企業が円満にリストラを遂行し、従業員の将来的な可能性を守るためには、ただ解雇を伝えるだけでは不十分な時代となってきています。ときには対応方法を誤ったことによって、従業員との間にトラブルを発生させてしまうこともあるでしょう。
そんな現代だからこそ意識して取り組みたいのが、「アウトプレースメント」と呼ばれる人員整理の方法です。
従業員の再就職支援につなげられるように、こちらでアウトプレースメントの基本と導入方法をチェックし、正しいリストラの流れを把握しておきましょう。
そこで今回、アウトプレースメントの役割とは?再就職でなく顧問が良い理由について解説します。
■アウトプレースメントとは?
「アウトプレースメント(Outplacement)」とは、人員削減をする企業の依頼を受けて、解雇する従業員の再就職を支援するビジネスのことをいいます。
人員削減の頻度が高いアメリカで1980年代から取り入れられるようになったこのビジネスは、日本においては1990年代のバブル崩壊によって余儀なくされた人員削減を発端に、広く利用されるようになりました。
人材派遣や紹介といった他の人材ビジネスとの違いは、求職者を「採用する」企業が採用に至るまでの諸費用を人材派遣会社に支払うのに対し、アウトプレースメントでは「人員削減をする」企業がその費用を負担することです。
雇用調整のためにアウトプレースメントにまで費用を掛けられるということで、比較的資本の大きい大企業で長年勤めた中高年の求職者が多いのも特徴です。
■アウトプレースメントの目的
リストラを行う際の企業・従業員間の摩擦を減らして円満解決を目的としているため、人員整理を行う企業の大多数が外部に委託しています。
委託を受けるアウトプレースメント専門の企業は、労使間の紛争を解決に導くためのアドバイスを行い、求職者に対しては求人の斡旋だけではありません。
カウンセリングや適職診断、キャリアプランの作成指導、履歴書の書き方や面接技術のトレーニング、パソコン講習、電話やコンピューター等の設備の利用などのサービスを提供しています。
このため、アウトプレースメントは必ずしも再就職先を直接提供するだけではなく、突然雇用の中断で精神的な負担を抱えた求職者をカウンセリングによって支え、転職に向けてポジティブな気持ちになるように切り替えてもらうことも重要です。
解雇による気持ちの切り替えと同時に、再就職に向けて必要なサポートを行います。
■アウトプレースメントの特徴
一般に、人材ビジネスとは人材派遣、人材紹介、アウトプレースメントの3つを指しておりますが、この中の人材派遣や人材紹介は求職者が事業者に登録をして職を探しを支援します。
その費用は受け入れた会社が負担するのに対して、アウトプレースメントは、人員削減をする会社の依頼により(本人の同意は必要)職を探し、その費用は人員削減を行う会社が負担するという違いがあります。
ただ、アウトプレースメントのサービス自体は、求職者が自ら見つけて応募する求職活動を含めて、求職者の再就職活動全般に対する各種の支援を行うことにあり、必ずしも再就職先を直接提供することを指すものではありません。
このビジネスは、不況期に突入した時期や、各社が雇用調整を行うような、一般の企業群が苦しんでいる時期に、(世の潮流とは裏腹に)需要が高まり活況になる傾向があります。
また、反対に各社の雇用調整が落ち着いた後や景気が好転した時期には、企業は雇用の維持に方向転換するため、(世の潮流とは裏腹に)苦戦を余儀なくされる傾向がある、とも言われています。
■欧米の「アウトプレースメント」との違い
アメリカにおける「アウトプレースメント」とは、対象者へのカウンセリングや再就職に向けた資格取得など再就職の支援や情報提供であり、直接再就職先を探すことではありません。
アウトプレースメントは、アメリカで1980年代頃から盛んに取り入れられるようになってきたビジネスで、好不況にかかわらず、比較的容易に人員削減をするアメリカにおいて、このビジネスは受け入れられるようになりました。
一方、日本においては、1990年代のバブル崩壊により人員削減を余儀なくされ、その一環としてこのビジネスが受け入れられるようになったのです。
一方、日本のアウトプレースメントでは、有料人材紹介事業が受託しますので、求人を行う企業とも取引があり、欧米よりも丁寧なマッチングを行います。
そのため、リストラ対象となった求職者は解雇後の再就職が確定するまで新雇用先のあっせんが受けられるとの誤解がありますが、再就職を約束するものではありません。
