M&Aの現場において、統合直後は会社全体が混乱しがちです。統合準備が不十分な場合、業務上の重大なミスやシステム障害などが発生します。
その結果、顧客離れや優秀な社員の離職、ビジネスの業績悪化、内部対立の顕在化などを招き、M&Aが企業の成長力を損なう無意味なものとなってしまいます。
戦略的にM&Aを成功に導くには、PMIの重要性を認識する必要があります。
そこで今回、PMIとは何か、M&Aでは社長が率先してMPIに取り組む必要がある訳について解説します。
「経営統合をした後は、統合作業を急がないのが信条です。欧米企業と違い、日本企業の社員はM&Aに慣れていない。欧米のように資本の論理で組織を変えてしまうと、後でしこりが残ってしまい、結局は相乗効果が生まれないと考えているからです。」
<小林喜光>
■PMIとは?
PMIとは、企業がM&Aを行う際に、当初計画したM&A後の統合効果を最大化するための「統合プロセス」を指します。
M&A直後の混乱を防ぐためには、以下に留意しながら経営、業務、企業風土などに対してPMIを行うことが、M&A成功のカギを握ります。
・初期段階で統合阻害要因などに対して事前検証を行う。
・検証の結果をもとに統合後にそれを反映させて組織統合マネジメントを進める。
PMIは、「Post Merger Integration」「ポストマネージャーインテグレーション」の略ですが、M&Aによる統合の対象範囲は、経営、業務、意識など統合に関わるすべてのプロセスに及びます。
M&Aの効果を最大化するためには、PMIを考慮し、経営統合、業務統合、意識統合の3段階からなる統合プロセスに取り組む必要があります。
PMIが上手くかなければ、M&Aの効果が十分に発揮されず、社内が混乱してミスやシステム障害が発生したり、顧客離れや業績悪化に繋がる可能性があります。
経営理念を共有した従業員1人ひとりがモチベーションをあげて能力を発揮することで、新たな企業文化や風土を生み、シナジー効果の実現につながって行きます。
■PMIの重要性
両者のビジネス的なシナジーがあっても経営陣の対立や人間関係により、M&A自体が破談に終わるケースもあります。
PMIの重要なテーマは、企業文化の違いをどのようにマネジメントするか。M&Aによるシナジー効果の度合いは、このPMIを上手く行うかどうかに掛かっていると言われています。
PMIのプロセスでは、「買収後のシナジー効果」「企業文化の違い」「経営統合後のマネジメント」に意識を向けておく必要があります。
なぜなら、統合相手の企業価値や組織の体質をよく見極めて置かなければ、経営統合後に思いがけない不安要素を抱えてしまうこともあるからです。
M&Aの目的は、買い手企業と売り手企業が最大限のシナジー効果を発揮し、経営統合を行う前以上の利益を計上して、継続的な企業価値の向上を生み出して行くことにあります。
■M&A成功のカギを握るPMIとは?
PMIは、以下の3段階からなります。
(1)経営統合(理念・戦略、マネジメントフレームの統合)
(2)業務統合(業務・インフラや人材・組織・拠点の統合)
(3)意識統合(企業風土や文化の統合)
1、経営統合
M&Aを行う目的は、売り手企業と買い手企業がうまく相乗効果を出し、経営統合を行う前以上の利益を計上して、継続的な企業価値の向上を生み出していくことになります。
経営統合では、企業の核となる経営理念や経営戦略、マネジメントフレームが対象です。経営統合後の経営の在り方や組織再編について検討します。
譲受側と譲渡側が一体となり、異なる経営方針のもとにあった両社の経営の方向性や経営体制の統合を目指します。
このポイントを十分に理解し、PMIを実施しなければM&A前より企業価値が高まらない恐れがあります。M&Aにより十分な相乗効果を出したい場合、適切なPMIの実施が欠かせません。
意思決定機関の在り方や意思決定プロセスと伝達方法や人員配置、情報伝達の仕組みなどが検討されなければなりません。
2、業務統合
人事や会計、法務などの管理部門や、営業や物流、開発などの事業部門、情報システムの統合を行います。
人事評価制度の仕組みや社員同士の意識の違いなどが影響して、経営統合がうまく進まないケースもあるので注意しなければなりません。
販売や調達といったシステムの統合や管理部門の統合を検討します。
ITにまつわるシステムの統合には多額の費用が必要になるため、導入時期を慎重に判断します。どのような順番で、どのように導入していくかを協議しなければなりません。
業務への影響を鑑み、発生するコストと得られる効果を比較して、統合時期や範囲を決定する必要があります。
3、意識統合
M&Aでは、2つの組織を1つにまとめる過程を経るため、それぞれの企業文化の違いに配慮します。異なる企業文化や風土の中で育成された人材が交わると摩擦が生じるのは当然のこと。
このような事態を回避するためには、M&Aを行う前に相手企業の情報などを査定・評価する段階から、PMIを想定した準備をしておくのです。
異なる企業風土や企業文化の意識統合が欠かせない要素になります。
PMIを円滑に進めるために必要なのは、経営陣のリーダーシップです。経営のトップがビジョンや経営戦略を明確に打ち出して、従業員にも変革を促します。
■PMIの具体的な手法と取り組み方
PMIの成功には、PMIの3つのステップが欠かせないプロセスになります。
(1)トップダウン型の基本方針の提示
(2)統合準備室を中心とした検討体制の整備
(3)PMIマスタープランの作成と機動的な運用が重要です。
1、事前準備期間の「“プレ”PMI」
PMIを円滑にスタートするためには、M&A成立前の段階から経営陣がPMIの取り組みを意識しておく必要があります。
