法人営業においては、売り上げを上げる最も有効な施策は、ハイパフォーマーが行っているキープロセスの言語化・可視化することだと言われています。
日本の営業現場でも、ここ数年「SalesTech」という言葉を耳にしますが、アメリカでは営業活動の改善や最適化を目的とした「セールス・イネーブルメント」という領域に注目が集まり、大きな成果を上げています。
そこで今回、セールス・イネーブルメントの概念と、営業マンの人材育成に営業ノウハウの共有することが大事な訳について解説します。
「いい人材を育てるには、3つの『き』が必要。まず『期待する』。それから『機会を与える』。そして『鍛える』。人というのは、期待されて、機会を与えられて、鍛えられることで育っていく。」
<坂東眞理子>
■セール・イネーブルメントとは?
セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)とは、営業組織を強化し、改善するための取り組みです。
営業を強化する施策は様々ありますが、「営業プロセス全体を一貫して施策設計・管理することで、トータルで最適化する」というのがセールス・イネーブルメントの考え方になります。
セールスイネーブルメントを導入することで、営業活動に関する多くの情報を数値化して検証するが可能になるため、営業活動の最適化し、効率化を図ることが見込めます。
例えば、トップセールスがどのような営業活動を行っているのかを明確にすることが可能になります。この情報を日々の営業活動や教育に活かせば、営業力・組織力の強化に向けた1つの施策となっていくでしょう。
営業研修や営業ツールの開発・導入、営業プロセスの管理・分析といったあらゆる改善施策をトータルに設計し、目標の達成状況や各施策の貢献度などを数値化します。そして、数値分析により、営業活動の最適化と効率化を目指すという取り組みです。
継続して効果の高い営業施策を講じ、効率的に売上拡大や企業成長を目指せるのです。成果にシビアな米国では、すでに営業活動で欠かせないものとなっており、日本でも少しずつ広まりはじめています。
■セールスイネーブルメントが注目されている背景
セールス・イネーブルメントの概念が生まれたアメリカでは、この概念を企業に導入する時には専門部署を設けるのが一般的と言われています。
この部署に配置されるのは営業人員だけでなく、マーケティング担当や人事担当、システム担当など、各業務に関わるメンバーが該当します。そうすることで、営業部門単独で取り組んだ時には実現できないような効果をあげることができるのです。
日本の法人営業でもコロナ禍による顧客購買行動の激的な変化や、就業体制がリモートワークへ移行する、といった動きもあり、日本にもセールス・イネーブルメントをはじめとした営業改革の波が押し寄せることとなりました。
顧客行動の変化に伴って、企業は顧客とのあいだに新たな関係性を構築し、提供サービスにも新たな価値を付ける必要が生じています。リモートワーク下では、社内コミュニケーションの手法も以前とは異なり、さまざまなツールを駆使してインタラクション(相互作用)を図る必要があるでしょう。
コロナ以前からセールステックと呼ばれる営業効率を高める手法およびツールを導入する企業が急増しており、営業パーソンにもITリテラシーがより求められる情勢になってきました。ですが、日本国内企業のMAツール導入率は、10%程度だと言われてはいます。
現在、「見込み顧客の継続的なフォローと興味喚起」「確度の高い見込み顧客の選別して営業にパスする」といったマーケティングオートメーションに関わる考え方や活動が広まりつつあり、それに合わせて、マーケティング部門から営業に提供されるリードは増えつつあります。
アメリカの営業担当者向け教育提供企業のトップとも言えるミラーハイマングループの調査機関、CSOインサイトが公開した資料「Fifth Annual Sales Enablement Study(2019年版)」によると、以下のようなことがわかっています。
・セールスイネーブルメントの導入率は2013年からの6年間で3倍強となり、2019年には61.3%もの企業が導入している。
・大企業だけではなく、51~250名の小中規模企業でも導入率は7割を超えている。
・導入による効果は、セールスイネーブルメント未導入と比較して成約率が15pt%向上する。
営業活動の改善や最適化の必要性が高まってきたというのが、セールス・イネーブルメントが求められる背景です。
■セールスイネーブルメントを実現する7つのポイント
1、トップセールスの分析、売れる営業マン育成プログラムの企画
圧倒的な成果を上げている「トップセールスがやっていることは何か」という観点に立ち、営業実践に特化した育成プログラムを企画し、実行していきます。
具体的には、アポイントの獲得や商談化率が高い自社の営業資料や外部資料を集約し、ハイパフォーマーのナレッジ提供や、行動パターン分析などをもとに、育成コンテンツやツールを制作します。汎用化・体系化し、営業メンバーの誰もが使えるツールとして提供することを目指します。
さらに、成功事例勉強会や、顧客をスピーカーに招いた事例共有会などのイベントを定例で実施するのもいいでしょう。
2、営業施策毎の成果に対する貢献度を把握する
