どのようなスキルを身に付ければ、市場価値が上がり年収アップに繋がるのかと聞かれることがあります。
その答えは、一つのスキルを卓越の領域まで極めつつ、得意分野だと言い切れる複数のスキルを磨き上げることです。
なぜなら、変化が激しく、あらやるものを取り巻く環境が複雑性を増し、想定外の事象が発生する将来予測が困難な「VUCA」(ブーカ)の時代では、単一スキルを身に付けているだけでは、将来に渡っての生き残りが厳しいからです。
一つの分野だけでなく、複数の分野で専門家を名乗れるマルチな状態になれば、個々の能力が一層高まり、卓越したスキル同志のシナジーが起きるため、鬼に金棒だと言えます。
そのようなマルチスキルを持つことを「スキルセット」と呼びます。
そこで今回は、スキルセットとは何か、複数のスキルを持つプロの市場価値が高い訳について解説します。
「世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。その道はどこに行き着くのか、と問うてはならない。ひたすら進め。」
<フリードリヒ・ニーチェ>
■スキルセットとは?
スキルセットとは、職種、役職によって必要とされる知識や能力を指します。肩書が上がる程、多くのスキルセットが必要だと言われています。
複数のスキルが「束」になっている状態を意味することから「スキルセット」という言葉が使われています。
例えば、ゼロから創業して会社を大きくした経営者のスキルセットでは、マネジメントスキルやロジカルシンキングスキル、問題解決スキルなどそれぞれが卓越された状態になっています。
優秀な社長の多くは、会社経営に必要な様々なスキルが1人の人間の中でスキルセットが高まり、「束」となっています。
複数のスキルを組み合わせたスキルの「掛け算」ができるためレバレッジが効き、単一スキルのみのビジネスマンよりも、スキルセットという観点でパフォーマンスが高くなります。
■スキルを二つ以上持つスキルセットの必要性
スキルの掛け合わせである「スキルセット」は、時代の流れに対応して“仕方なく”習得を目指すものではありません。
スキルの掛け合わせは、単一のスキルによるパフォーマンスの枠を超えて、思わぬシナジー効果を生み、新たな価値を創造するための個人の「キャリアデザイン」の戦略でもあります。
そもそもなぜスキルを二つ以上持つ必要があるのでしょうか?その理由は大きく分けて三つあります。
1、ビジネスモデルの短命化に備える必要性。
1983年頃、「会社の寿命は30年」と言われていた事業寿命が短くなり、10年以内に半分以上のビジネスは淘汰されると言われています。
事業ライフサイクルにも「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つの時期があります。プロダクト(製品やサービス)と事業のどちらも、社会や市場の変化に合わせて対応することが事業の発展と継続の鍵になります。
当然ながら、ビジネスマンも年齢にとって必要とさせるスキルが異なります。
・20代:実務処理能力
・30代~40代前半:チームマネジメント力
・40代後半~50代:経営力
終身雇用が崩壊した今、40代や50代になってスキルに乏しいと、大手企業ではリストラの対象になる可能性があります。
実力主義のアメリカでは、優秀なビジネスマンの多くは、複数のスキルを身に付けています。
日本でも成果主義に移行する流れが加速している今、誰しも次の成長ステージを見据えて、スキルセットを磨き続けねばならないと言えます。
2、技術のコモディティ化が起こっている。
Web開発の技術に関してコモディティ化している企業と先進的な取り組みをしている企業の差別化が進んで来ています。
人材のスキルという観点でも一昔前の技術スキルはコモディティ化が進んでいます。
例えば「Rails(Ruby)とEC2(AWS)で開発して、運用していました」というだけでは、市場価値として差別化が難しく、評価が厳しくなる傾向があります。
先進的な取り組みの企業にとっては、「知っていて当たり前、使えて当たり前」という評価になるため、スキルのベースラインを超えていないエンジニアは、モダン開発企業に対しては選択肢が狭まる傾向にあります。
エンジニアで更に上のキャリアアップを考えている人は、ベースラインを超えつつ特徴的なスキルが必要になると言えます。スキルセットにより、企業内で数人しかいないレベルのエンジニアは、技術スペシャリストとして市場価値が非常に高くなります。
3、仕事の消滅に備える必要性。
