ベンチャー企業の資金調達は、過去の借り入れ金の返済実績がなく、資金調達が必要なタイミングで銀行から多額の融資を受けることは難しいと言われています。
一方でエンジェル投資家は、起業間もないスタートアップ企業に対しても、積極的に出資してくれることがあります。
そこで今回は、エンジェル投資家とは?個人投資家からエンジェル投資を得るコツについて解説します。
■エンジェル投資の基本
エンジェル投資家について、「個人銀行」のようなイメージを持ち、お金の出し方もそれほど変わらないのではないかと考えている人がいますが、全く異なった考え方に基づいています。
まず、銀行が出すお金は「融資」で、エンジェル投資家が出すお金は「投資」です。
銀行から融資を受ければ、そのお金は返さなくてはなりませんが、エンジェル投資家から出資を受けたお金は返す必要がありません。エンジェル投資家は、投資したお金を企業から直接回収せず、将来そのベンチャー企業が株式上場した際の出資金のキャピタルゲインを得ることを目的としているからです。
■一般の株式投資とエンジェル投資の違い
一般の投資家は、企業が安定して利益を生むように成長し、株式の配当という形で継続的に利益を売ることを期待しています。しかし、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などが、このような形を望みません。
その企業が他の企業に買収されるか自ら上場するかといった「エグジット」の時点で損益を確定したいと考えています。つまり、継続的かつ安定した利益についてはあまり期待していません。
■エグジットとは?
エグジットとは、スタートアップの創業者やベンチャーキャピタルの投資資金回収手段または方法のこと。 具体的には上場した後、株式を売却して利益を手にしたり他の企業に買収された際の利益を手にしたりすること。
エグジット(出口)とは、投資家の場合、株式上場や他の企業に買収されることの2つをいいます。
こうした独創的な技術を評価する際の基準に、「10倍ルール」という基準があります。10倍ルールとは、従来の製品やサービスと比較して、10倍以上の価値を提供できる技術・サービスを持つ企業にのみ投資するというルールです。
投資額の5000倍や1万倍のリターンがあることはめったにないものの、50倍から100倍のリターンは得る可能性が十分ある。これを投資家は期待しているのです。
■エンジェル投資家がなぜ投資をするのか
エンジェル投資家の目的は、出資したお金のキャピタルゲインを売ることです。
例えば、かつてのアップルやマイクロソフト、グーグルやフェイスブックも同様です。これらの世界的な企業も、スタートアップ当時は、独自のプロダクトを開発していたものの、ごく少数のユーザーが使っているに過ぎない未上場企業で、会社の評価も低かったのです。
しかし、この投資リスクが非常に高いスタートアップ企業に投資をする賭けをするのが、エンジェル投資家です。
ただ、エンジェル投資家のなかには、賭けという気持ちがなく、純粋に「起業家のビジネスに共感し、社会の課題を解決したいという思いをサポートしたい」という思いから投資をする人も多くいるのも事実です。
■エンジェル投資家から支援を受けるための5つのポイント
実際にエンジェル投資家から支援を受けるには、出会うことはもちろん、自身の事業の魅力をプレゼンテーションして「出資の価値あり」と認めてもらう必要があります。ポイントとなるのは次の3点です。
1、エンジェル投資家との出会いを作る
どんなに優れたビジネスプランがあっても、まずエンジェル投資家と出会わないことには話が始まりません。
マッチングセミナーに出席することもいいですが、ニュースなどを通じて情報を集め、これはと思う人に直接メールを送ってコンタクトをとるのも有力な方法です。まずは、ピッチコンテストにエントリーするなど、エンジェル投資家とつながりを持つことから始めましょう。
ピッチコンテストとは、いわゆる「ピッチイベント」の出来を競う催しとなる投資家向けに事業の魅力や差別化優位性を伝えることで、最終的にファイナンスを含めた応援をして貰うことをゴールにするイベントのことです。
「ピッチイベント」は、自社の事業計画や将来性を短時間で端的に述べ伝える催しであり、主にスタートアップ企業が投資家から出資を募るために行われれます。
ピッチコンテストの場合は複数の発表者となる起業家が登壇し、その中から大賞あるいは最優秀賞を選ぶ形式で行わます。
2、エンジェル投資家が投資したくなる事業であること
エンジェル投資家は、出資金のキャピタルゲインを得ることを目的としていますから、将来性の高い企業に投資を行いたいと考えます。
逆に言えば、将来株式上場を目指さないような企業については、いかに事業の成長性・収益性に魅力を感じたとしても、投資を行う対象とはなりません。
エンジェル投資家が、その事業に投資するか否かを決断する時には、プロダクトの市場適合性とエグジットを見ます。
プロダクトの市場適合性とは、その事業の創業者が考え出したコンセプトを実際に使っているユーザーを見出だす作業をいいます。大勢のユーザーがそれを楽しんでいることが分かれば、そのビジネスにはトラクションを確認し十分成功する可能性があると判断されます。
トラクションとは、牽引力を指します。つまり、スタートアップで「トラクションが足りなかった」ということは、「一定数の顧客を掴めなかった、もしくは成長する兆しが見えない」ということになります。
