年功序列制度は、日本企業の伝統的な人事・賃金制度として定着していましたが、現在、様々な理由により年功序列の仕組み廃止され、成果主義へ移行する企業が増えています。
その理由としては、近年は景気などの社会的背景により、年功序列制度を維持するのが難しくなってきているからです。
現在、日本の大手企業でも成果主義に移行する会社が日増しに増えており、海外企業ではフリーランスと同様に正社員でも成果主義こそが当たり前だという認識すらあります。
そこで今回は、年功序列制度と成果主義の違いと何か、成果主義への移行が増えた訳について解説します。
「成果をあげることは一つの習慣である。実践的な能力の積み重ねである。実践的な能力は、習得することができる。それは単純である。あきれるほどに単純である。」
<P.F.ドラッカー>
■年功序列制度とは?
年功序列の報酬体系は、「企業における勤続年数や労働者の年齢の上昇に従って、賃金(基本給)も上昇する仕組み」と位置付けられています。また、年功序列の賃金制度は年功賃金と呼ばれることもあります。
そもそも年功序列制度は、戦後の高度経済成長期に、長期的な視点で人材育成を行うことを目的として多くの企業が採用した結果、日本に定着した歴史があります。
年功序列制度の下では、年齢や勤続年数が賃金のベースとなるため、勤続年数の短い社員が高い業績や成果を出したとしても、勤続年数の長い社員に比べると報酬が低い傾向にあり、成績や業績がそのまま反映されているとはいいにくい制度でしょう。
1990年、総量規制によって不動産価格や株価が暴落し、バブル経済が終わりを告げました。いわゆる『バブル崩壊』です。日本企業の業績は悪化の一途をたどり、次々とコスト削減をせざるを得ない状況、事業の縮小に追い込まれました。
中でもネックになっていたのが人件費です。年功序列制度は勤続年数が長い社員ほど給与があがっていくシステム。
コスト削減が見込める成果主義は当時の経営者にとって、とても魅力的に見えたのでしょう。また、近年ではコロナによる経営悪化の影響やリモートワークの浸透により、多くの企業が成果主義の切り替えに踏み切るようになりました。
■成果主義とは
成果主義は「成果や成績のみで評価を下すシステム」のことです。
年齢や学歴、勤務年数などを一切考慮せず、社員の昇給や役職について決定する要素は、評価期間内の仕事の成果のみという、とてもシンプルなシステムです。
成果主義は、短いスパンで転職を繰り返し、キャリアアップやスキルアップを図るのが一般的な欧米で主流となっている制度です。
成果主義のスキームは、企業における業績や社員個人の成果によって報酬および昇進・昇格を決める仕組みであり、年功序列制度と対極にある人事・賃金制度になります。
成果だけが評価基準なので、優秀な人材の給与が上がります。働けば働くほど評価されるため、モチベーションアップや人材確保の一助となるでしょう。
1990年代初頭、日本はバブル崩壊により経済が大幅に落ち込みましたが、成果主義が一般的な欧米の企業は、日本とは対照的に着々と業績を上げていました。そのため、日本でも1990年後半から2000年代初頭にかけて成果主義を導入する企業が増え始めました。
成果主義の下では、年齢や勤続年数に関係なく、成果を出した社員に報酬として還元するのが基本です。そのため、若い世代や勤続年数が短い社員であっても高額の報酬を得ることも可能です。
■年功序列制度が廃止されている5つの背景
長い間、日本企業においてスタンダードとされてきた年功序列制度ですが、様々な理由によって成果主義への移行が始まっています。
現在、年功序列制度を廃止する大手企業も出てきていますが、それはなぜなのでしょうか。
1、働き方改革の推進
2019年4月より施行された『働き方改革』は政府によって打ち出された施策で、労働時間の見直しや非正規社員の待遇改善などが盛り込まれています。
労働時間に上限が設けられ、非正規雇用社員の待遇改善が義務づけられた中で企業が利益を上げるには、「決められた時間の中で生産性をいかに高めていくか」が重要となってきます。
そこで、従業員一人一人の生産性を高めるための成果主義の導入を検討している企業が増えています。
2、多様な働き方の拡大
年功序列制度の下では、一つの会社に定年まで勤め上げる「終身雇用制度」が一般的でした。
しかし、転職者は年々増加しており、総務省の調査によると2019年には過去最多の転職者数を記録しています。