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は、「今後10~20年で約47%の仕事が自動化される」という衝撃的な論文を発表しました。
この論文でオズボーンが伝えたかったのは、「AIによって人間の仕事が奪われる」ということではなく、「テクノロジーが人類に新たな雇用機会をもたらす」ということです。
そのような時代になったとしても、ダブルメジャー「スキル×スキル」があれば、機能かデザインかの二社択一ではなく、両方を備えた統合したオリジナルの強みが生まれます。
この「統合」をスキルセットを作り出すことができる人材こそが、今後必要とされる人材だと言えます。
■非認知能力を磨き上げる重要性
これからの社会を生きて行くビジネスマンにとって、「非認知能力」を身に付けることは、将来を左右するほど重要なスキルと呼ばれています。
非認知能力は、英語では「Non-Cognitive Skill」、OECD(経済協力開発機構)では、「社会情動的スキル」と言い表されます。
・「認知能力」:読み、書き、計算など、IQや学力テストで測定できる能力
・「非認知能力」:数字で測定するのが難しい能力
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのレズリー・モリソン・ガットマン准教授と、ロンドン大学のイングリッド・スクーン教授は、非認知能力として以下の8つの要素を挙げています。
1.自己認識(Self-Perceptions):自己効力感、やり抜く力
2.意欲(Motivation):モチベーション、やる気
3.忍耐力(Perseverance):根気、我慢強さ
4.自制心(Self-Control):自分をコントロールする力、精神力
5.メタ認知戦法(Metacognitive Strategies):自分の能力を把握する力
6.社会的能力(Social Competencies):リーダーシップ能力、社交性
7.レジリエンスとコーピング(Resilience and Coping):回復力、ストレスへの対処能力
8.創造性(Creativity):生み出す力
非認知能力は、「ストレス耐性」にも大きく関わっています。
学生時代に成績が優秀で有名大学に入れたにも関わらず、社会に出て苦戦する人がいます。
このようなビジネスマンの傾向としては、受験戦争を勝ち抜く「認知能力の向上のために、非認知能力を培う努力を犠牲にしてきた」からだと言われています。
反対に、共感力やコミュニケーション能力、協調性や忍耐力、回復力、やり抜く力などの非認知能力などのスキルセットが高い人は、新しく出会った人々とも協力し、トライアンドエラーを繰り返すことができ、ストレスに非常に強いという特徴があります。
■企業の人材採用ではスキルセットで判断される
人材採用にあたっては、その人が保有する知識や技術、経験などを総合的、包括的に評価し、対象職種や役職のスキルセットにマッチするかを判断します。
専門職の採用であっても、固有技術や専門知識だけで評価されるケースは少なく、専門性を発揮するためのスキルもあわせて求められます。
それがコミュニケーションやマネジメントなどの「普遍的なスキル」です。専門分野はトレンドによる優位性に左右されますが、普遍的な部分は役割や技術が異なっても同じように必要とされます。
“専門的なスキル”と”普遍的なスキル”のバランスがより高い人材評価に繋がって行きます。今後の社会においては、デジタルスキルなくしては、新たな事業を考えることさえできなくなります。
また、“DX人材”には高度なデジタルスキルだけでなく、社会や企業そのものを変革していくための「高いビジネススキル」と「チェンジマネジメント力」も必要になるでしょう。
スタートアップのCEOやCTOには、新規事業を通じて世の中にイノベーションを起こすことが必須要件になるため、失敗を繰り返しながらも「トライアンドエラーで成長していく推進力」が必要です。
DX時代は、ゼロイチを生み出す“D人材”と、既存のビジネスをデジタルで変革する“X人材”の2種類の人材が必要であり、どちらのタイプの人材を求めるのかによって、スキルセットが変わるのです。
■ビジネスで求められるスキルセット
エンジニアに必要なスキルセットだけではなく、ビジネスで求められるスキルセットもあります。それは「成果に繋がるスキルセット」です。
1、コアスキル
コアスキルは、職種が変わっても必要とされるスキルです。考える力や伝える力がこれにあたります。
コアスキルというのは、基礎学力であったり社会常識(業界内や職種毎にある常識を含む)、モラルやマナー及びコミュニケーション力など社会人としてベースになるスキルです。