ですので、プロダクトやサービスの重要な指標になるのです。失敗したスタートアップのほとんどはプロダクトやサービスを持っていました。持っていなかったのは十分な数の顧客です。
人々が望むプロダクトを創ることと、そのプロダクトの市場性の確認は同じぐらい重要だということです。
3、プレゼンテーション力を磨く
「相手に伝え、理解を得て、行動してもらう」という点においては、プレゼンテーションもピッチコンテストも同様になります。
あくまでも「会社の経営資金を得るために競い合うもの」という意味合いが強いピッチコンテストは、プレゼンテーションとは重要度とその目的が大きく異なります。
エンジェル投資家に認めてもらうには、将来性のある魅力的なビジネスプランとそれを伝える力が必要不可欠となります。
事業を行う目的、社会に与える影響、それらを達成するためのビジネスプラン、事業の将来性や収益性、投資によって投資家は何を得られるのかなどを簡潔にまとめ、伝える力が問われます。
ピッチコンテストで優勝すれば自ずと露出が増え、業界内外で話題になる機会が増えます。
4、魅力的な事業プレゼンを工夫する
魅力的なスピーチに欠かせないのは、投影スライドをはじめとした前段階での準備でしょう。
自社の商品サービスがなぜ良いのかというポイントを、できれば数値などわかりやすい指標を交えて作ります。
市場全体が延びている、自社が特許を持っている、競合に負けない要素がある、この分野で何年継続して利益率を上げているなど、観客を納得させるに足る理由が必要です。
また、1スライド1ポイント程度のメッセージ性におさまるような、完結で分かりやすい資料にします。
アピールをしたいという気持ちが先走るあまりごちゃごちゃした内容にならないよう整理し、スピーチを聞き終わった時に観客の記憶に残るポイントが5~7点程度にするのが理想です。
観客は回のピッチコンテストで複数の会社の話を聞くことが多いので、情報を詰め込みすぎるのは逆効果になってしまいます。
また、設定された時間の中で盛り上がりを作れるよう、時間配分やアニメーションの作成にも気を配りましょう。人前で話すのに自信がない人は原稿メモを基に、何度か練習をしましょう。
5、起業家自身の人物像を分析する
まだ実績のないベンチャー企業が出資を受けるには、ビジネスプランと同等かそれ以上に創業者がどんな人物かが重視されます。
体力や行動力、強い意志、粘り強さなど、創業者に求められる資質は数多くありますが、「人から応援したいと思われるのはどんな人か?」を考えることがヒントになります。
成功者に共通するのは、「情熱」と「粘り強さ」、すなわち「才能」じゃなく「やりぬく力=GRIT(グリット)」です。
グリットは、ペンシルバニア大学心理学教授のアンジェラ・リー・ダックワース氏が定義したスキルで、困難に直面しても、自分の情熱やエネルギーを持って目的を遂しとげる力のことを指します。
また、脳科学者である茂木健一郎氏は、著書「続ける脳 最新科学でわかった!必ず結果を出す方法」において、グリットを「困難があっても、続ける力」「情熱を持って取りくも粘り強さ」と表現しています。
起業家として、グリット・スコアの高い人ほど「私のやっていることは、社会にとって重要な意味がある」」など他者志向の目的に関連する数値が高いことが分かっています。
つまり、やり抜く力が高い人ほど、他者(あるいは社会)への貢献に意義を見出しているのです。
■投資を受けるために必要なのは人間力
エンジェル投資家は、投資するか否かを判断する際に、起業家の資質を重視します。
では、エンジェル投資家が考える「成功する起業家」とはどのような資質が求められるのでしょうか。
この点について多くのエンジェル投資家は、成功する起業家とは「強い体力」「圧倒的な自身」「チャレンジする目標設定」「リスクを恐れない」「失敗を活かす力強さ」を兼ね備えた人物だと答えます。
起業家にとって、大事な資質というか戦略はいくつかありますが、その中でもかなり有名であり、よく引用されるのが、ピボットとグリットです。
ピボット(Pivot)とは、本来「回転軸」を意味する英語ですが、転じて企業経営における「方向転換」や「路線変更」を表します。
例えば、SNS企業であったmixiやGREEがモバイルゲーム会社に転じて成功したように、ピボットはスタートアップにとっての有効な戦略として語られることが多いものです。
エンジェル投資家の支援を受けるには、「私は、この魅力的なビジネスプランを実行できるだけの人間だ」と、しっかりと示す必要があります。決して簡単な道ではありませんが、得られるメリットは非常に大きなものなので、プレゼンテーション力を磨き上げてください。
起業家の興味と目的が両方存在した時にこそ、やり抜く力は最も高まります。この状態になるためには、自分が今興味を持ってやっていることが「誰の役に立つのか?」を考えてみる必要があります。
そうして発見した目的こそが、起業家としてのやり抜く力を強化する大きな原動力になります。もちろん結果が出るまでは時間が掛かるでしょう。
しかし、やり抜く力があれば、あなたの夢に賛同するエンジェル投資家が必ず現れ、人生を賭けた大きなミッションを成し遂げられるはずです。
■最後に
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