セールス・イネーブルメントに取り組む際は、いろいろな活動を数値に落とし込む必要があります。逆に言うと、様々な活動が数値として表されることで、マーケティングのように「どの施策が」「どれくらい活用され」「どれくらい成果に貢献したのか」を見える化し、どこに課題があるか、どの施策がどれだけ改善に繋がったかが把握できます。
教育研修や営業プロセスの改善、ツールの開発・導入などの営業施策について、それぞれ成果にどれだけ貢献しているかを把握することが最大の鍵になります。
その上で最終的に見据えた目標に対する進捗状況も適宜チェックし、場合によって施策の見直しを行う必要もあるでしょう。
3、営業ノウハウを共有して属人化を防ぐ
営業活動は各個人に任されることが多く、そのため、営業プロセスは属人化する傾向があります。しかし、成果に繋がるノウハウを個人のみで保有していることは、組織として非常にもったいないことでしょう。
なかなか実現が難しい営業スキルの共有も、セールス・イネーブルメントに取り組むことで、実現に繋がるのです。スキルのバラツキを無くし、チーム全体を底上げできるのが、セールス・イネーブルメントという概念の良さです。
よって、営業ノウハウを組織全体で共有し、誰もがそれを再現できる体制を整えることが大切です。これまでの営業データをSFAやCRM等のツールで収集し、セールスイネーブルメントで求める営業成果を明確にします。
4、専門部署や担当者を配置する
セールスイネーブルメントを実現させるのであれば、それを専門とする部署や担当者を設けた方が良いでしょう。セールスイネーブルメントの兼任/専任部門の設置、もしくは担当者をアサインし、各工程を関連部門と連携する準備を整えます。
セールスイネブルメントの導入を推進するプロジェクトリーダーが主体となり、営業やマーケティングなどと協力して設計を行います。
セールスイネーブルメントは営業のみならず、人材育成という観点から人事、あるいはツール開発などでは開発などの様々な部門にも関わります。各部門で連携を取ることもできますが、部門を切り分けず管理・設計できる部門を設けた方が効果的です。
5、営業マンの行動や能力を定義・評価する
セールス・イネーブルメントを実現することで、成果を出すために営業はいつ・どのようなプロセスで・何に取り組めば良いか分かり、早期に育成できることが期待できます。
人材育成の観点からも、セールスイネーブルメントは有用です。営業ノウハウを共有することで、もう一歩踏み込んで営業プロセスを標準化を実現し、営業力の均質化やマネジメントの効率化に繋げることが可能になります。
営業力を定量的に把握することはセールスアセスメントと呼ばれます。売上につながる「行動」や「スキル」を定義し、それを測定して改善に活かしていくことで、組織的に営業力を高めることができます。また、従来型の人材育成は新卒や中途採用された新入社員を対象としていますが、セールスイネーブルメントは社内の営業組織全てが対象です。
6、 CRM/SFAツールを用いてデータを蓄積する
セールスイネーブルメントでは、売上額や受注率、案件数などのほか、顧客情報や商談の履歴内容、あるいは営業スタッフに対する教育実施の履歴など、さまざまな情報をデータとして蓄積していく必要があります。その際には、CRM/SFAツールを用いることで、データを効率的に蓄積することが可能です。
セールスイネーブルメントは、MAやSFA・CRMといった営業ツールのデータに基づいて、現場課題に即した育成プログラムの作成・改善を行います。データ結果から育成プログラムの効果検証を行い、フィードバックをしつつ改善点を洗い出します。そうすることで、営業が成果をあげるために必要なことが可視化され、実用的な育成プログラムの作成を目指せます。
7、データ活用による施策の最適化
セールスイネーブルメントを導入する大きなメリットは、「データ活用による施策の最適化」ができることです。セールスイネーブルメントではツールに蓄積されたさまざまなデータを活用し、そのデータをもとに最適な施策を立案・実行します。
そして、施策実施後に評価を行い、そこから更なる問題点を発見しまた施策に反映します。このように、セールスイネーブルメントの導入によって、施策実施⇒施策結果の評価⇒改善⇒施策実施というPDCAのサイクルができあがります。
これを何度も繰り返して行うことで施策のブラッシュアップが可能となり、営業活動における継続的な成果の向上が期待できます。
■「オンボーディング・トレーニング」と「営業トレーニング」
営業方法の育成プログラムを開発するには、ケーススタディから考えてみましょう。過去の成功例や失敗例を参考に、提案書や営業資料を業界別・製品別・顧客課題別に整備し、テンプレート化します。
営業データの整備とプロジェクトオーナーのアサインができていれば、ある程度の課題が見えているはずです。その課題を解決できるように、育成プログラムの開発を進めます。営業マンのトレーニングでは、社内のハイパフォーマーの知識・経験や、他のチームの成功事例などを体系化し、教育プログラムとして提供します。
トレーニングの種類は、大きく分けて2つあります。立ち上がりのための「オンボーディング・トレーニング」と、売り方や売り物を理解する「営業トレーニング」です。それでは具体的なトレーニングメニューをご紹介しましょう。
1、オンボーディング・トレーニング
・会社説明や製品知識といった基本情報
・営業プロセスの理解
・SFAやCRMといったツールや、コンテンツ、ナレッジの活用法