2、スペシャルスキル
スペシャルスキルというのは、資格や経験などそのお仕事を通じて形成される(積み上げられる)スキルで、商品知識やセールステクニックといったその職務の遂行に必要なスキルとなります。
職種による専門性の高いスキルで、資格や特定の業務やプロジェクトの経験がこれにあたります。
職務上必要なスキルだけではなく、どんなスキルを組み合わせ、どんな経験を積むことでキャリアを形成していくのか、俯瞰して考えることが大切です。
■営業職に求められるスキルセット
営業職に求められるスキルセットは、上で見たビジネスパーソンにとってのスキルセットがまずは基本となります。
それに加えて、自社商品・サービスやお客様に関わる知識、コミュニケーションやプレゼンテーション、マーケティングなどのスキルが必要となります。営業職に必要なスキルを具体的に見ていきましょう。
営業職で必要とされるのはスキルは、まずはコミュニケーションです。それは、営業職はお客様とコミュニケーションを取りながら商品やサービスの提案をする仕事であるからです。
他には、主に以下のようなスキルが必要とされます。これらを合わせることが営業職に必要なスキルセットと言えます。
・ストレス耐性
・情報収集
・データ分析
・マーケティング
・プロジェクトマネジメント
営業職にはコミュニケーションスキルに加えて、営業活動をコントロールするマネジメントスキルも重要となります。
様々な商品やサービスを、多くのお客様に提案するため、それぞれの活動内容を把握し、進捗状況をマネジメントすることが必要です。これには、同じチームメンバーのマネジメントや、社内の他部署との調整・折衝なども含まれます。
■まとめ
スキルセットとは、自分が有している知識や技術のことで、特にIT関係で多用される言葉です。
IT技術の進化は目覚ましく、専門性を高めて1つの言語をマスターしても、すぐにそれに代わる言語や技術が生み出されます。
最近では技術スキルのコモディティ化が進んできているため、転職や就職に際し、企業とエンジニアの「技術スキル以外の部分のマッチング」が大事な要素になっていると言えます。
そこで大切にしたいのが、スペシャリストとしてのスキルセットだけではなく、考える力や伝える力などの、職務が変わっても必要とされるコアスキルセットです。
どんな状況でも対応ができる力を磨くためにも、専門性だけにとらわれず、多彩な経験を積み、多様なスキルセットを取得することが大切です。
日本の雇用は長らく「終身雇用」「年功序列」といった雇用形態で、個人のキャリア形成をサポートして来ました。
しかし、「終身雇用」「年功序列」といった今までの雇用形態が崩壊を迎えた今、スペシャルスキルの積み上げ(キャリア形成)を個人主導で行わなければなりません。
自由に使える「時間の30%」「収入の10%」は、自分へ投資する時代に変化したと言えるでしょう。
■最後に
アメリカのビジネスマンは、年収アップを目的にして、スキルセットを武器に気軽に転職することが当たり前になっています。
しかし、複数回の転職を続けている人の中には、「個人の価値観と企業の価値観が合うところ」を探しているビジネスマンも増えているようです。
「技術的にやりたいこと」「関わりたいビジネスのジャンル」「働き方」などのさまざまな価値観の軸と、企業の「ビジネス内容」や「文化」のマッチングを、年収アップよりも優先している人も多くいます。
そういう人は働くモチベーションや承認欲求の満足度を求めて転職活動をし、入社後はモチベーションが高く勤続年数も長めになるので、企業も成果を出してもらえてWin-Winになりやすい傾向があります。
一方でアメリカでは、高学歴の人ほど正社員ではなくフリーランスになる人口の割合が高く、大学院卒業以上の学歴を持つ労働者の51%がフリーランスになっています。
クラウドソーシングプラットフォーム大手のUpworkが行った調査によると、昨年2021年のアメリカのフリーランス人口は5900万人で、アメリカの全労働者の36%を占めたそうです。
Upworkによると、現在はフリーランスではない、エンジニアリングなどの高度なスキルを持った正規労働者の56%が、将来フリーランスになると考えているレポートがあります。
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スキルセットを高める意味では、プロ人材としてスキルを武器に、副業の仕事にチャレンジすることも効果的です。
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