた選択肢にのみ目が行きがちです。交渉のときに示す選択肢は、どれが選ばれても提示側の利益になるものだけに絞ることが大切です。
これは、「ダブル・バインド」 という手法になります。ダブルバインド効果を活用し、「AとBどちらかお試ししてみませんか」と問いかければNOという選択肢が必然的になくなり、営業がしやすくなります。
多くの人は、ベストな提案を受けた際でも「ほかにも選択肢があるのではないか」と疑います。ダブルバインドを上手く活用すれば、相手の選択肢を意図的に絞ることで、ある程度判断をコントロールすることができます。
例えば、相手から自分が意図した選択肢を引き出す「エリクソニアン・ダブルバインド」というテクニックもあります。
エリクソニアン・ダブルバインドは、本来は数多くの選択肢がある判断に際して、予め限定して質問することで意図に沿った選択をさせやすくなる心理テクニックです。
3、説得力が向上する。
丁寧に商品やサービスの紹介をしたからといって、それが確実に相手に伝わるとは限りません。
時には商品にとってネガティブな要素も取り入れることで売上ではなく相手のことを第一に考えて行動しているように思わせるなど、テクニックを駆使して商談に臨むと、説得力が向上し契約に結びつく可能性が高まります。
商品の魅力も大切ではありますが、同じ商品であっても少し表現を工夫するだけで大幅に説得力が高まることは良くあるのです。
説得の基本的な流れとしては、下記があります。
1.興味をひくタイトル
2.問題提起
3.解決策の提示
4.ベネフィット認識
5.行動明示
これも意見を押し付けるのではなく、パートごとに相手に気づきを与える意識を持つことで説得力が増していきます。
選択肢を提示する際は、最後の選択肢が選ばれやすい傾向にあります。これは、最後に提示された情報のほうが印象に残りやすい「新近効果」という効果によるものです。
相手に特定の選択をしてほしいという意図があるケースでは、その選択肢を最後にもってくるようにしましょう。
■営業に使える3つの心理学的テクニック
心理学を身につけていると対人関係を良好に保てたり、営業活動をスムーズに進めることができたりと多くのメリットがあります。
1、単純接触効果
営業においてよく活用されているのが「単純接触効果」です。単純接触効果とは、人は何度も繰り返し触れるものに対して好感を抱く現象のことです。
単純接触効果は、元々興味がなかった物事や人物に対して、複数回接触を繰り返すことで、興味を持つようになる心理的現象です。 たとえば、CMに流れている曲を毎日聞いているうちに、自然と覚えて、歌ってしまうなどが単純接触効果に当てはまります。
営業では成約に至るまでの間、顧客の元を何度か訪れるのが一般的でしょう。これは、長い時間相手を拘束して予定を崩さないようにする効果もありますが、単純接触効果を利用するためでもあるのです。
単純接触効果においては、どれだけ長い時間を過ごしたかよりも、どれだけ頻繁に時間を過ごしたかが重要です。
成約したい営業マンからすればもどかしくも感じるものですが、1回の商談は短めにして営業回数を増やすようにしましょう。
2、バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、特定の状況において自身ではなく周囲の意見にもとづいて意思決定をする心理学用語です。
バンドワゴン効果は「自分の判断ではなく、他者の判断に基づいて自身の行動を決定する」という人間の心理を表した、社会心理学の用語です。
多数の人が支持している物事に対してさらに支持が集まる効果があり、「社会的証明」とも言われています。
バンドワゴン効果は、営業活動だけでなくマーケティングにも活かすことができます。商品の売れ行きがよいことを示して、多数から支持されている商品であると訴えましょう。
商談では「ほとんどのお客様が、うちの商品を選んで頂いています」というように言葉で伝えたり、売り上げデータを使ってプレゼンしたりするのも1つの手段です。
また、商談では忙しさをアピールすることで、バンドワゴン効果を狙えます。自分は多くの顧客を抱えているということを示せば、顧客からの信頼を得やすくなります。
3、決定回避の法則
決定回避の法則とは、選択肢が多い状況では、顧客は自分自身にとって何が最善であるのかを決められないという法則です。
「バックが欲しい!」と思い、選択肢の多い大きなショッピングモールに行ったが、見て回っただけで結局何も買わなかった。
あなたにも以上のような経験があるかもしれません。人は選択肢が多くなりすぎると、考えることを放棄してしまい、結果的に購入には至らないのです。
営業で顧客から信頼を得ようとして、沢山の商品を紹介してしまうのは、成約から遠ざかってしまう行為なのです。
選択肢はなるべく少なくして、顧客が選びやすい環境を整えるようにしましょう。とは言え、あまりに少なすぎると「誘導されている?」と疑われてしまいます。
おすすめは3つです。3つなら異なったパターンを提示できますし、顧客が選ぶのにも苦労しないからです。
■営業心理学の代表的な3つのテクニック
心理学は、ある事象に対する人の心や行動の反応の仕方を科学的な手法で研究する学問で、現代社会において注目を集めています。
1、ローボールテクニックとは?
