企業で働く人材を育てるには、企業の在り方によって人材の潜在的な価値が伸び縮みするため、「管理」の対象ではなく、「人的資本」の意味合いを理解することです。
なぜなら、企業側が人に対して適切な機会や環境を提供すれば、人材価値は上昇しますが、放置すれば潜在的な価値を発揮することが難しくなると言えるからです。
企業の成長には、社内の人間だけでなく、外部人材の潜在力を見出し、ダイバーシティの観点で「人的資本」を活かすことが、今まさに求められています。
そこで今回、人的資本とは何か、持続的な企業価値の向上に人的資本が大事な訳について解説します。
「人材を育てる方法はただ一つ。仕事をさせ、成功させることである。成功経験が人を育て、さらに大きな仕事をさせる。」
<西堀栄三郎>
■人的資本とは?
「人的資本」とは、個々のビジネスマンが持つ知識・経験・人脈・ノウハウなど、自身の価値を「資本」として捉えることを指します。
特にフリーランスの場合、自身の強みが大事になるため、その価値を最大限に引き出すしプロジェクトに貢献することが求められます。
そのため、中長期的な視点で「パーソナルキャピタル」の向上に努め、自身の潜在的な価値を高めるために、得意分野を明確し、個々のスキルや人脈形成、業界内でのネットワークの拡大、人間力の向上など、継続的な努力が必要になります。
企業としての非財務情報の中核に位置するものが「人的資本」になります。これまで企業は人材を「コスト」として捉える傾向がありました。
しかし、今後は人材を「コスト」から「資本」として価値を高め、人的資本を中長期的な企業価値や競争力の向上に繋げる、経営としての人材戦略となる人的資本の実践が求められています。
■人的資本経営とは?
経営環境が急速に変化する中で、持続的に企業価値を向上させるためには、経営戦略と表裏一体で、その実現を支える人材戦略を策定し、実行することが不可欠になります。
自社に適した人材戦略の検討に当たっては、経営陣が主導し、経営戦略との繋がりを意識しながら、重要な人材面の課題について、具体的なアクションやKPIを考えることが必要になります。
人材戦略の変革に当たっては、経営陣によるイニシアティブ、取締役会によるガバナンス、企業と投資家との対話の強化が重要になっています。
企業価値全体の最大化を目的とするような、経営人材の育成や企業文化の浸透等の全社レベルで行う人事施策については、人事部門が行うべきものになります。
一方で、事業単位の価値の最大化を目的とするような、外部からの採用や部門内の再配置は、事業部門が責任を負うものであり、人事部門はこれを支援する必要があります。
■人的資本経営には、CHROの設置が重要な理由
人的資本経営の実行に当たっては、CHRO「Chief Human Resource Officer」の役割が非常に大事になります。
「経営戦略と人材戦略を連動させるための取組」の中でも、「CHROの設置」及び「全社的経営課題の抽出」が、最も重要なステップなります。
同時に、経営トップ5Cのポジションになる、CEO、CSO「Chief Strategy Officer」、CHRO、CFO、CDO「Chief Digital Officer」の連携が「人的資本経営」を推進するための鍵になります。
経営トップと人材戦略の責任者を中心に、対話を深め、課題を抽出することが経営戦略と人材戦略の連動に繋がると言えます。
経営陣においては、企業理念や存在意義「パーパス」、経営戦略を明確化した上で、経営戦略と連動した人的資本戦略を策定し、実行する必要があります。
その際、社員を含めたステークホルダーに対して、人材戦略を積極的に発信し、対話することが欠かせません。
■CHROとは?
