ユーザー視点に立ってサービスやプロダクトの本質的な課題を解決したり、新たな顧客ニーズを発見し、新規事業の立ち上げやビジネス上の課題を解決するための思考法として、「デザイン思考」が注目されています。
ここで言うデザインとは、衣類やインテリア、建築物などを装飾したり、商品を設計し実際に作ったりすることは指していません。
そこで今回、今話題のデザイン思考とは何か、新規事業立上げにデザイン思考が鍵となる訳について解説します。
「物事は漠然と考えていてはだめだ。一心不乱に考え続けているからこそ、睡眠中にふっとアイデアが浮かび上がってくる。」
<安藤百福>日清食品創業者。「チキンラーメン」「カップヌードル」の開発者
■デザイン思考とは?
デザイン思考とは、デザイナーやクリエイターがデザイン業務で使う思考のプロセスを活用して、ビジネスで前例のない問題や未知の課題に対し、最も相応しい解決を図るための思考法です。
従来の企業視点による事業開発とは大きく異なり、ユーザー視点に立ってサービスやプロダクトの本質的な課題やニーズを発見し、ビジネス上の課題を解決するための思考プロセスとなります。
つまり、顧客ニーズを優先し、顧客の声や視点を重視して商品の企画・開発を行い、提供していく「マーケットイン」と同様に、「顧客が望むものを作る」「売れるものだけを作り、提供する」というリーン型の考え方です。
現在、新規事業の立ち上げやビジネス上の課題に対する解決策を探る思考法として注目を集めています。
「デザイン思考」は仮説検証型のプロセスであるため、短期間でソリューションを開発し、顧客からのフィード バックを受けながら修正を繰り返す必要があります。
そのため、リーンスタートアップを駆使したプロダクト開発や小さなチームで開発し、高速でPDCAを回転させてサービスの改善を行うシリコンバレーのIT起業家やスタートアップ企業の経営戦略に親和性が高いと言えます。
デザイン思考の取り組みは、最初にプロトタイプを開発して市場にリリース後、ユーザーの反応を確認しながらバージョンアップ繰り返し、最適なプロダクトを開発する「アジャイル開発」手法にも似ています。
また、開発チームと運用チームが技術的のみならず組織的文化的にも連携することでスピードと品質の向上を目指す「DevOps」との相性が良いと考えられています。
■デザインとは何か?
デザインとは、製品を使う「ユーザー」のニーズに合ったものや解決策を作ることです。デザイナーとは文字通り、製品やポスター、雑誌書籍の表紙やレイアウトなど、さまざまなもののデザインを手がける仕事です。
デザイナーの活動する業界は多岐にわたるため、活動内容によって求められる知識やセンスも少しずつ異なります。
如何に優れたデザイナーであっても、製品を使う人や使う目的をデザインのテーマとして想定していないと、良いデザインはできません。
なぜなら、どのデザイナーにも共通していえることは、「クライアントや依頼者の求めに応じたデザインを考案する仕事」だからです。
例えば、服飾デザイナーに「何でも良いから、服をデザインしなさい」とだけ指示を出しても、デザイナーは困ってしまいます。誰がどんな目的で、どんなシーンで着る服であるかを伝える必要があります。
その理由としては、デザイナーは、装飾する行動に取り掛かる前に、どのような形にするか、どのような配色にするかなどを緻密に設計しているからです。
つまり、クライアントの商品やサービスに対する顧客層と、機能性、コストなど、さまざまな条件を踏まえた上で、最適なデザインを考案することが優秀なデザイナーの仕事だと言えるでしょう。
ニーズや目的を考える、ユーザー視点を考える、試作をするなどのデザイナーが行っている設計の順序をビジネスに取り入れたものがデザイン思考です。
デザインは「設計する」という意味を持ちますが、デザイン思考は、見た目や使い勝手を整える、美しい装飾を考案することだけではなく、使う人や当事者を想定した人間中心の考え方という意味合いもあるのです。
■デザイン思考」が注目されている背景
「デザイン思考」が注目されている背景としては、市場構造の変化があります。
これまで、製品やサービスなどを開発する現場では、マーケットやユーザーニーズを調査し、仮説を設定・検証して製品を開発するという、「仮説検証型」のアプローチが主流でした。
ただ、変化が激しく予測困難なVUCAの時代では、このスタイルがもはや通用しなくなってしまっています。
なぜなら、多額の予算を投下して市場のリサーチを行っても、課題の本質を迅速に捉えることが難しい案件が急増しているからです。