デューデリジェンス(DueDiligence)などの調査を活用して、買収される側の企業に関する情報を可能な限り取得しておくことが重要です。
M&Aの場合、相手企業と合意する点ばかりに意識が向きがちですが、無理に合意を急ごうとすると、かえって社内に混乱を招いてしまいます。
また、その後の統合作業に失敗し、M&Aで期待していた効果が発揮できないだけでなく、M&A自体が破談になる場合もあります。
実際には、調査結果だけでは把握できない情報も多く、何が把握できていないのか、どのような対応が必要なのかを洗い出し、次のステップに向けて準備しておきます。
2、M&A締結後に集中的に行う「PMI」
PMIに取り組む推進体制を構築し、PMIを実行します。M&Aによる内部・外部双方への影響を鑑み、どの部分から統合に取り組むべきか、慎重な判断が必要です。
異なる会社が1つになったM&A直後は、指揮系統の混乱やシステム障害、従業員の離職など現場に混乱が生じやすいため、できるだけ速やかにPMIに取り組むことが重要です。
M&A成立後は、現状把握を進めながら、“プレ”PMIで判明した課題への対応も含めた方針の検討、計画的な実行、効果検証を行います。
時間に制約があるなかで、優先順位が高いものから業務体制を整えることもポイントです。
特に注意すべき点は、現在の顧客に対して混乱を与えること。従業員や労働環境など企業内部だけに目を向けると顧客や取引先に迷惑を掛けてしまいます。
3、シナジー効果で発展を促す「“ポスト”PMI」
M&Aは企業間のやりとりではあるものの、結局は経営陣同士の交渉となるため、相手企業の意思を尊重する姿勢が重要です。
経営者の意思を軽んじる発言や対応をしてしまった場合、言葉ひとつで破談となってしまいます。
PMIを踏まえ、次の目標に向けて取り組みの方針を検討します。M&Aの成果や目標達成の見込みの振り返りや評価を行い、改善点の見直しを実施します。
繰り返しチェックして精度を高めることで目標達成率はあがります。
M&Aを行う上では利益追求を重視すべきですが、不誠実な交渉をした結果、M&A自体が破談とならないよう細心の注意が必要です。
■PMIにおいて注意すべきポイント
PMIは、譲渡側企業と譲受側企業の同質化が目的ではありません。いかに企業価値をあげていくかという観点で行われることが重要です。
どのような方向性で、どのような着地点を目指すのか、両社の経営陣が十分に話し合い、認識を共有することが大切です。
譲渡側の企業は、買収されたことで従業員の士気が下がっているケースも少なくありません。
経営統合の手順に不備があると、優秀な従業員のモチベーションが下がり、不安・反感を招く場合も。それをそのまま放置してしまうと、従業員が離職し、職場がさらに混乱してしまう可能性も高いです。
譲受側の企業だけでPMIを成功させることは難しく、譲渡側の会社の従業員と積極的にコミュニケーションを取り、お互いの理解を深めていく必要があります。
また、一般的に人は変化を好まないため、譲受側、譲渡側ともに従業員は現状維持を望んでいると考えたほうがいいでしょう。
そのような中で変革を遂行するには経営陣のリーダーシップが欠かせません。
■まとめ
PMIは、M&Aによる「経営統合」「業務統合」「意識統合」をスムーズに進めることを目的とします。
そのため、PMIに取り組むには時間的制約がある中で、これらのうちどれから取りかかり、いつまでに統合するかを決定する必要があるのです。
PMIは、M&Aの事前段階でどこまで現状を把握できているかが重要です。PMIをスムーズに実施し、M&Aを成功に導くためには早期からの準備が欠かせません。
また、PMIがスタートすると、変革に伴い日々の業務で従業員の負担が増加します。PMIを行う意味をミーティングや会議の場で従業員としっかり共有し、理解を促すことが必要です。
M&Aは、成立そのものが目的ではなく、経営統合後に大きなシナジー効果を生み出し、企業が成長、発展することが本来の目的だと言えます。
PMIでは、経営のトップが、戦略やビジョンを明確に打ち出し、その効果を定量的に測定する必要があります。
そのために不可欠なPMIのプロセスを、経営陣の強いリーダーシップのもとで遂行していくことが大切です。
経営理念を共有し、財務面での無駄を省き、統一的な経営システムを構築して行くことです。
M&Aにより企業文化や風土の効果的な融和を果たし、社員一人一人の能力を引き出し、モチベーションをあげることで、シナジー効果の実現へと繋がっていきます。
■最後に
M&Aにあたっては、経営統合後の経営の在り方や組織再編について検討します。
PMIを成功に導くには、「トップダウン型の基本方針の提示」「統合準備室を中心とした体制の整備」「マスタープランの作成と運用」が重要になります。
意思決定機関の在り方や意思決定プロセスと伝達方法や人員配置、情報伝達の仕組みなどが検討されなければなりません。
統合後の新体制のもとで、当初計画したシナジー効果を実現するために、長期的な成長をささえるマネジメントの仕組みを構築するプロセスが重要となってきます。
統合する領域としては、経営戦略(ビジョン、戦略、ビジネスモデル、マーケティング等)、管理体制(組織、業務管理、人事制度等)、運用体制(業務、システム、従業員意識等)となります。
統合における効果、確実にそして、最大限に発揮させるためには、早い段階で、阻害要因の検証、リスク回避などを行うことが重要であり、それらを解消させ、反映させたマネジメントが必要となります。
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