ローボールテクニックとは、まずは好条件だけを提示して、その好条件に承諾していただいてから、悪い条件を付け加えたり、好条件を取り除いたりする交渉術です。
「ローボールテクニック」という名称は、いきなり投げたら捕球できないような「高いボール(high ball)」であっても、「低いボール(low ball)」から徐々に高さを上げていけば捕球しやすくなる、ということに由来します。
ローボールテクニックが有効な理由は、「一貫性の法則」という心理法則で説明できます。
一貫性の法則とは、行動・信念・態度などを一貫させたいという、人間の心理的傾向です。
「あの人、言ってることがコロコロ変わるよなあ」とは、あなたも思われたくないですよね。人は無意識のうちに、自分の行動や態度に、一貫性を持たせようとします。
一度相手の要求を承諾した場合、その態度を一貫させようと、条件が変わったとしても承諾してしまう傾向があるため、ローボールテクニックは有効なのです。
2、フット・イン・ザ・ドア
フット・イン・ザ・ドアとは、大きな要求を受け入れて貰うためのテクニックになります。
「段階的要請法」とも呼ばれており、最初は小さな要求を受け入れてもらい、最終的に本命の要求を受け入れてもらうというテクニックです。
これは「小さな要求を受け入れると、次の大きな要求も断りにくくなる」という心理を利用しています。
一度イエスと言ったらノーと答えにくくなるという心理を活かしたテクニックで、小さなことから相手の「イエス」を積み重ね、「ノー」と言えないようにして、相手の意思でその答えに行き着いたという状況に持ち込みます。
例えば、試着や試食など「小さな要求」をして貰うことで、商品の購入「本命の要求」をして貰うといった流れにも、フット・イン・ザ・ドアのテクニックが使われています。
しかし、頻度が多くなると、相手の警戒心を高めるため、有効であるのは最初のうちだけと言われているので注意が必要です。
3、ドア・イン・ザ・フェイス
相手が断るであろう大きな要求をして、次の要求を承諾しやすくするテクニック。この方法は「過大要求法」とも呼ばれており、「相手が断る」ことを前提とし、罪悪感を与えて次の要求を受け入れやすくします。
これは、「要求を一度断ったので、もう一度断るのは申し訳ない」と考える心理を利用しています。
例えば、営業で高めの見積額を提示したとします。相手は「これじゃあちょっと高すぎるなあ。もう少し値引きしてくれない?」と言うでしょう。
そして、こちらは値引きに応じます。すると相手は、「せっかく値引きして安くして貰ったし、発注しようかな」と思います。そうすることで、最終的にこちらが心の中で希望していた金額で受注することができるのです。
しかし、譲歩的依頼法により、相手に満足感を味わって貰えるというメリットがあります。
一方で交渉が上手くからといって同じ相手に多用していては、相手に気付かれてしまい、本来の目的も通らなくなってしまいます。
また、相手が必要のないモノを無理に受注を獲得してしまうと、相手が不信感を抱く場合があります。「フット・イン・ザ・ドア」も「ドア・イン・ザ・フェイス」も相手との信頼関係が大切です。
■成約率を高める心理学テクニック
フレーミング効果とは、情報伝達における参照点の表現を変えることで、受ける・与える印象が変わる心理現象です。
フレーミング効果(Framing Effect)は、同じ意味を持つ情報であっても、焦点の当て方によって、人はまったく別の意思決定を行うという認知バイアスのことです。
英語で額縁・枠組みを意味する「Frame」が由来となっています。 情報のどこにフレームを当てはめるかによって、意思決定が異なることからフレーミング効果と呼ばれています。
1.○○製品を導入した9割の企業が利益を生み出している。
2.○○製品を導入した10%の企業が利益を生み出せていない。
大半の人が「1」の例文に好印象を受けるでしょう。その理由はシンプルで、例文の参照点である利益を生み出すのに成功した企業の割合をポジティブな表現で強調しているためです。
「企業の9割が成功」と「企業の10%が失敗」は同じ意味ですが、受け手の印象はまったく異なります。
規範的には同じ決定をしているような場面でも異なる文脈が与えられると異なる判断をしてしまうというフレーミング効果が見られたということです。
告知したい内容や広告、商品のキャッチフレーズの表現を変えたり、何にフォーカスをあてたりするかで対象者に与える印象が異なります。フレーミング効果を知り、効果的に使うことで営業活動に役立てましょう。
■まとめ
営業心理学の考え方を応用すると、商品に説得力を持たせやすくなったり信頼関係の構築しやすくなったりすることが期待できます。
実はトップセールスの営業ほど、営業活動に心理学を取り入れています。
ですが、心理学を応用して仕事に活かすテクニックは、「誰が使うか、どこで使うか、どうやって使うか」によって効果は大きく左右されます。
営業は顧客から課題をヒアリングしたり、ビジネスの説明したり、大勢の前でプレゼンテーションをしたりするなど、コミュニケーションが重要になってくるので、心理学を使える機会が非常に多くなります。
そのため、顧客とコンタクトをとれる機会・時間は限定的であり、短い時間で信頼関係を気付き、成果をあげるためには、心理学を学ぶことが必須になると言えるのです。
心理学を用いることで効率的に顧客との関係を気付き、限られた時間・労力で最大限の成果をあげられるでしょう。
ただし、心理テクニックが効果を発揮するのは、製品やサービスの質がそもそも高いことが大前提です。魅力のない製品をいくら心理学を用いて売ったとしても、最終的な顧客満足度は下がってしまい、企業の継続的な発展には繋がりません。
「人が商品を欲しいと思う心理」は、心が動いた際に抱く心理です。そして、商品のベネフィット(利益)を魅力的であると感じた際に人の心は動きます。
心理学を使う際には、「顧客のため」という営業の本質を見失わなければ、自然な形でテクニックを生かせるでしょう。
■最後に
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