デザイン思考という言葉だけを捉えると、デザイナーなどのクリエイティブな人向けの思考と想像する人もいるかもしれませんが、デザイン思考と一般的なデザインとは大きく異なります。
デザイン思考は、元々、アメリカのデザインコンサルタント会社IDEOによって提唱され世界に広がったもので、デザイナーを問わず、すべてのビジネスマンに開かれた「問題解決手法」です。
人々のニーズ、テクノロジー、ビジネスの視点から、潜在的な問題を発見し、解決策を考えるアプローチ、イノベーションプロセスであり、デザインの専門を越えてビジネスや教育で実践されています。
デザインに必要な考え方や手法がデザイナーに限らず、ビジネスに関わるすべての人にとって必要とされているともいえます。
■デザイン思考の3つの特徴
1、問題解決に最も重視する要素は、問題関係者全ての「満足度」の高さ。
2、問題定義と解決意図を明確にした上で、アイデア出しと組み合わせの試行錯誤を繰り返してブラッシュアップする。
3、前例や固定概念、バイアスといったものは一切排除して考える。
また、急速な技術革新により、社会構造が大きく変化していることも見逃せません。それらの結果として、イノベーションを導きやすい「デザイン思考」がクローズアップされていると言えるのです。
デザイン思考はクリエイティブなセンスに関係なく、思考方法を学んで実践することによりスキルが身につきます。これを継続することで、妥当性と再現性のクオリティが高まり、ビジネスの問題解決に有効活用できるようになります。
■デザイン思考がもたらす4つのメリット
「デザイン思考」を実践すると以下のようなメリットが享受できます。
1、アイデア提案の習慣化
ファッションデザイナーは、衣服や靴、バッグなどファッションに関するアイテムをデザインする仕事です。
そのファッションアイテムのユーザーはどのような人物で、どのような場面で用いられるかといったコンセプトの企画に始まり、いくつも試案のデザイン画を描いて、具体的な形を作っていきます。
「デザイン思考」のアプローチでは、“とりあえず”アイデアを提案してみることが第一歩となります。失敗したらどうしようという意識を持たなくても良いので、提案が習慣化しやすいです。“とりあえず”やってみるというスタンスが奨励されています。
2、イノベーションの創出
現代は様々なモノがあふれていて競合となる企業も多いことから、必ずしも「いいものを作れば何でも売れる」というわけではありません。イノベーションの創出も「デザイン思考」のメリットだになります。
「デザイン思考」は、従来のような市場中心型のアプローチではなく、顧客が求めているものを調査し、それに基づいた製品を企業が開発し、提供していこうという考え方です。
ユーザーを中心にしてプロダクトを設計することで、顧客が本当に求めているものを作り、課題解決に繋がる製品を多く売っていくという考えです。
ユーザーのニーズと向き合い、課題の本質に迫っていくものであり、全く新しいアイデアが生まれやすくなると言って良いかと思います。
3、多様な意見の受容
自社の技術だけではなく他社や大学、自治体などとコラボレーションして外部の技術・アイデアを組み合わせて新しいサービスや価値を作り出す取り組みを「オープンイノベーション」と言います。
オープンイノベーションは、組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことを目的にしています。
「デザイン思考」では、多様な意見を受容することが要求されます。
なぜなら、それぞれの意見に向き合い、合意形成を図っていくなかで、画期的な視点や発見を得られるからです。多様性が重視される現代において、こうしたスタンスが社員に広がっていくのは好ましいと言えます。
4、チーム力の強化
「デザイン思考」はチームのメンバー同士でのコミュニケーションに重きを置いています。
また、思考を進めるための5つのプロセスにはメンバー全員が参加し、役職や上下関係に関わりなく自由かつ公平に「アイデアソン」的に発言することができます。
アイデアソンの目的は、多様性を持った多くのメンバーでディスカッションを行うことで、それまでになかったまったく新しいアイデアや、特定の課題の解決方法を見つけブレークスルーを起こすことです。
自ずと、チームに対する貢献意識も高まるのでチーム力の強化に繋がります。近年では、新たな事業やビジネスモデルの創出の手段として「アイデアソン」が開催されることも増えてきています。
■デザイン思考と関連性の高い3つの開発手法