・フィールドセールスには提案書作成の基礎など/インサイドセールスには商談機会発掘方法など
育成プログラムの効果検証や判明した育成プログラムの課題・修正点を経営層に共有します。共有して見えてきた課題や修正点も踏まえて、データを蓄積してもう一度育成プログラムの開発の修正を行います。
2、営業トレーニング
1、案件発掘フェーズ:仮説提案、案件見極め、事例を活用したヒアリング、業務課題への訴求方法
2、案件推進フェーズ:刺さる提案書、ROI提案、競合優位性差別化のポイント、実現による業務の改善効果
3、受注フェーズ:エグゼクティブプレゼンテーション、クロージング交渉、価格の出し方
成功事例共有会やエース社員の取り組み方や考え方・意識などの共有、業界最新事例の勉強会などの定例会を実施し、データと現場の声を参考に育成プログラムを開発する方法もあります。
このように、蓄積された営業データを考慮して、自社の営業に最適な育成プログラムを作成し、実行します。セールスイネーブルメントの取り組みを循環して行うことで、より良い経営スタイルの確立に期待でき、自社の抱えている課題解決の第一歩となるでしょう。
■まとめ
セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)とは、営業組織が「継続的に営業成果を出し続けるための仕組みを構築すること」です。新人研修や導入したツールなどの営業施策を分析して、どのくらい売上に貢献しているのかを数字にデータ化。その分析結果を基に営業組織の強化・改善を行い、経営の最適化を図ります。
様々な企業では、「営業成果」を高め、目標を達成するために、セールスの現場では日々、様々な活動が行われています。ですが実際は、営業マン個々の活動が有機的に結合し、最適化が社内に浸透しており、営業成果を創出し続ける仕組みとして機能している企業は多くはありません。
また、大きな営業成果を上げるハイパフォーマンスをもたらすトップセールス人材を育成し、営業活動における成果を継続的に挙げている会社は少ないのが現状です。「営業成果」とは、予算達成、売上向上、新規顧客獲得数増加、既存顧客リピート率向上や案件拡大などといったもので、企業の成長に大きく影響する非常に大事なファクターになります。
日本企業では、社員教育は現場の社員に任せるOJT(On the Job Training)が主体となっていますが、その多くはプログラム・カリキュラム化されていないものになっています。また、「営業成果を起点とした」組織作りや育成体系の設計がなされていないという課題を抱えています。
セールス・イネーブルメントはこの課題に真っ向から向き合います。企業が掲げる「営業成果達成」をゴールに置き、成果を起点にITツールやデータをフル活用しながら、営業組織の成果最大化のために最適な組織体制構築や営業活動支援、人材育成を行う包括的な営み、それこそがセールスイネーブルメントなのです。
■最後に
セールス・イネーブルメントは、一時的な取り組みではなく、継続していくものです。プロジェクトを効果的に推進するためには、兼任もしくは専任として最適な人材をアサインする必要があります。
セールス・イネーブルメントのリーダーは、営業組織が必要としているコンテンツマネジメント、顧客エンゲージメント、営業のアナリティクス、営業マンのコーチンング、セールス研修コンテンツを提供する能力がある人材を首尾よく実装することについて責任を負う必要があります。
セールスイ・ネーブルメントの導入に向いている人材の要件としては、以下のような5つの要素があげられます。
・トップセールスになった実績がある。
・法人営業が好きで営業戦略にも強い。
・営業をサイエンスすることが好き。
・ITツールの導入やリテラシーに強い。
・人に興味があり、人の成長を支援したい。
販売部門でリーダーと同等の立場にある者は、システムを自分たちの役に立つようにするプロセスとテクノロジーにコミットする必要があります。そして、マーケティング部門は、高いエンゲージメントと標準以上のROIを達成する責務を負う必要があります。
そのほかに、基本的なコミュニケーション能力や分析思考力、プログラムプランニング能力、体系化スキル、営業理解、経営ニーズ等への理解があればベターですが、上記3つのマインドは絶対条件となるでしょう。
ただし、セールス・イネーブルメントを実現するためのセールステック導入には、いくつかの課題も指摘されており、導入しても使いこなせなくて放置されたままの状態の会社もあります。
日本最大級の顧問契約マッチングサイト『KENJINS』は、5000人を超える顧問やプロ人材をネットワークしており、これまで様々なクライアント企業の営業支援に取り組むだけでなく、営業戦略のアドバイスや営業人材の育成に必要な企業研修を行ってきた実績があります。
そのため、セールス・イネーブルメントのプロセスとテクノロジーを日々の業務に取り入れることにコミットし、セールス・イネーブルメントの導入に最適なトップセールスのアサインや営業マンの育成に必要な企業研修も可能です。
セールスイネーブルメントの役割と責任は、企業の規模、販売・流通モデルおよび対象となる市場によって異なるため、内外でチームを作り、最適な人材をアサインすることが非常に重要です。
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