厳しい経営環境のなかで中小企業が存続し、発展していくためには確実に実行できる「経営計画書」が必要です。
なぜなら、企業が存続し、成長していくためには、将来自社の進むべき目標を明らかにして、具体的に数値化し、人、モノ、金の経営資源をどのように正しく調達し、配備していくのかを、「経営計画書」できちんと計画する必要があるからです。
そこで今回は、経営計画書とは何か、社長の頭と方針を整理する経営計画書を作るコツについて解説します。
■経営計画書とは?
経営計画書とは、長期的な会社の経営方針や長期ビジョンを決めたものです。経営計画書は、外部の第三者に見せるために作成するものではありません。
社長の頭を整理し、社員と思いと戦略を共有し、社員に高い行動目標を設定させるために作成するものです。
経営計画書を作成することによって、社内向けやステークホルダーにも会社の方向性を共有できます。
経営理念、市場のセグメント分析、差別化要因、製品・サービスの設計、ビジネスモデル、マーケティング戦略、組織図、業務フローなどの経営課題を記載します。
会社設立時や新規事業立ち上げ時に「経営計画書」を作成するのがベストですが、会社の節目で都度振り返り経営計画書を見直し、ブラッシュアップする必要があります。
■経営計画書と事業計画書との違い
多くの税理士は、経営計画書を銀行融資を受ける際に、金融機関に提出するための数字の予想だと勘違いしています。
しかし、魅力的な数字の目標だけを頑張って作成して回しても会社は伸びません。会社における計画というと、事業計画書を思い浮かべる人もいるでしょう。
経営書と事業計画書の二つ違いは、以下になります。
・経営計画書:会社全体の経営方針や長期的な戦略のブループリント
・事業計画書:事業を成功させるための具体的な戦略や財務の計画
登山に行く際に登山の目的を考えたり、登山を行う前に何をするかを決めたり、登頂を果たすための戦略や辿り付くゴールとなる「青写真」をイメージすることが、経営計画書になります。
目的地にたどり着くには、どのルートをたどって、どのような道具を使い、どのようなメンバーで、どの程度の費用をかけるかを決めるのが事業計画書になります。
■経営計画書を作成する3つのメリット
経営計画書は、企業の規模や業種を問わず、すべての会社が作るべきです。その理由は以下の3つになります。
1、社内外の関係者と、目標や方針の共有ができる
経営計画書は、会社の「目的」である「経営理念」を社員に社長の思いとしてを伝えることができます。
経営計画書を作り上げる最大の目的は「経営理念」を実現させることです。経営理念とは、「何のためにこの仕事をしているのか」という、会社の存在意義を言語化したものです。
会社は様々なステークホルダーが集まった組織です。個々の社員がバラバラの目標で動いていては、効率的な経営はできません。
特定の分野にフォーカスし事業を推進することもできないでしょう。会社の目標や方針について経営計画書で示すことによって、全社員が目標や方針を共有することができます。
2、組織と事業の将来を見通せる
社長が経営について気づきを体験できる。この「気づき」が、経営や戦略の進化をもたらします。
会社は経営理念を実現させるために存在し、組織は全ての「人」を幸せにするために存在しています。
ここで言う「人」とは、社長を含む全従業員とお客様、並びに社会の人々です。
経営計画書を作成することで得られるメリットとして、将来の会社と事業の姿を「ブループリント」として、見通せることが挙げられます。
具体性のある経営計画書を作成するためには、まずは理想とする組織や事業の在り方を考えなければなりません。
つまり、5年後、10年後に組織はどのような状態になることを目指すのか、また事業規模はどのくらいになっているかなどを考えるのです。
大義名分に立脚した目標に向かって、組織や事業をどのように変化させる必要があるかの見通しをも持つことが可能になります。
3、社長の考え方や価値観を全社員に浸透させる
経営計画書により、社長の考え方や価値観を言語化することで、会社の方針や方向性を全社員に情報共有し「見える化」して、伝えることが可能となります。
そして、社長が経営計画書を活用して、考え方や価値観を全社員に伝えることで、全社員との情報共有による意思疎通が可能となり、考え方や価値観・方向性を全社員に浸透できるようになります。
社員側も、会社の大切な価値観や方向性が明確に分かれば、自分の将来における人生設計が可能となり、安心して会社で、働けるようになります。
■経営計画書の3つの種類
一口に経営計画書といっても、いくつかの種類があります。主なものとして、中期経営計画書、経営革新計画書、経営改善計画書などがあります。
1、中期経営計画書
中期経営計画とは、経営計画(management plan)の一種で、3〜5年を計画期間とした経営計画です。したがって、中期経営計画は、3~5年程度のスパンで計画を策定するのが普通です。
中期経営計画は、将来の企業経営の方向性を示す大綱的な計画としての性質を備えています。よって、この計画を予定どおりに達成するためには、より具体的な内容を伴う実行計画が必要になります。
会社の現状分析と将来の方向性、あるべき姿などを記載します。
つまり、中期経営計画は、経営上の理想状態と、現状とのギャップを埋めるための計画という位置づけです。
上場企業でも会社のIRで5年程度の中期経営計画を発表する場面が多いです。このように中期経営計画は社内だけでなく、株主など外部のステークホルダーに向けたメッセージとして使われることがあります。
2、経営革新計画書
経営革新計画とは、中小企業が「新事業活動」に取り組み、「経営の相当程度の向上」を図ることを目的に策定する中期的な経営計画書です。
計画策定を通して現状の課題や目標が明確になるなどの効果が期待できるほか、国や都道府県に計画が承認されると様々な支援策の対象となります。
経営革新計画書は、国や都道府県から支援を受ける際に作成するもので、中小企業が既存事業とは違った新規事業に取組み、計画期間に目標とする経営指標を達成するという計画を示すものです。
