世界屈指の長寿化社会で、働くことも長くなる私たちは、誰しもがこのキャリア・プラトーに陥るといっても過言ではありません。
このキャリア・プラトーを抜け出す選択の一つとして、近年、増加傾向にあるのが、プロティアン・キャリアです。
そこで今回は、キャリアプラトー対策とプロティアン・キャリア、人生100年時代の顧問という働き方について解説します。
■キャリアプラトーとは?
キャリアプラトーとは、組織で働く人に訪れる「停滞状態」のことです。プラトーは「高原」という意味であり、ある程度のキャリアの山を登ってきた社員が、それ以上のステップアップを期待できなくなる状態を指します。
山を登る途中は傾斜が続くのに、頂上でいきなり平らな場所が続いている様子になぞらえて、そう呼ばれています。
この状態になったり、あるいはそう感じたりするのは、会社員として中堅から上の管理ミドル層に多いです。課長や部長として実績はあるものの、これ以上の昇進や昇格は望めない。あるいは、自分自身の仕事内容に行き詰まりを感じてしまう。
それが事実である場合もあれば、事実ではないけれども本人がそう感じているという場合があります。いずれにせよ、当人にとっては成長目標を見失った状態だといえるでしょう。
キャリア・プラトーは、このように自分の置かれた状況をネガティブに考えてしまう状況のことです。
「これ以上、上を目指すことは出来ない。」、「新しい分野に挑戦しても、すぐ若い人に抜かれるのではないか」などというようなマイナス思考状態が長く続いてしまうと、キャリアの上昇が止まり完全に先に進むことが難しくなります。
長らく勤めていればある程度の役職には昇進できるものでしょうが、天井を感じてしまい後は定年まで待つだけという場合もあるのが事実です。
最終的な到達点に立つとそれ以上の目標を見失うこともあり、これが昇進・昇格に関してのキャリア・プラトーと言われています。
■人生100年時代の到来
2017年の平均寿命は、女性87.26歳、男性81.09歳です。1990年の平均寿命が女性81.84歳、男性75.91歳でした。2016年の男性の健康寿命が72歳ですから、75.91歳という当時の男性の平均寿命は、現在においては、まだまだ元気で若いと感じる年齢かもしれません。
約30年間で男性・女性とも約5歳平均寿命が延びたことになります。そして、これからも平均寿命は延伸します。
内閣府の「平成29年高齢社会白書」によれば、2050年には、女性90.4歳、男性84.02歳と男性、女性ともそれぞれ約3歳伸びると予想されています。
さらに、厚生労働省が社会保障審議会年金部会に提出した資料によると、1970年〜1980年生まれの人が65歳を迎えると、90歳まで長生きする確率は、女性は約7割、男性は約4割と見込まれています。さらに、女性にいたっては、5人に1人が100歳まで長生きする見込みです。
人生100年時代を迎えた今、退職後に、数十年ある人生設計を今から考え、準備していく必要があります。私たちは、今、その数十年の過ごし方をどれだけ、具体的に思い浮かべることができているのでしょうか。
未曾有に長くなった人生を生き抜くのに、過去の生き方と働き方のロールモデルはヒントにはなりません。
また、近年では、超少子高齢化、年金の問題など、100年人生のネガティブな要因がメディアでは日々取り上げられています。
そのような傾向に対して、リンダ・グラットンは『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の日本語版序文で、「長寿化を厄災にするのではなく、恩恵にするために、何歳であろうと、いますぐに新しい行動に踏み出し、長寿化時代への適応を始める必要がある」と問題提起を行っています。
目の前に迫ったポスト平成の時代では、起業や独立はもはやリスクのある意思決定ではなく、自らのキャリア形成に必要なポジティブな選択として認識されるようになります。
働く期間自体が長くなり、組織に属し続けることでキャリア・プラトーに直面する私たちは、いかなる行動に踏み出していくことが必要になっています。
■停滞期を克服する「プロティアン・キャリア」
この長寿化時代におけるキャリア・プラトーを克服していくのに不可欠なのが、「プロティアン・キャリア」という考え方です。
「プロティアン・キャリア」とは、環境の変化に応じて自分自身も変化させていく、柔軟なキャリア形成のことをいいます。
「プロティアン(Protean)」はギリシア神話に出てくる、思いのままに姿を変えられる神プロテウスが語源となっており、「変幻自在な」「多方面の」と訳されます。
組織内でのステップアップに重きを置いた従来のキャリアにかわり、地位や給与ではなく、自己成長や気付きといった心理的成功を目指す。アメリカの心理学者ダグラス・ホールによって提唱されたキャリア理論です。
従来のキャリアは、組織の中での地位や給与といった客観的で定量的な指標が到達すべき目標だったのに対し、個人の中で感じられる仕事の充実感を成功指標と捉え、「自分は何をしたいのか」「社会に対し何ができるのか」という自己への意味づけが重要としています。
■プロティアン・キャリアが生まれた背景