デザイン思考は、人々のニーズの観察に基づいて課題を定義し、その上でアイデア出し、試作、テストまでの一連の流れを行う課題解決の考え方です。
1、リーンスタートアップ
リーンスタートアップとは、低コスト・短期間で作成した最低限の製品で、顧客の反応やデータを見ながら開発する、新規事業開発に向いているマネジメント手法です。
現在世界を動かしているグーグルやアップル、インテルなどの大企業の発祥地であるアメリカのシリコンバレーで数多くの企業が取り入れています。
リーンスタートアップは、「リーン」と「スタートアップ」をミックスした考え方で、「最も短い時間で効率的に造るために、低コスト・短期間で作成した最低限の機能・サービス・製品を作り上げます。
その上で、顧客の反応を見ながら開発し、イノベーション起こして短期間で大きな成長を遂げていく新規事業の立ち上げ手法になります。
「改善」を前提にPDCAを高速で回転させる手法になるため、プロジェクトが失敗したときのリスクを最小限に抑えられるのが、リーンスタートアップのメリットだと言えるでしょう。
2、アジャイル開発
アジャイルとは、『すばやい』『俊敏な』という意味で、反復 (イテレーション) と呼ばれる短い開発期間単位を採用することで、リスクを最小化しようとする開発手法の一つです。
アジャイル型開発手法にはいろいろなバリエーションがありますが、次のような進め方で開発をします。
(1)顧客とエンジニアが少数精鋭の共同開発チームを作ります。(開発するプロダクトの規模によっては同時に複数のチームを立ち上げることもあります。)
(2)共同開発チームは開発範囲全体をいくつもの短い範囲、おおむね2週間程度でできると思われる範囲、に区分します。そして業務プロセスの優先度を考慮し、どの範囲から着手するかを決定します。
(3)共同開発チームは2週間という期間内に、その範囲の要求の決定、実装、テスト、修正、リリースを行います。
(4)リリースできた機能や残っている業務プロセスの範囲を検討し、次に着手する優先すべき区分を決めます。
3、DevOps
DevOps「デブオプス」とは、開発担当と運用担当が連携・協力し、フレキシブルかつスピーディーに開発するソフトウェアの開発手法です。
DevOpsは、人、手法、ツールを連携させることで、開発チームと運用チームでのサイロ化を解消します。このアプローチを採用すると、アプリケーションやサービスの開発を加速できます。
更には、ITインフラ管理の対応を迅速化することで、変化の速い現在の市場に対応しながらIT製品の導入と更新を行うことができます。
■デザイン思考の5つのプロセス
スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所では、「デザイン思考」を実践する際には、以下5つのプロセスを踏んでいく必要があると提唱しています。
1、共感(Empathize)
共感段階は、人間中心を原則としたデザイン思考の過程において、核となる重要な段階です。共感とは、デザイン課題の文脈において人々を理解する作業を意味します。
人々がどのように・なぜ行動するか、身体的・感情的なニーズは何か、世界をどのように考えているか、彼らにとって有意義なものとは何か…共感は人々を理解するための努力と言えます。
デザイン思考家として、解決しようとする問題が自分だけの問題であることはめったにありません。
それらはあくまで特定の人々が抱える問題です。彼らのためにデザインするには、彼らが誰であり、彼らにとって重要なものは何かを理解しなければなりません。
2、問題定義 (Define)
デザイン思考における問題定義は、デザイン領域に一貫性をもたらし、焦点の絞り込みをおこなうことを意味します。
ユーザーや周囲の環境から学んだことをベースにして取り組んでいる課題を定義することは、デザイン思考家にとってのチャンスであると同時に責務であると言えます。
自らが考えることで、ユーザーのニーズに仮説し概念を打ち立てます。そもそも「概念」とはどういう意味でしょうか。これは、端的に言えば「事物の本質を捉える思考の形式」を意味するものです。
言い換えれば、ある物事について抽象化し基本的形態として捉えたもののことを指します。このときのニーズには、ユーザー自身が気付いていない場合も多いです。
そのため、商品やサービスの要件を定義する必要があります。
「定義」の意味は、「概念の内容を明確に限定すること」とされています。より厳密に言えば、「ある概念の内包を構成する本質的属性を明らかにして、他から区別すること」と解釈することができます。
3、概念化 (Ideate)
