「人生100年時代」を迎える日本では、終身雇用が当たり前だった社会から、1社で働くことにこだわらず転職することや、スキルを活かして副業をしたり、フリーランスのプロ人材になることも当たり前となりました。
年功序列、終身雇用の崩壊など社会は目まぐるしく変化しています。予想できない社会や長い人生で活躍するためには、現状に満足せず生涯に渡って学び続けることが大切です。
現在、注目されているのが、学び直しという意味でよく使われる「リカレント教育」になります。
リカレント教育で学ぶ内容に明確に定められたものはありません。資格取得に関連するものやビジネスに役立つものなど、仕事に関わるものが多いです。
そこで今回、リカレント教育とは何か、人生100年時代には学び直しが必要な訳について解説します。
「変化の時代には、学ぶ者が地上を制し、学ぶことを辞めた者は、自分の力を発揮できる世界がもはや存在しないことに気づく。」
<エリック・ホッファー>
■リカレント教育とは?
リカレント教育とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。
一から学びなおすというよりも、既に持っている知識や技術をアップデートする、関連するものを新しく身につけるといった側面があります。
スウェーデンの経済学者・レーンが提唱し、1970年代に経済協力開発機構(OECD)で取り上げられたことで、世界的に知られるようになった言葉になります。
元々の「リカレント(recurrent)」という単語の意味は、「反復」、「循環」です。ビジネスシーンでは「回帰教育」や「循環教育」と訳されます。
日本では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれ、社会人になってから自分の仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため、「学び直し教育」や「社会人の学び直し」とも呼ばれています。
■リカレント教育と生涯学習の違い
リカレント教育と混同されやすいのが「生涯学習」です。どちらも「学ぶ」という点では同じですが、学ぶ目的が異なります。
リカレント教育の目的は「仕事に活かす」ことです。リカレント教育は、仕事に生かすための知識やスキルを学びます。修業中や修業後も働くことを前提として、仕事に活かせる知識に限定されます。
例えば、「外国語」、MBAや社会保険労務士などの「資格習得系科目」、経営や法律、会計などの「ビジネス系科目」、「プログラミングスキル」などを学び直します。
一方、生涯学習の目的は、人生をより豊かにすることになります。生涯学習では、仕事に直結しなくても、生涯にわたり行うあらゆる学習を指します。
その中には、学校教育や社会教育、さらには文化活動、スポーツ活動、ボランティア活動や趣味など仕事に無関係なことや、「生きがい」に通じる内容も学習の対象に含まれます。
■リカレント教育の対象者
義務教育や高校、専門学校・大学などで教育受けたのち「社会人」となった人、つまり、学校教育を終えた社会人のビジネスマンがリカレント教育の対象になります。
現在、就労中の現役ビジネスマンのほかに、一流大学を卒業後、大手企業で働いた経験があるが、結婚、出産、子育で会社を辞め、一度、仕事から数年の間、遠ざかった主婦も含まれます。
リカレント教育には、年齢制限という概念が無いため、定年退職後に60歳を超えてフリーランスの顧問になることや、50歳で早期退職し特定の分野のコンサルタントになることも可能です。
基本的に「学び直したい」という意志があり、勤務先や家族の同意が得るか、もしくは本人の意思で自主的に必要なタイミングでスキルの向上を目的にリカレント教育を受けることもできます。
近年では、起業家やフリーランスを目指す人が、リカレント教育を受けてスキルアップしながら、独立を目指すケースもあります。
■独立してもリカレント教育が必要な理由
起業とは、自分で事業を立ち上げて経営者となり、組織を運営して利益を上げるということです。組織の一員として働いていた時の考え方から、経営者としての考え方に意識を変えて、物事に取り組まなければなりません。
「仕事ができれば良い経営者となれるのか」と言えば、必ずしもそうではありません。
経営者は会社全体を見て判断する必要があり、実務の処理能力やビジネススキル以外にも、組織マネジメント力や決断力といった能力が求められます。
