現在、日本では、終身雇用制度が崩れてきており、欧米のビジネスマンように転職をしたり、フリーランスのプロ人材を目指すことも一般的になってきています。
人生100年時代に突入した今、ビジネスマンとしての成功を勝ち取るためには、長い目で見た「キャリアパス」を考えることが必要不可欠な社会となりました。
そこで今回は、キャリアパスとは何か、従業員のモチベーションアップに繋がる理由について説明します。
「挑戦は人生を面白くする。それを克服することで、人生は意味のあるものになる。」
<ジョシュア・マリン>
■キャリアパスとは?
キャリアパスとは、職歴を意味する「キャリア」と道筋を意味する「パス」を組み合わせた言葉です。
キャリアパス「Career Pat」は、仕事における最終的な目標を定め、そこに向かって進んでいくための道筋を表しています。
一般的には、企業内で社員が目標とするポストや職務に就くために必要な業務経験やルートといった道筋が、キャリアパスです。
キャリアパスは、主に企業側が従業員に提示するものです。ある職位・職務に到達するまでの道筋を示したものであり、基本的には一つの企業のなかで長く働き、成長することを前提としています。
キャリアパスについて考えるためには、
・企業内でどういった業務知識、経験、スキルが身に付くのか?
・どんな能力を身につければ、目標とするキャリアに到達できるのか?
という指標を企業側が考えることが重要です。
企業によってはその指標を明確に定め、社員に提示している場合もあります。その道筋を社員に対して明確に示したものを、「キャリアパス制度」と言います。
企業がキャリアパスを制度として明確化することで、社員に目的意識を持たせ、モチベーションを高く保つ効果が期待できるため、導入する企業が増えています。
■「キャリアプラン」や「キャリアデザイン」との違い
キャリアパスについて語る際のキャリアは、単なる仕事の経歴ではありません。人材として高い価値があると判断されるような職歴を意味することが多くあります。
「キャリアパス」と似た言葉として、「キャリアプラン」や「キャリアデザイン」という表現を耳にしたことはないでしょうか。それぞれキャリアに関連した言葉ではありますが、それらの意味は、キャリアパスの概念とは異なります。
・キャリアデザイン:個人の人生を示す概念
・キャリアプラン:仕事に絞った概念
・キャリアパス:企業が主体の概念
「キャリアプラン」や「キャリアデザイン」は、働く一人一人が自分自身で考えるものであり、一つの企業の中だけに留まるものではありません。
キャリアプランには、「人生において職歴を形成していく計画」を意味し、転職や独立も選択肢に含まれます。
キャリアデザインは、仕事のみならず「プライベートも含めた生き方を設計すること」を意味します。
■キャリアパスはなぜ必要なのか?
終身雇用が一般的だった時代から変わり、キャリアアップのために転職することが当たり前となった昨今では、一人一人が進む道は多様化し、将来のキャリア像が描きにくくなりました。
そこでキャリアパス制度が企業の人材育成制度の中で誕生しました。
企業から提示されたキャリアパスを見ることで、
・どのような仕事をどれくらいの期間担当すれば良いのか?
・どの程度の習熟レベルに達すればどう昇進できるのか。
・自分のスキルと経験をどのように活かすことが出来るのか?
・その先にはどのようなチャンスを得る機会があるのか?