アウトプレースメントビジネスは景気に左右される事業で、企業が人員整理を行う不況期に需要が増えます。
市場規模は年々拡大しており、導入されはじめた1997年の市場規模は38億円、翌1998年には73億円、1999年には146億円、2000年には160億円(出所:厚生労働省「平成12年度労働者派遣事業報告」、「平成12年度民営職業紹介事業報告」、(社)日本人材紹介事業協会「再就職支援事業市場調査」)。
そして2002年には320億円、2005年には400億円と、アウトプレースメント会社数は200社まで伸びを見せています。逆に、企業が雇用の維持に努めがちな好況期には需要が減るため、アウトプレースメント業界にとっての不景気と言われています。
■アウトプレースメントを依頼する企業のメリット
1、納得して早期退職をして貰うことができる
アウトプレースメントを利用することによって、企業側は従業員に納得してもらった上で退職してもらうことができます。
従業員の意思を無視した退職の強要や、理不尽なリストラが問題になることが多い現代において、円満な関係を維持したまま退職を促せるという点こそが、アウトプレースメントを実践する大きなメリットになるでしょう。
早期退職制度などは、ベテランの人事担当者でもわからないことや不安が多い領域です。早い段階からプロのアドバイスを受けてプロジェクトを進めることで、労力の負担軽減や社員の納得度の上昇につながります。
2、再就職希望者へのサポートが手厚い
再就職希望者に対しておこなう支援制度や教育体制を豊富に用意している人材会社は多くあります。支援制度や教育体制には、キャリアカウンセリングやセミナー、資格勉強会などがあります。
このような支援制度があることで、再就職希望者は転職先でのギャップを埋めることができ、転職先の企業にとっても採用後にトラブルが起きるのを防ぐことができます。
退職する従業員だけでなく、企業側も専門家によるアドバイスを受けることができるので、退職に関するシステムを見直せるのもメリットになります。
■アウトプレースメントを依頼する企業のデメリット
1、一人あたり100万円程度の費用
アウトプレースメントには費用が掛かります。この費用は1人当たり50~100万円といわれており、リストラを実施する企業が負担しています。リストラを行うそもそもの原因が企業の経営悪化の場合、この費用が大きな負担になります。
1人100万円として10人で1000万円です。100人の大リストラを行った場合1億円にもなります。
「リストラ対象者に申し訳ない」と思いつつも、この費用の捻出ができないためにアウトプレースメントを導入していない企業もあります。そのため、アウトプレースメントを実施している企業の多くは、資金の潤沢な大企業です。
アウトプレースメントを実施していない企業でリストラになった場合、自ら転職サイトや転職エージェントに登録して転職活動をする必要があります。
2、再就職先が見つからないことも
1人100万円という高額な費用をかけても、すべての従業員が再就職できない可能性もあります。
「求める条件が高すぎる」「就職できる地域が限られており、その地域での求人がなかなかない」「マッチングが難しい人材」など様々な理由で再就職ができない人もいます。
多くのアウトプレースメント請負業者において「9割」「8割」といった数字がアウトプレースメント成功率として紹介されています。この数字を考えると10人に1~2人は再就職ができないままアウトプレースメントのサポートを終えているという結果になります。
しかし、アウトプレースメントがうまく行かなかったからといって再就職の可能性が閉ざされたわけではありません。アウトプレイスメントを委託した業者が持っている求人でのマッチングは難しかったかもしれませんが、異なる企業で転職活動を行うと、持っている求人が異なるのでうまく行くというケースもあります。
■アウトプレースメントの条件
アウトプレースメントを行うためには以下の3つの条件が必要になります。
1、企業都合の人員削減のための退職
2、企業がアウトプレースメントを決定している
3、人員削減対象者がアウトプレースメントでの再就職を希望する
これらすべての条件が満たされて初めて、アウトプレースメントの手続きに入ることができます。
■求職者への提供価値
リストラ対象者の解雇後(場合によっては決定後実際の解雇前から)まず再就職に向けてのカウンセリングが開始されます。
また、再就職決定までには求職者のスキル向上や情報収集のために必要になるパソコンなどの設備も提供。
■どのような人材層が対象になるのか?