リカレント教育により業界についての知識や一般的なビジネススキルだけではなく、経理・法律など会社経営に関係する事柄についても一通りは学んで置くことが欠かせません。
経営者向けのセミナーなどは頻繁に開かれていますが、他業界で活躍する経営者のビジネスモデルや事業運営を研究するために、様々なビジネス書を読破し経営の勉強を重ねつつ、自分を磨くことが大切です。
立ち上げた会社を安定的に経営し続けるためには、会社経営に関する知識を勉強する必要があります。
経営に関する知識が乏しい状態で会社を起こしビジネスを始めてしまうと、事業を存続していく上で、会社の経営方法について考えなければならない時期が必ず訪れます。
会社の経営方法に関する代表的な知識は、財務管理、経営戦略、従業員管理などです。企業経営全般の知識を身に付けておくことで、スムーズな事業運営へと繋がります。
経営者にはリカレント教育では当たり前なので、常に新しいことを取り入れる柔軟な姿勢や、どのような事柄からも学ぶ姿勢を、常に持ち続けることが必要だと言えます。
■リカレント教育の3つのメリット
日本では、2010年代後半からリカレント教育への注目が高まっていますが、そこで言われるリカレント教育とは、主に職業能力を向上させるための教育やその仕組みのこととされています。
リカレント教育」を実施することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
1、生産性・業績の向上
メンバーという立場であっても、業務に関連する最新の知識や技能を身に付けることで、イノベーションを生み出し、企業の生産性向上が期待できます。
社内教育や実務で仕事に必要な知識は自然と身に付きましたが、終身雇用が崩壊し現在の流動化した雇用形態では、1社での勤続年数が短くなっているため、「社内教育だけでは必要な知識を習得できない」という課題があります。
そのため、従来の社内教育に頼るのではなく、従業員が自ら学びの機会を探し、自分のキャリアパスに合わせて学ぶ手段として、リカレント教育が注目されるようになっています。
2、スキルの向上
一度社会人になって就労してしまうと、なかなか新たに学び直す機会は得られません。しかし、近年の技術革新になり、専門性の高い知識ほど定期的なアップデートが必要になっています。
企業にとっても、企業研修で新卒の新人をゼロから教育するよりも、ある程度のビジネス経験を積んだ人材が自分の意志で学び直すことで、よりコストパフォーマンスを高められます。
個人でビジネス系フリーランスを目指す場合、高いスキルを持っていれば、それだけ高単価な案件を獲得できる可能性があります。ニーズが高い技術があれば多くの案件を受注できるでしょう。成果が報酬に結びつくのは、仕事をする上でのモチベーションにもなります。
IT技術の発展とIT人材の不足からニーズが高まっているのが、プログラミングスキルです。個人でも受注できる案件が多く、単価が高い案件が多いのもメリットです。特にAI開発に関わるプログラミング言語は、今後さらにニーズが高まっていくことが予想されます。
3、年収アップ
これまで培った専門的な知識や経験・スキルを活かして経営者の代わりに企業の経営現状を分析・課題を明確にし、それを解決策するためのアドバイスや改善業務を行うコンサルタントになることも可能です。
コンサルタントには経営やIT、業務、戦略などの種類があります。より高度かつ専門的な知識や技能を継続的に求められるため、長期的に年収が向上することが期待できます。
2018年度の経済産業省「年次経済財政報告」でも、年収の変化については、「年収に与える効果の推計結果をみると、自己啓発を実施した人と実施しなかった人の年収変化の差額があります。
1年後には有意な差はみられませんが、2年後では約10万円、3年後では約16万円でそれぞれ有意な差がみられている」という結果が報告されています。
■リカレント教育が注目される背景
リカレント教育は、もともとは、義務教育や基礎教育を終えた後も、個人が全生涯にわたり労働や余暇などの活動と教育を交互に行うという考え方で世界に広がりました。
1、雇用のあり方の変化
生涯にわたって1社に勤め続ける「終身雇用」が当たり前ではなくたった現在の日本では、転職活動をする人も多く、雇用の流動化が進んでいます。
スキルアップやキャリア形成を目的とした転職が当たり前とも言える時代になりました。