「より良い条件の仕事を探すため」という離職理由が最も多く、働き方が多様化し、転職が当たり前の時代において、長期雇用を前提とした年功序列制度は社会にマッチしなくなっていることがうかがえます。
3、経済のグローバル化
近年、技術革新や国内マーケットの縮小に伴い、経済のグローバル化が進んでいます。
これまでは主に国内企業との競争環境にあった企業も、グローバル化に伴い海外企業との競争が求められる時代になりつつあります。
海外の企業との競争においては、多様な経験やスキル、アイデアをもった人材が不可欠といえるでしょう。
しかし、年齢や勤続年数が評価のベースとなる年功序列制度は、優秀な中途採用の人材から敬遠される要因となり、採用につながりにくいのです。
また、外国人材にとっても年功序列制度はネックとなるため、年功序列制度が優秀な外国人材を採用するための壁となる可能性があります。グローバルなビジネスを展開していくうえでは、人事制度も世界標準に合わせたほうが優秀な人材を採用しやすくなります。
4、減少していく労働力人口
日本は長らく少子高齢化が続いており、将来的に労働力人口は減少し続けていくことが見込まれています。
仮に、若手社員の入社が見込めず、年功序列制度を維持したままだと、組織内で管理職やマネージャークラスの人材ばかりが多くなり、人件費が高騰する可能性があるでしょう。
また、年功序列制度は業績と報酬が比例していないため、組織全体の業績が落ち込んだ場合にも人件費が高騰してしまいます。組織を維持していくうえでも、年功序列制度から成果主義へ移行し、人件費の最適化を行うことが求められます。
5、成果主義を魅力的ととらえるビジネスパーソンの増加
2017年に民間企業が行った調査によると、「給与も役職も年功序列の会社」が魅力的であると回答したビジネスパーソンは28.7%であったのに対し、「給与も役職も実力主義(成果主義)の会社」が魅力的であると回答した割合は71.3%を占めました。
この調査結果からも、多くのビジネスパーソンが従来型の年功序列制度よりも、より公平に評価してもらえる成果主義を支持していることが分かります。
■年功序列制度のメリット
年功序列制度のメリットは、主に以下の6つのポイントが挙げられます。
1、年齢という万人に共通する自然的現象を基礎としているため分かりやすい
2、報酬・昇級の計算・管理が容易である
3、社員のライフステージごとの最低生計費が保障される
4、社員に安心感を与え、定着率を高める効果がある
5、仕事内容によって賃金額を取り決めないため配置転換が容易である
6、社員の育成計画が立てやすい
年功序列制度は長期雇用を前提とし、長い目で人材育成をしていく制度です。
同じ会社で長く働けるということは社員にとっての安心感につながるほか、帰属意識の高まりによって会社への愛着も湧き、定着率が高まります。
また、人事部や管理職のメリットとしては、評価の算出や管理が容易で手間がかかりにくいことです。
そのほか、新人社員に対してどのような教育を行うか長期のキャリア形成を前提とした育成計画を立てやすく、社員ごとのデータが蓄積され生かしやすいことも挙げられます。
■年功序列制度のデメリット
年功序列制度のデメリットとして挙げられるのは、主に以下の5つのポイントです。
1、同一内容の仕事でも基本給の額が異なる(勤続年数などにより賃金に差がある)
2、社員の働きぶり(業績、成績、発揮能力など)や能力と基本給が一致しない
3、企業の業績と無関係に賃金コストが増減する
4、若手社員に不平・不満が生じる
5、日本独自の制度でありグローバルに対応できない
年功序列制度の下では、企業の業績や社員の実績、能力とは無関係に人件費が増大することがあります。特に優秀な若手社員ほど不平や不満を感じやすく、社員のモチベーション低下や人材の流出につながる懸念もあります。
挑戦する意欲がそがれ、社員や組織が成長する機会が失われる要因にもなりかねません。
また、年功序列制度は日本において長年にわたって根付いてきた独自の文化のため、欧米企業の人事制度とは根本的に異なります。そのため、年功序列制度が根付いた企業では外国人材を採用しにくいこともデメリットといえるでしょう。
■成果主義のメリット
成果主義のメリットとして、主に以下のポイントが挙げられます。
1、モチベーションの向上