経営目標の実現の可能性が高いと判断されれば、国や都道府県から助成金などの支援が受けられます。
ただし、計画書は作成だけすれば良いものではなく、その後のフォローアップできちんと成果が出せなければ、支援などが打ち切られることもありますので、数値目標などは確実に達成できるものが求められます。
3、経営改善計画書
経営改善とは、経営上の悪い点を見つけて改善することであり、経営改善計画書とは、それを数値化し計画した書類のことです。
経営改善計画書は、主に金融機関に提出するものです。経営環境の悪化などで借入金の返済が難しいときなどに作成します。
日頃の経営改善に利用するため、あえて作成されている事業者様もいらっしゃるかもしれませんが、通常、金融機関への新規借入依頼、借入返済のリスケジュール依頼をするときに、金融機関から提出を求められ作成します。
コアビジネスへ集中して経営を効率化したり、人員の削減で固定費を削減したりするといった方策を提示します。実現性のある形で作成しなければ融資が打ち切られることもあるので、慎重な対応が必要です。
■経営計画書をインナーブランディングで浸透させる
経営計画書を作成後に、社長の考えを社内に浸透させるためには、顧客向けのサービスだけではなく、「インナーブランディング」に取り組むことにより、従業員のモチベーションを上げることも重要です。
インナーブランディング「Inner branding」とは、社外の消費者や市場、取引先などに対してではなく、社内の従業員や株主などに対して行う関係者向けのブランディングになります。
一般的に、ブランディングは社外に対して、マーティングの一環として行うイメージがありますが、インナーブランディングは主に従業員もしくは、自社への入社を考えている候補者に向けて実施します。
社内向けのブランディング活動を行えば、社長の掲げるビジョンを見える化し、企業に対する自社の方向性を社員が把握することができるため、働く人のモチベーションが向上し、企業活動に良い影響を与えます。
インナーブランディングの目的は、企業理念や自社の価値観を共有し、社員が正しく認識できるように促すことです。企業活動を安定的に進めるためには、内部の意識をそろえる必要があります。
インナーブランディングを実施することで、企業理念や自社の価値観を社内に浸透させて共感を得やすくなるでしょう。
なお、顧客に会社のことを知ってもらうための活動は「アウターブランディング」と呼びます。
■まとめ
経営の本質は、社長が意図していることを、他人を通じで行うことです。経営計画書を作り上げることにより、社長の考えや構想、達成したい目的と目標を社員に正しく伝え、浸透させることが可能になります。
経営計画書を作り上げる大きな効果としては、社長は会社の未来を考える「社長業」を行う時間が取れるようになることだと言えます。
なぜなら、社長は日頃から社員に、自分の考え方や価値観を口頭で伝えているケースが多いと思いますが、口頭だけでは社員に正しく伝わり難いからです。
言語化された紙と口頭の両方で社長から伝えることで、会社が近い将来に到達するゴールとなる「ブループリント」として、社員に正しく伝わります。
経営計画書が「目的と目標」を実現するための「羅針盤」になります。社長の経営方針やビジョンが社員に正しく伝わらなければ、社長の理想とする会社創りを実現することは困難だからです。
企業理念や自社の将来像について、従業員が理解していなければ、消費者が喜ぶ製品は作れず、顧客が満足する高品質なサービスを届けることができません。
単なる理解だけでは不十分で、自社のイメージや価値観、製品・サービスへの愛着、待遇への満足度があってはじめて、情熱を持って仕事に取り組むことができると言えます。
そうした、価値観の共有・共感、エンゲージメントやモチベーションの向上を目指すのが「インナーブランディング」になります。
持続的成長を実現するためには、ステークホルダーとの「エンゲージメント」を通じて良好な関係を強化することが事業を円滑に進めることがポイントになります。
ステークホルダーエンゲージメントとは、ステークホルダーが関心を寄せる事項について、情報提供や対話の機会を設けて理解を深め合い、意思決定に反映させて企業の価値や業績を高める取り組みのことです。
経営計画書を通じて、全社員と価値観を伝えることで、会社が目指す目的と目標を共有し、一致団結して社長の理想とする会社創りを実現させることが可能になるのです。
「リスクには四つの種類がある。第一に負うべきリスク、第二に負えるリスク、第三に負えないリスク、第四に負わないことによるリスクである。リスクを負わないことが最大のリスクである。」
<ピーター・ドラッカー>
■最後に
会社経営は、社長が実現したいことを、社員と共有化して、そして金太郎飴のように理念に基づいた自分の分身を作り、社員を通じて世の中に提供できるかが勝負になります。
しかし、社長が意図していることを、他人を通じで行うことが、非常に難しいことも事実です。
経営計画書を作ることが、中小企業が抱える課題の根本的原因である「コミュニケーション不足」の解消につながります。ただし、社内コミュニケーションをとるための活動とは違います。
経営計画書には、会社が目指す明るい未来が描かれており、その会社に関わることで、どんな良い未来が待っているのかをステークフォルダーがイメージしやすくなるからです。
経営計画書と同じく大事な取り組みになるのが、インナーブランディングです。企業がインナーブランディングの目的は、自社製品・サービスの魅力にとどまらず、企業理念や企業としての価値を知り、共感して貰うことにあります。
自社に対する理解度が高まれば、従業員は自ら企業理念に基づいた行動を取るようになります。
仕事に対する姿勢に一貫性が生まれ、意識改革、業務効率の向上、製品やサービスの品質アップといった効果も見込めます。その結果、消費者や取引先に対し、自信を持って自社製品・サービスを薦めることもできるようになります。
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