人員整理の対象者は多くの場合中高年層の従業員です。
日本の多くの企業では、いまだに年功序列の賃金体系を引きずっており、人員削減には賃金の高い中高年の従業員を選んだ方が、経費削減効果がより大きくなるためです。
また、中高年者はスキルがあっても一般的に再就職が難しく、公開されている求人の数も少ないため若手社員よりもアウトプレースメントでの転職支援サービスを希望する傾向にあります。実際にアウトプレースメントは50歳代が約半数を占めます。
しかし、大規模な工場閉鎖や事業所の統廃合による人員削減が行われる場合、早期退職制度を利用する若手社員の中にも再就職支援を希望するものも多く、こういった場合には幅広い年代層に広がりつつあるといえます。
■アウトプレースメント全体に掛かる費用
通常、求人広告や人材紹介経由で採用を行う場合、新雇用者側が採用費用を負担しますが、アウトプレースメントの場合、人員削減を行う企業が費用を負担します。
アウトプレースメントの費用ですが、以前は1人につき100万円以上が相場という時代がありました。しかし、近年では価格競争激化により、50万円程度というケースも増えてきたようです。
現在のような人手不足の時代ですと、アウトプレースメントの費用自体は下降傾向にありますが、通常、早期退職の場合、退職金を割増して支払いますので、人員削減するために必要とする費用の総額はその人の給料にもよりますが、一般的に一人当たり約700万から800万円だといわれています。
■アウトプレースメント会社が実施する7つのプロセス
再就職支援とは、主として企業様からの依頼により、当該企業様の社員の方の再就職・転籍・出向をご支援するサービスです。
その内容は、キャリアカウンセラーによる個別カウンセリング、応募書類の作成・面接指導といった就労のためのノウハウ提供、再就職先の開拓・求人情報の提供、パソコン研修やセミナーの受講サポート、再就職活動のための場や設備のご提供等、退職から再就職まで多岐に渡ります。
1、カウンセラーとのミーティング
ミーティングでは現在のスキル、転職に向けての希望を具体化します。そのうえで必要なスキルの確認や転職までの時期など目標設定をしていきます。ミーティングでは本人の希望も重要ですが、その人の適性分析も必要です。新たな分野、経験の少ない業種に対応できる可能性が見込まれればアドバイスします。
・オリエンテーション
・支援内容確認、承諾
・カウンセリングスケジュール作成
・ワークシート記入
2、自己分析
自己分析の中には現在のスキルを客観的に知ることも含まれます。必要なスキルを身に着けるため人材紹介業は再就職に役立つスキルや資格の講座を提供します。現在の中高年はパソコンスキルが十分でない人も多く、パソコン資格取得などの講座が人気です。
・自己分析
・職歴、経験、知識等の棚卸
3、目標設定
自己分析と同時に、本人の希望を具体化し、キャリアカウンセラーは希望に沿うキャリアに合った転職先の情報提供をします。転職希望者本人が自らの直接応募先を探す場合もあります。
・意識改革と発想の転換
・求人情報収集と開拓の方法について
4、履歴書職務経歴書の作成・面接指導
転職希望者の履歴書や職務経歴書を含めて応募書類の作成にもアドバイスを行います。
・効果的な職務経歴書、履歴書、DMの作成等の指導
・面接指導
・履歴書、職務経歴書の説明、質疑応答
・今後の進路の明確化、希望条件の確認
・自己アピールと相互理解
5、企業対策
面接対策など転職が成功するポイントを押さえます。
・企業概要、企業内容の詳細説明
・求人条件、内容の説明
・求められる人物像の説明
・直前面接対策
6、面接後のアフターフォロー・意思決定のサポート
面接後再就職が決まるまで、利用者は不安を感じやすい時期です。一度で採用が決まればよいのですが、そうでない場合さらに不安は増加します。再就職先が決まるまでは利用者に寄り添います。
・ご本人の手ごたえ
・求人先からの情報
・今後の対策
・ご本人の採用条件の確認
・求人先と採用条件の交渉
・ご本人との意思確認
7、再就職後のフォローアップ
再就職後には、転職先に慣れるまでは新たな人間関係の構築も含め、転職者は転職活動時期とは違ったストレスを感じます。転職後のフォローアップは重要です。
通常は、アウトプレースメント対象者のキャリアカウンセラーは専任制でサービス終了まで一貫して担当します。このようなプロセスも「日本型アウトプレースメント」の特徴です。
また、クライアント、企業ともに早期の解決(転職を望む)を望んでいることから依頼から再就職までの期間は短くなる傾向にあります。転職先が決まるまで早い人では1か月程度、利用者の半数以上が半年以内に再就職先を見つけています。
■再就職が決まりやすい人には共通の特徴や属性
アウトプレースメントでの再就職活動が長期化すると、再就職希望者、送り出し企業双方に悪影響が及びます。再就職者は不安が大きくなりますし、送り出し企業は新たなリストラ対象者を選ぶときに思った以上の抵抗にあうことになるでしょう。