年功序列制度では、若い社員がいくらがんばっても評価されることはありませんが、成果主義はがんばって結果を出せば、業績がそのまま給与や評価に反映されます。努力の結果が評価されれば、仕事のモチベーションにもつながり、さらなる努力が生まれます。
成果主義へ移行することで長時間労働と給与の関係がなくなり、効率的に成果を上げることが重要になります。その結果、クリーンな労働環境へ変化していくことも期待できます。
社内での競争意識も刺激することができ、結果として良い循環が生まれると、企業全体の生産性も上げていくことができるでしょう。
2、コストの削減
年功序列制度は、続年数さえ長ければ、成果をあげていない社員に対しても相応の賃金を支払わなければなりませんでした。
そのため、会社側としては無駄な経費が発生し、やる気のある若手社員のモチベーションを下げる要因にもなる悪循環が生まれていました。
企業や組織の業績に応じて人件費を最適化できるため、人件費の増大によって経営状況が悪化するリスクも防止できます。成果主義は、成果の出せない社員に高い給与を払う必要はありません。
成果主義では仕事の成果に応じて報酬を支払うため、成果に対して適切ではない人件費を削減できるというメリットもあります。
人件費の最適化によって適切な所に資金を再分配できるため、業績改善にも効果的だと考えられます。また、やる気のある若い社員を昇給させることができれば、コストの削減と、投資の適正化につなげることができます。
3、年功序列の脱却
成果主義は、年功序列とは対極にある考え方です。成果主義を導入すれば、年配の社員だからといって高い給与を払ったり、上役のためのポストをわざわざ用意したり、という無駄を省くことができます。
成果主義の導入を進めることは、そのまま年功序列から脱却することにつながります。
年功序列制度も悪いことばかりではなく、離職防止の効果など、それなりのメリットがあった制度でしたが、現代社会にはそぐわない施策なので、脱却したいと思っている企業は多いでしょう。
4、人材採用や育成
能力の高い人材ほど、年齢や勤続年数に左右されず、自身の能力や仕事の成果で正当に評価される環境を選択する傾向にあります。
そのため、成果が正当に評価される環境を整備することは、能力の高い人材に自社を選んでもらうためのアピールポイントになります。
成果を出せば出すほど給与や役職があがる成果主義。成果を出すにはそれなりの実力が必要ですから、スキルアップのために各社員が頑張るようになります。人材育成のさらなる後押しになる可能性も高まります。
成果に応じた給与を設定できるため、外部の優秀な人材に対して好条件を提示することができます。
もちろん社内の優秀な人材に対してもそれは同じですから、離職防止にもつながることでしょう。
成果主義は、優秀な人材の育成と確保に大きく貢献してくれます。年齢や勤続年数に関係なく実績を評価する成果主義は、社員のモチベーションを向上させ、優秀な若手人材や即戦力人材の確保にも効果的です。
5、競争意識により、個人の能力が向上しやすい
成果主義を導入すると、より高い成果を上げたいと思う従業員が増える傾向にあります。そのため、組織やチーム内で競争意識が生まれ、メンバー同士が互いに切磋琢磨していくようになります。
それにより、一人一人の能力が向上しやすくなるでしょう。
成果主義では、目標を立てて成果を出すことが評価に直結するため、成果を上げるために努力する人材の増加が期待できます。
成果を上げて評価される同僚たちに刺激を受けて奮起する人が増えると、生産性向上にも繋がります。
努力の結果が評価となって表れるため、人事評価への満足度が高まり、「評価してもらえるよう、仕事を頑張ろう」とさらなる努力を重ねる従業員が増えます。
成果主義は欧米企業でも一般的な人事・賃金制度のため、外国人材を採用しやすいことも大きなメリットといえるでしょう。
■成果主義のデメリット
成果主義のデメリットとして挙げられるのは、主に以下の5つのポイントです。
1、評価基準を定義しづらい職種がある
2、給与・昇級の計算・管理が複雑化する
3、チームワークが低下するおそれがある
4、社員が安心感を得られず離職率が高まるおそれがある
5、社員の育成計画が立てづらい
成果主義の場合、経理や人事といったバックオフィス部門は何を基準に成果を測ればよいのかが分かりづらく、社員ごとの評価管理も複雑化します。
行き過ぎた成果主義が定着すると、社員が個人主義に走ってしまい、組織内のチームワークが乱れる懸念もあります。