キャリアパスはキャリアアップのために必要となる社内基準や条件を明確化することで、社員が将来の目標に向けて意欲的に取り組むことを可能とした制度です。
日本人の働き方に大きな変化が訪れているため、個人と企業の両方が意識を変えていかなければなりません。
特に外資系企業は実力主義である場合が多いです。外資系企業での活躍を目指すなら、常にキャリアパスを意識して豊かな経験や高いスキルを積む必要があります。
■企業がキャリアパスを導入するメリット
キャリアパスの活用で得られるメリットについて解説します。
1、社員のモチベーション向上
キャリアパスの策定は、仕事に取り組むうえで重要なものです。
なぜなら、キャリアパスがあれば、従業員にとっては目指したい姿や目標が具体的になるからです。
企業がキャリアパスを策定する際には、会社としての将来の目標を設定するとともに、ビジネスの現状を明らかにしながら策定していきます。
キャリアパスを明確に示すことで、会社における個々の人材が活躍する将来像を描くことができるため、モチベーションアップに繋がります。
今の業務が将来のなりたい姿に繋がるのか、どんな目標を設定すべきか、身につけておくべきスキル・経験は何か、など能動的に業務に取り組む意欲を培います。
企業としてこれまで明確な従業員のキャリアパスを意識してこなかった場合には、一度しっかりとキャリアパスについて考えてみるとよいでしょう。
2、採用活動における内定承諾率の向上
自社のキャリアパス制度を公開することで、求職者は入社後に成長して活躍する自分をイメージしやすくなります。
なぜなら、自身の希望と合致していれば、入社意欲は高まるからです。
キャリアパスを策定する際には、最初に具体的なゴールを設定しましょう。キャリアパスは目標に向かうための道筋なので、まずは目標をはっきりさせることが重要です。
3、人材採用のミスマッチを防ぐ
キャリアパスが浸透すれば、採用活動においても、その企業の求める人物像、採用要件が明確になったり、早期離職の原因となるミスマッチを回避できたりする可能性も高まるでしょう。
求職者が描くキャリアプランと企業で示されたキャリアパスを比較することで、入社可否の判断がしやすく、ミスマッチ防止にも役立ちます。
入社後に「やりがいを感じない」「成長するイメージが感じられない」といったミスマッチが起きることを防ぎ、早期離職者の低減につながる可能性もあるからです。
ミスマッチは早期退職や生産性低下の原因になり得るため、採用の段階で食い止めておきたいところです。
4、自社の業績向上につながることが期待できる
一般的に企業が理想とされる目標を目指すこと自体は問題ないのですが、それがそれぞれのビジネスパーソンに合っていなければゴールを目指すのは難しいでしょう。
自分の適性に合わせることで、実現の可能性が高いキャリアパスを描きやすくなります。
企業にとっては、キャリアパスに沿って、従業員がスキルや経験を積み重ね、成長することで、事業の推進力強化などにつながります。
社員のモチベーションが向上し、採用のミスマッチを回避して意欲の高い人材の確保ができることで、組織が活性化し、結果的に業績アップに繋がることが期待できます。
5、優秀な人材の定着率の向上に
将来的に仕事よりも家族を優先して生活したいのであれば、高い役職に就くことよりも長く一定の仕事を続けることを目指してもよいでしょう。
キャリアパスのゴールは、自分の価値観や考えを大切にして決める必要があります。
会社がキャリアパスを提示することは、企業が社員の成長を望んでいるというメッセージになります。そのサポートする姿勢は、成長意欲の高い社員の定着に繋がります。
■キャリアパスのデメリット
キャリアパス制度においては、昇進のための条件が明確に示されていることが多いです。そのため、条件を満たすための努力をすることが昇進への近道となります。
1、自身の望むキャリアを築けないと感じる社員も
ひとつの役職やポジションだけを狙うことで、他のキャリアが選びにくくなるという弊害も発生します。
実際には、働くなかでキャリアに対する考え方が変化することも少なくありません。キャリアパス制度だけを意識していると、将来の可能性を狭めてしまう恐れがあります。
会社が提示したキャリアパスに自分が望むものとは違うと感じる社員も出て来ます。
キャリアパス制度の組み立て方や面談などのアフターフォローで溝を埋めることも可能なので、誤解を生まないよう丁寧な説明が求められます。