アウトプレースメント成功に結びつく方法として、、再就職が決まりやすい人の属性や特徴を知っておく必要があります。
1、職種
再就職に結びつきやすい職種は一般的な転職希望者と同様、専門職に就き実績のある人、その実務をサポートなしで実行できる人です。
再就職の受け入れ企業は即戦力になる人材を確保することで、人材育成の時間やコストを抑えようと考えるからです。
2、性格的な特徴
性格的には前向きでチャレンジ精神のある人や性格的にこだわりの少ない人は転職した時にストレスを感じることが少ないといえます。
企業にはそれぞれ文化があり、前向きな人は新たな環境にも自分から馴染もうとしますし、実務的な方法の違いもこだわりが少ない人であれば、これまでとは違う転職先のやり方でも抵抗なく受け入れられます。 また、企業が常に誠実、まじめな人を望むのは言うまでもありません。
3、収入についての正しい認識
アウトプレースメントで転職をする場合は、収入が減少してしまうことがほとんどです。これまでの収入にこだわる人は、再就職先の所得を第一条件にして断ってしまい、長期化する傾向にあります。 し
かし、転職後の収入・所得は転職希望者にとって今後の生活水準に直結する重要な項目ですから、不安に思うことは当然です。
送り出し企業や担当者はカウンセリング段階で老後までの必要金額を試算するなどライフプランを一緒に見直し、求人企業側が提示する給与での再設計プランの提示で不安を解消することも重要です。
4、本人と家族が健康であること
受け入れ企業にとって転職者が健康であることは当然の条件の一つです。それと同様に、家族の健康条件も重要です。転職希望者の家族に身体、心身の健康を害している人がいれば、受け入れ企業から敬遠されやすくなります。
■再就職が決まり易い3つの職種
1、経理・総務・人事
経理や総務・人事は経験が必要な職種です。また実務的なスキルを身に着けるのに時間がかかるのも特徴です。
そのため、即戦力になり得るほど実務経験が豊富で、法的な専門知識を持っていれば再就職が決まりやすいといえます。
2、技術職
グローバル化が進み国家主導で雇用維持型の社会から転職を前提とした流動的な雇用を進めているここ数年は、高度な技術を持った若年層がより条件の良い企業への転職をしています。
この状況の中でSEだけではなく、エンジニアは一定の市場があります。経験があるだけでは十分ではありませんが、汎用性のあるソフトウエアの実務経験者、SEでも設計実務を担える人などは転職先が決まりやすくなります。
3、営業やサービス業
営業職、サービス職も慢性的な人材不足が起きています。縁故を頼るわけではありませんが、人脈が広い人は新規の業種でも実績に結びつきやすいため転職のアピールポイントになります。
また、職種としてはリテール営業や保険営業など、基本給+インセンティブで能力に見合った給与体系の求人が多くあります。
★現業にこだわらないことも重要
共通事項でもご説明しましたがチャレンジ精神のある人、様々な状況に柔軟に対応できる人は転職自体にも前向きに取り組みます。この姿勢は、受け入れ企業にも伝わりますので転職が決まりやすくなります。
逆に、現在の仕事に必要以上にプライドを持ち、職種や業種に強いこだわりを持っている人は面接が決まるまでにも時間がかかりますが、転職自体が決まりにくいといえます。
■まとめ
アウトプレースメントは、レイオフ(人員削減)の頻度が高いアメリカにおいて、従業員とのトラブルを回避し、円滑にリストラを遂行するために利用されてきました。外部に委託するケースがほとんどで、アウトプレースメント専門の会社が多く存在します。
日本でも、バブル崩壊以降、大手メーカーなどがリストラを積極的に実施。多数の従業員を早期退職制度などで削減しました。その際、外部委託によるアウトプレースメントを導入する企業が増え、日本のアウトプレースメント会社の業績は大きく伸びました。
ビジネス環境の変化に合った雇用対策が求められる中で、アウトプレースメントは企業人事の選択肢の一つとして広く認知されてきました。
しかし、現在では、慢性的な人材不足により各社が雇用の確保に努めているため、需要が減少していると言われています。一方で、戦略的な視点からアウトプレースメントを活用する企業が増えています。
雇用のミスマッチ対策を行ったり、従業員の適材適所を考えたマッチング支援をしたりするなど、今後は柔軟な対応が求められそうです。
アウトプレースメント会社は、企業からの依頼に基づいて、退職した社員への再就職支援を行います。
キャリアコンサルタントによるカウンセリングをはじめ、履歴書や職務経歴書の書き方、就職情報の提供、求人先の紹介・開拓、ビジネス・リテラシー教育など、そのサービス内容は多岐にわたります。
現在、再就職を希望する個人がアウトプレースメント会社に自ら登録し、サービスの内容に応じた料金を登録者自身が支払うケースもあります。
■最後に
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