また、年功序列制度とは対照的に、長期のキャリア形成につながることが少ないため、社員の育成計画を立てづらいこともデメリットとして挙げられます。
■成果主義に移行する際のポイント
成果主義導入を成功させるにはまず、公平かつ明瞭な評価基準を設けることが大切です。その際、メンバーが納得感を得られやすいように、設定した基準の明確化や評価の透明性なども高める必要があります。
なぜなら、評価基準が曖昧なままでは、従業員に説明をしても理解を得ることが難しいと言えるからです。
まず、部門や職種ごとに何を成果とするかを決めたうえで、評価や難易度の基準、昇進・昇格の基準などを設定することが大切になります。また、長年自社に努めてきた社員ほど大きく抵抗することも予想されるため、順序の良い説明も必要となるでしょう。
成果主義に対するメンバーの納得感を高めるには、日常的なコミュニケーションやフィードバックの質と量も大切です。評価者研修では、目標設定のスキルに加えて、フィードバックのやり方やコミュニケーション技術なども実施していくとよいでしょう。
成果という比較的客観的な指標をもとに評価をする成果主義においては、原則として主観を交えず公平な判断ができる人材を評価者とする必要があります。
評価者となる人物への基本的研修実施はもちろん、評価基準が異なる部署間でも公平性を保った評価が下せるように体制作りを行う必要があります。
成果主義を導入すると、短期的な成果に関心が強くなります。ですが、メンバーと企業の両方が長期的な成長をするには、短期的な成果を上げるための能力開発やマネジメントとともに、内発的動機付けや中長期的な視点に基づくキャリア開発が大切です。
■まとめ
終身雇用制度や年功序列制度が当たり前だった時代には、勤続年数が長くなれば昇進したり昇給したりしました。
しかし、経済のグローバル化や労働力人口の減少など、さまざまな要因によって年功序列制度から成果主義へとかじを切る企業が増えています。
成果主義は、業務遂行の過程と結果を基準として社員の評価を行うという考え方です。もちろん、単純に年齢や勤続年数、学歴などで評価が左右されることはありません。
また、経験値が高いからといって評価が上がるということもない考え方です。
欧米では一般的で、中国や韓国も早くから取り入れている成果主義でも、年功序列制度や終身雇用制度が馴染んでいた日本では必ずしも効果を発揮するとはいえない部分もありました。
ですが、時代の変化に合わせて組織を維持し、持続的な成長を実現するためには成果主義への移行は自然な流れとも言えるでしょう。
ただし、成果主義への移行にあたっては労働条件や評価制度の変更を伴うことが多く、報酬の減額や役職の変更、配置換えなど、さまざまな不利益を被る社員も出てくる可能性があります。
社員に対して事前に十分な説明をすることはもちろん、納得感のある人事・賃金制度を検討、設計することが必須要件になります。
成果主義を導入するうえでは、今まで以上に経営層や人事部門による中長期的な目線での組織開発へのリーダーシップも求められます。
■最後に
成果主義には確かに個人主義に走ってしまう懸念や、職種によっては評価基準を設定しにくいというデメリットもあります。しかし、適正に導入すれば社員のモチベーションをアップさせてくれるでしょう。
その結果、業績を上げることにもつながり、企業にとってメリットが大きくなる可能性を秘めています。要は成果主義を正しく理解し、自社に適したルールを作ることができれば、成果主義を導入して成功することにつながるのです。
人事システムなども活用しながら、適切な目標管理と評価を行い、是非、成果主義の導入を成功させてください。
日本最大級の顧問契約マッチングサイト「KENJINS」では、
成果主義にこだわり、顧問やプロ人材の成果を報酬に反映する方法として、
・「顧問報酬を歩合制にする。」
・「成果に応じて報酬額を決定する。」
・「成果に応じてインセンティブ報酬を支給する。」
・「コミットメント制度を導入する。」
など、クライアントと顧問の両面のメリットを鑑みつつ、様々な成果主義の施策に取り組んでいます。
「KENJINS」は、5000人を超える「プロ顧問」を集結させています。特に人脈ネットワークを豊富に持つ「営業顧問」を活用した大手企業の役員クラスやキーマンに対する「トップダウン営業」による販路開拓が得意領域になります。
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