2、モチベーション低下につながることも
キャリアパス制度は、一定のキャリアに到達することを目指すためのものです。ただし、状況によっては、要件を満たしても昇進できない場合があります。
管理職や募集が少ない部門・ポジションの場合、キャリアパスがあったとしても、全員の希望が叶うわけではありません。
キャリアパスを一方的に社員に押し付けてしまうと、本人の希望と乖離が起きてしまい、モチベーション低下や離職などを引き起こす原因となります。
本社以外で勤務している社員が、「本社に転勤しないと叶わない」など実現の可能性が低いと感じてしまうケースもあるでしょう。
3、社員の希望や適性を考慮する必要がある
大手企業の中でも管理職を目指す社員もいれば、リーダーの適性があってもプレイヤーでいたいという社員もいます。
現在の業務に本人が適性を感じていないことや、ステップアップのために別の業務にチャレンジしたいと考えるケースもあるでしょう。
本人の希望と乖離が起きないように、事前にヒアリングを行い、社員自身が納得する最適なキャリアパスを提示することが大切です。
しかし、役職やポジションに空きがなければ、要件に合致する経験やスキルがあっても昇進はできません。また、経営状況の変化があった場合も、昇進が認められない可能性があります。
■キャリアパス制度の導入手順
実際にキャリアパス制度を導入する際は、どのような手順で構築していけばよいでしょうか。
一般的にキャリアパス制度を構築するには、人事評価制度の要素となる「等級制度」「評価制度」「給与制度」に加え、「研修制度」を作成する必要があります。
1、等級制度を作成する
各職種について、階層とその業務内容を明示し、各階層に求められる能力やスキル、資格などを明確にします。
階層は部長、課長、主任などの役職で設定するのが一般的ですが、役職名のない段階や同じ役職でも、経験年数や取得資格などによって細かく設定していくのがよいでしょう。
社員が比較的近い未来の自分をイメージすることができ、次のステップへのモチベーションが保ちやすくなります。
2、研修制度を作成する
社員がキャリアパスに即して次の階層に上がるための知識やスキルを身に付けることができる研修制度を整えます。職種や階層に応じて適切なタイミング、内容の研修を企画することが大切です。
企業における研修には、
・実務を通して学ぶ「OJT」
・一定期間、実務から離れてセミナーや勉強会などを開催する「Off-JT」
・社員が自主的に学ぶために経済面での援助を行う「SDS」
の主に3種類があります。それらを適宜組み合わせて、効果的な研修制度を作成します。
3、評価制度を作成する
キャリアパスの階層に応じて社員を評価するための、評価制度を整えます。
企業における評価は一般的に、社員の能力やスキルなどで判断する「能力評価」、社員が出した成果で判断する「業績評価」、社員のやる気や勤務態度などから判断する「情意評価」の3種類があります。
3種類の評価を元に具体的な評価項目を策定し、自社に合った評価基準を設定します。
設定した基準により、社員が次の階層へ昇格できるかが決まることになりますので、すべての社員が納得できるような、公平で透明性のある評価基準が求められます。
また、評価する手法としては、
あらかじめ設定した目標への達成度を評価する「目標管理制度(MBO)」
上司だけでなく同僚や部下などさまざまな視点から評価する「360度評価」
などがあります。こちらも同様に公平さが保てる手法を採用することが大切です。
4、給与制度を作成する
設定された階層に応じて、それぞれ賃金を設定します。階層が上位になるほど、求められる能力は高くなり、責任も伴います。そのため、階層に応じた給与の差をつけることが重要です。
ただし、社員のモチベーションは、出世によって給与が上がってアップするというよりも、業務内容に見合わない給与への不満によってモチベーションが低下しやすい傾向にあるといわれます。
「この給与ではやっていられない」といった不満がないような、給与制度の構築が求められます。
5、フォローアップ体制を構築する
キャリアパス制度は、制度をつくったことがゴールではありません。
正しく社員に理解され、活用されていくべきものです。そのためには、定期的な面談の設定や異動した社員のサポートなどフォローアップ体制を構築しておきます。