理論的な背景を説明すると、1990年以降のニューキャリア論の中で提起されたのが、バウンダリーレス・キャリアとプロティアン・キャリアです。
どちらも一つの組織にとらわれず、自ら主体的にキャリア形成をしていく「キャリア自律」の概念として注目されています。
現代社会は環境の変化が激しく、安定していると思われていた業界でさえ大量リストラが始まるなど、5年後10年後の未来さえも定かではありません。
一つのキャリアビジョンにこだわり続けることが難しくなってきている今、「プロティアン・キャリア」のような「環境が変われば、自分も変化していける柔軟さ」を若年層が重要視していることは、時代に合った変化なのかもしれません。
プロティアン・キャリアを説いたホールは、二つのコンピテンシーを打ち出しています。それは、「アイデンティティ」と「アダプタビリティ(適応能力)」です。
カメレオンのようにただ環境に左右され流されるのではなく、自分のキャリアを主体的に変形させるのがプロティアン・キャリアという考え方です。
■プロティアン・キャリアを築ける社会状況
それでは、日本の働き方の現場で考えてみることにしましょう。現在、プロティアン・キャリアを促進するものとして注目されているのが、政府が推進する「働き方改革」と、働く人々のキャリア観の変化です。
「働き方改革」の中では、特に、
(1)長時間労働の是正
(2)副業・複業などの柔軟な働き方
(3)高齢者の就業促進
が、組織内キャリアではなく主体的なキャリアの外発的な動機づけになります。
言い方を変えるならば、「働き方改革」は、それぞれが主体的な働き方を模索するプロティアン・キャリアを希求するものであると言っても過言ではありません。
組織内での昇進に固執するだけではなく、自らがやりたいことを仕事にしていく働き方や、報酬よりも働くことの意味を大事にする近年のキャリア観の変化も、プロティアン・キャリアとシンクロしてきます。
その現れとして月曜から金曜まで働き、週末に身体を休める働き方をする人、学校を卒業後に就職した会社で終身雇用を全うする人の割合は年々、減少傾向にあります。
誰もが複数の会社で異なる職務に従事しながら約40年間働き、65歳前後で退職した後も、人生は40年弱続くようになったのです。
■プロティアン・キャリアは関係性を重視する
プロティアン・キャリアを築いていく上でのポイントとしてホール教授が述べていることは、
(1)自分自身を客観的に評価し、自問し、内省し、そしてそれらを他者に支援してもらう方法を把握すること。
(2)常に学び続け、自らの人生やキャリアの方向性を再構築できる能力を磨き続けることです。
プロティアン・キャリアで大切なことは「関係性」です。伝統的なキャリアでは一つの組織の中での自己を捉えてきました。
一方の、プロティアン・キャリアでは、職場、職場外、趣味のコミュニティ、地域のコミュニティなどの「関係性」の集合として、「変幻する自己」を捉えていきます。
新しい環境に移ることは、それまでいた環境との決別を意味する訳ではありません。それまで培ってきた経験と共に、新しい環境に合わせて自らを変化させていくことなのです。
そこでは、2つのコンピテンシーが要求されます。一つは、より複雑で、より自己内省的で、より自己学習的な「アイデンティティの成長」、もう一つは「適応力の強化」です。
■個人がキャリア形成をする「場」としての組織
プロティアン・キャリアは、組織に属することを前提とした伝統的キャリアとは、次の3つの点に特徴がみられます。
1、大手企業による副業解禁
第一にプロティアン・キャリアでは、個々人がさまざまなキャリアパス(=キャリアの経路)を取ることになります。大学を卒業し、就職した会社で働き続けるのではなく、転職する人。副業解禁制度を利用して、パラレルキャリアを歩む人。
育児や介護で時短勤務や一時休職をする人。それぞれのライフステージにあわせてキャリアを柔軟に選択できるようになります。一つの組織の中に帰属し、組織内でキャリア形成するよりも、よりセルフカスタマイズしたキャリア選択が可能になるのです。
2、リモートワークの増加
第二にプロティアン・キャリアでは、個々人がさまざまな空間で働き、生活するようになります。仕事とそれ以外、仕事と家庭といった明確な境界線を設定するのではなく、子育てや介護にも時間を使い、時間のマネジメントをしながらキャリアを築いていくのです。
テクノロジーの発展と深化により、在宅ワークや職場以外の場所からのリモートワークが可能になりました。通勤の頻度や時間も、働く個人のライフステージに適応させる形で、その都度、アップデートされるようになります。
3、ワークスタイルの変化
そして、第三に、プロティアン・キャリアでは、個人を主たる対象として捉え、組織は個人が求める機会や場を提供するプラットフォームのように捉えます。
組織に従属する個人ではなく、個人がキャリア形成する場として組織が存立するようになります。組織の中での経験を、次の組織にも活かしていく、また、今所属する組織での経験を組織間の壁を超えてオープンにしていくことを通じて、より自らがやりがいを感じて働くことができるのです。
■企業側ができるキャリア・プラトー対策とは?