CHROとは、経営陣の一員として人材戦略の策定と実行を担う責任者であり、社員・投資家を含むステークホルダーとの対話を主導する人材を指します。
CHROは、人材戦略を自ら起案し、CEO、CFOなどの経営陣、取締役と定期的に議論を行います。
CHROが実効的な人材戦略を策定する上では、事業会社での経営や人事部のマネージャー経験をとともに、事業側で成果責任を担った経験が役立ちます。
CHROの設置に当たっては、CHRO自身が従来の人事部長や人事担当役員として果たしてきた役割、責任との差異を明確に言語化して定義し、経営陣・取締役会と合意する必要があります。
CHROとして活躍するためには、期待された職務を十分に果たすために、人事以外の経営、ファイナンス、競合状況、製品特性などの理解も欠かせない要素になります、
■人的資本が世界的に重視される背景
グローバル化や女性の社会進出に伴って、人材の多様性が加速しています。また、世代による働き方への考え方、価値観の違いなども生まれています。
人的資本に特化した動きとしては、米国の証券取引委員会「SEC」が2021年6月に公表した年次規制アジェンダにおいて、注目すべき規制分野として、「社員や取締役の多様性」を含む「人的資本」に関する開示が挙げられました。
2021年12月には、米国のサステナビリティ会計基準審議会「SASB」が、人的資本開示に関する基準検討プロジェクトの設置を発表しています。
「人的資本」は、気候リスクと並んで世界的な重要項目になっています。
このような人材の多様性の高まりに対して、人材を効果的に活用し、企業価値向上を計るために「人的資本」という考え方は重要視されて来たと言えます。
■コーポレートガバナンス・コードにおける人的資本の重要性
アメリカでは2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)がアメリカの上場企業に対して人的資本の開示を義務化しました。
1、中核人材における多様性の確保
人的資本情報の開示が義務化されたという事実は、投資家が人的資本情報を重要視しているという意味に他なりません。
企業の中核人材における多様性の確保に向けて、管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標を設定をする必要があります。
2、企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性
市場環境の変化が激しいため、経営における人的資本の重要性が高まり、投資判断においても人的資本情報が重要になっています。
中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきであるとされています。
3、サステナビリティの実現に向けた人的課題への取り組み
人的資本への投資は、ESG投資の中の社会(Social)に該当することからESG投資への関心が人的資本への投資の注目に繋がっています。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って生まれた言葉です。
サステナビリティを巡る課題への取り組みとして、人的資本への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきであることが追記されました。
■まとめ
人的資本とは、個人が持つ知識、技能、能力、資質等の付加価値を生み出す資本とみなしたものを指します。
持続的な企業価値の向上に繋が「組織文化」は、所与のものではなく、人材戦略の実行を通じて醸成されるものになります。
人材戦略を策定する段階から、目指す「組織文化」を見据えることが重要になります。
CEOだけでなく、CHROは、自社が顧客、社会、環境にどのような良いインパクトをもたらすべきか、という観点から、企業理念や企業の存在意義を定義したり、再考することが欠かせません。
その際、自社事業の成功に結び付く、社員の行動や姿勢を企業文化として定義し、「組織文化」の浸透を図ることで、企業の競争力向上に貢献する人材の獲得や育成に繋がります。
中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションを生み出すことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせになります。
このため、社内に人材が不足している際には、フリーランスの外部人材を積極的に登用することで、プロ人材が持つ専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込むことが可能になります。
同質性の高いチームから多様なチームへと変わるに当たっては、社内外の協働の在り方を見直す必要があると言えます。
■最後に
日本においては、人的資本への投資がこれまであまりされてきませんでした。
なぜなら、欧米とは異なり、新卒採用といった画一的な採用や終身雇用制、年功序列といった日本独特の制度が存在していたからです。
人的資本経営を目指すためには、先天的にではなく後天的に「経済的な価値を持ち、適切な投資によって増やすことのできる人間の特性」を活かすことが求められます。
経営戦略の実現には、必要な人材の質と量を充足させ、中長期的に維持することが必要負不可欠になります。
そのためには、現時点の人材やスキルを前提とするのではなく、経営戦略の実現という将来的な目標からバックキャストする形で、必要となる人材の要件を定義し、人材の採用・配置・育成を戦略的に進める必要があります。
CEOやCHROは、人材ポートフォリオのギャップに基づき、可能な限り早期に、社員の再配置や外部人材の獲得を検討し、実行することが打開策になります。
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