創造は、アイデア創出に焦点を置いたデザインプロセスの1段階です。
それは精神的にコンセプトや成果を「押し広げる」ことを意味します。創造行為によってプロトタイプをつくるための燃料と材料を手にし、ユーザーに対して革新的な解決策を提供できるようになります。
ユーザーが実現したいことを定義できたら、それを解決するためのアイデアを出していきます。
このとき、ひとつの問題に対してチームで意見を出し合っていくブレインストーミングなどの手法が有効です。
チームの中で問題・ニーズを導き出していきます。とにかく自由に意見を出し合うことが必要とされますが、広げるだけでなく、そこから深く掘り下げていくことが重要です。
深掘りすることでユーザー自身も気づいていない解決すべき本質的問題が見えてくることがあります。
4、試作 (Prototype)
アイデアが固まったら完璧なモノを目指すのではなく試作品を作ります。Prototyping(プロトタイピング)とは検証・改善を重ねて優れたプロダクトに近づけていく手法です。
最終的な解決策に近づく質問に答えるために、繰り返し加工品を生成する段階です。
プロジェクトの初期段階では「ユーザーは、普通とは違う方法で料理するのを楽しむだろうか?」といったように、質問内容は広いかもしれません。
考えるだけでなくまずは形にしてみることが重要で、形にすることで新たな問題点に気づいたり、アイデアがより具現化できたりします。プロトタイプができたらユーザーに向けてテストを行い、検証・改善を繰り返すことでクオリティをより一層高めていきます。
5、テスト (Test)
テスト段階は、起業家やエンジニアが、プロトタイプに関してユーザーからのフィードバックをお願いし、デザインの対象となる人に対する共感を高めるための時間です。
テストはユーザーを理解するまた一つの機会となりますので、試作品を市場に出して検証を行いましょう。
ユーザーからのフィードバックをもとに適宜改善を行っていきます。洗い出したユーザーニーズが正しかったか、製品が洗い出したニーズにそぐうものになっているかをよく考えましょう。
フィードバックを得たら、必要に応じて1~5の手順を素早く繰り返していきます。
■まとめ
デザイン思考は、ユーザーやクライアントのニーズを前提としてアイデアを発想します。ニーズが軸となるので、ゼロから発想するのではなく、既にあるニーズやプロダクトをより飛躍させる思考法になります。
デザイン思考が求められる理由は、社会の目まぐるしい変化です。
グローバル化やAI技術の発展をはじめとした様々な変化はビジネスにも影響を与え、これまでのやり方では通用しなくなっています。
Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)で構成された「VUCA」という言葉が現れたように、仮説検証型のアプローチでは後手に回る可能性が高くなっています。
不明瞭で複雑な社会に対応するためのビジネスのデザイン力が求められているのです。
「デザイン思考」がそのように呼ばれるのは、デザイナーがサービスやプロダクトを作る過程と関係しています。デザイナーは、まずデザインし、優れたデザイン方法を学び、教えあい、人間中心的なアプローチで自らを表現し、問題を解決していきます。
そして、こうした一連の流れは、もちろんデザインだけでなく、ビジネスや自分たちの日常生活にも活かすことができます。
■最後に
デザイン思考は、ユーザーやクライアントのニーズを土台として、思考を進めていきます。
共感(Empathize)、定義(Define)、概念化(Ideate)、試作(Prototype)、テスト(Test)のプロセスを辿り、ニーズ調査や試作、テストを繰り返して新しい製品やサービスを生み出す思考法です。
企業の成長を促す新しい手法として、オープンイノベーションが注目されています。成長し続けている企業では、アイデアソンを活用して外部のプロ人材やアイデアをうまく取り込み、多くのイノベーションに成功しています。
その際、経営者がデザイン思考ノウハウに乏しく、マーケティングの知識や競争優位性を生み出すスキルを持っていないようであれば、その価値がユーザーに届かず、売れ行きが上がることはありません。
そのような際に新規事業立上げやマーケティング戦略の壁打ち相手となり、デザイン思考を駆使し新規事業開発をサポートしてくれる優秀な顧問やコンサルタントが限界を突破する大きな武器に可能になります。
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