企業にとって、従業員のモチベーション低下は仕事の質を下げてしまう要因になりかねません。しかもその状況に陥っているのが多くの部下を抱える上司だとすれば、その波及効果はより大きなものとなってしまうでしょう。
だからこそ、企業としては従業員がキャリア・プラトーに陥ることを未然に防いだり、起こってしまった場合の対処を講じる必要があります。
特定のスキルを持った従業員には、専門職としてのキャリアパスを設けて別の道筋を示してあげるのも一つの手段です。また、同じ役職の中にも階級を設け実績や能力によってレベルアップさせるなどするのも良いでしょう。
一見、同じポジションでもその重要度が違うという認識を持つよう促すことで、まだまだ自分の可能性を感じられるようになるかもしれません。
■中・長期的にキャリアを位置づける
ここまでみてくるとわかるように、プロティアン・キャリアでは、人生全体の中でキャリアを位置付けています。
ただし、希望の職種ではなくても働き続けなければならない人々、組織に従属しながら働き続けている人々、退職後に仕事とは全く異なる静かな暮らしを求める人々、これらの人々にプロティアン・キャリアを強要することは許されません。
さらに言えば、プロティアン・キャリアとは、突然変異的に築けるものでもありません。まずは今、自らが身を置く組織の中で、主体的に何ができるのか。
組織や組織を越えたさまざまな関係性を捉え直し、中・長期でのライフプランを描きます。意識的・計画的・戦略的に行動を重ねて経験資産を蓄えながら、その資産を社会や組織の変化にすり合わせていく日々の営みのことなのです。
■まとめ
プロティアン・キャリアとは、何かを成し遂げた「結果」をキャリアとして捉えるのではなく、経験資産を積み重ねていく「過程」を、主体的に受け止めていくことでもあります。
自ら主体的にキャリアを選択しようとする人々にとっての、100年人生を豊かに生き抜く術になるのです。
中年期というのは文字どおり人生の中間点に位置し、これまでの人生を客観的に振り返ることができると同時に、そこから得た教訓を次の世代に残していこう、役立ててもらおうという意識が持てるようにもなる年代です。
管理職のポストを得るか、得ないかは問題ではありません。
現場のリーダーとして、あるいは後輩のメンターとして、次世代を育てる役割をすすんで担うことで新たな自分の存在価値に気づくことができる。そのとき、キャリア・プラトーは伸びしろのない停滞期ではなく、むしろ人生を切り開くターニングポイントとなるかもしれません。
■最後に
現在、特定の分野におけるプロフェッショナルのご稼働可能な時間をシェアリングする新しい雇用の仕方を活用する企業は、様々な業界で広まっています。
即戦力の優秀な顧問やプロ人材を、必要な時に必要なだけ迎え入れることが出来るため、人材不足で成長が止まるという課題を解消することが出来ます。
また、新しい個人の働き方としても、1社だけでは経験できないことを同時に3社で行うことで、常に新しい体験ができ、また知見やノウハウに困っている企業を複数社同時に助けることが出来ます。
日本最大級の顧問契約マッチングサイト「KENJINS」は、人生100年時代の到来に向けて、ご自身のご経験や専門性を活かして、企業のさまざまな課題解決に携わっていただくサービスです。
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