面談を行うなかで、キャリア構築へのアドバイスや必要とする教育・研修等の把握、適切な異動などの実施が可能となります。
■キャリアパス制度を作る際のポイント
1、複数のキャリアパスを指し示す。
キャリアパスをひとつしか用意していない場合、様々な外的要因などの変化に対応できません。そうした場合、当初のキャリアパスが実情とかけ離れたものになることがあります。
キャリアのタイプは、広範な分野の知識・技術・経験を持つ人を指す「ジェネラリスト」と、ある特定分野に深い専門知識を持つ「スペシャリスト」に大別されます。
どちらの道に進みたいかは、各従業員のキャリアプランにおいて重要な要素となります。
2、従業員の中から、ロールモデルを設定する。
キャリアパスのイメージを想像しやすくするため、従業員のなかからロールモデルを選出し、キャリアパスを定める際の参考にするとよいでしょう。
実際の従業員をロールモデルとすることで、提示する側も、提示される側も、キャリアパスのイメージが湧きやすくなります。
3、キャリアパスの定期的な見直しを行う。
キャリアパス制度は、定期的な見直しは重要です。キャリアパスどおりに進んでいる人と、実現しない人で何か共通点がないか、制度に盲点がないかなどをチェックします。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
「業績悪化や経営方針の転換など企業側の事情で、目標に設定していたポストが空いていない、あるいはなくなった。」
「社員自身の気持ちに変化が生じ、当初目標としていた職務への興味がなくなった。」
4、昇進を目指すキャリアパスが正しいとは限らない。
企業としては、より昇進できるキャリアパスを提示したいかもしれませんが、従業員の意思も尊重しながら、企業と従業員の双方が合意していることが重要です。
出産や育児、介護といったライフイベントの影響を受けることもあります。
キャリアパスを一方的に押し付けるのではなく、企業の方向性と従業員の希望や将来像を結びつけ考えることが望まれます。
5、環境の変化に対応する。
社会の変化もキャリアに関わることが多くあります。コロナ禍は、社員のキャリア形成にも影響がありました。
働き方の見直しや所属する業界について、改めて考え直すきっかけとなりました。このような社会的変化による従業員の意識変化についても、情報収集を行い、適切な制度変更を行うことが大切です。
従業員とその上司、人事担当者が面談する機会を設けるなどして、互いのキャリアパスのイメージを擦り合わせていくことも大切でしょう。
■まとめ
キャリアパスとは、企業の人材育成制度の中でどのような職務にどのような立場で就くか、またそこに到達するためにどのような経験を積みどのようなスキルを身につけるか、といった道筋のことを言います。
キャリアパス制度は、組織の中で従業員個人が目標とするポジションやキャリアを積むために必要な工程やスキル・能力を明確にし、従業員が目標に向かって前向きに進めるようにする制度です。
企業側は離職者を減らし、優秀な人材を確保しなければなりません。会社内でのキャリアアップを明確にすることで、在籍し続けるメリットを生み出す必要があります。
企業にとっては、従業員のモチベーションを高めることで生産性を向上させるとともに、従業員が将来について安心感を持って働ける環境を整えることで、離職率を下げる効果も期待できます。
キャリアパスの制度がうまく機能すれば、従業員と企業双方に大きなメリットがあると考えられます。
身につけるべきスキル、能力や実績、ステップアップのための道筋が見えることで、従業員のモチベーションアップに繋がります。
「転職せずこの会社で頑張ろう」という意識になり、他社への流出を防ぐことができます。
■最後に
キャリアパスの制度は、近年、大企業のみならず中小企業からも注目されている人事制度の一つです。
キャリアパスは、従業員の業務を、将来の姿に結びつける重要な概念です。単に、人材育成上必要な制度であるだけでなく、日々の従業員のモチベーションを高める可能性を秘めています。
企業がキャリアパスを示すことで、従業員は自分がどんな「業務経験やスキル」を身に付ければ、どんな職位や職務を目指せるのか、具体的に把握できるようになります。
そうすると、従業員はその企業での将来像を描きやすくなり、日々働くうえでのやりがいに繋がります。
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