キャリア意識が高い人は自ら学びの機会を求め、逆に企業は優秀な人材が流出しないよう、教育制度の充実に迫られています。両者にとってリカレント教育の浸透はメリットがあると言えます。
また、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった従来から続く雇用のあり方も見直しが進んでいます。時代が求める新たな専門能力を身に付けるためにも、リカレント教育の制度化は企業にとっても優先度が高まっています。
企業の従業員を定年まで雇用する体力が低下していることなどから、従業員にキャリア自律を求める企業が増えています。これらの要因から、自律的にキャリアを形成していくための学びの手段としてリカレント教育が必要になっています。
2、人生100年時代の到来
従来であれば定年後は、働かずにのんびり過ごすといった生活ができていましたが、100歳まで生きるとなると、生活の糧が必要となり、より長く働く必要が出てきます。
これまで日本人のライフステージは、従来は「教育」「仕事」そして「引退」の3つで、各段階が時の流れとともにまっすぐつながる“単線型”といわれるものでした。
ところが、寿命が延びて人生100年時代や少子化の時代を迎え、生涯現役で活き活きと暮らすライフスタイルへの変化が求められています。
「教育」「会社勤め」「学び直し」「組織に雇われないはたらき方」といった段階を何度も繰り返した後、ようやく「引退」に至る「マルチステージ型」に転換していきます。
仕事をする期間の長期化を見据え、「定年退職後の再雇用・再就職」や「ライフイベント後の仕事復帰」、「キャリアアップ」を目指すためには、新しい知識を身に付けることも重要となりました。
何歳になっても学び直し、新たな段階にチャレンジできる社会の実現が求められており、リカレント教育を受ける制度の充実に大きな期待が寄せられています。
3、「Society 5.0」の到来
デジタル分野における技術革新が急速に進んだことで市場環境も大きく変化し、「従来の仕事の仕方やスキルでは通用しない」「これまでと異なる知識・スキルが求められる」という場面が増えています。
AI技術やDXへの対応といった、技術革新・市場の変化に対応するために、必要な知識を獲得する手段として、働きながら教育を受けられ、反覆的に繰り返せる「リカレント教育」が注目を浴びるようになったと言えます。
内閣府によれば、Society 5.0とは「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」です。
IoTやビッグデータの活用促進、人工知能といった技術革新が進み、2030年ごろに起こると言われているのが「第4次産業革命」、その結果として到来するのがSociety 5.0です。
AIやIT技術の導入、DXなどに対応して新たな事業・サービスを生み出したり、いち労働者として働いていくには、これまでの知識やスキルのアップデートと、新たな知識・スキルの習得が不可欠になってきています。
こうした変化に対応するための新たな知識やスキルの習得が必要となり、リカレント教育に注目が集まっています。
■まとめ
リカレント教育は、日本人の平均寿命の延びと技術革新の急速な進展が大きく関係しています。これまでの私たちの人生は、学校で勉強した後、就職し、ある程度の年齢になったら退職し、リタイヤ後の生活を送るというスタイルでした。
しかし、現在は、平均寿命が延びたことや情報技術の進展、働き方改革などにより、社会に出た後も、会社をいったん辞めて留学する、転職や起業で新たな仕事を始める、子育てをしながら働く、定年後も新たな仕事に挑戦するなど、キャリアアップ、キャリアチェンジしていくスタイルに変わりつつあります。
これからの時代は、多様なライフスタイルやライフステージの変化に応じた生き方や働き方がいっそう求められるでしょう。
学校を卒業した後も、新たな知識やスキルを身につける学び直しは、生き方や働き方の選択肢を増やし、人生の幅を広げることに繋がります。
「学び」に遅すぎることはありません。何歳になっても学び続けていくことは重要です。その中で何を学ぶかは、「今後自分はどうなりたいか」「どのようなキャリアを歩んでいきたいか」など自らのキャリアプランから考えると良いでしょう。
■最後に
社会人になると、日々の仕事や生活で忙しくなり、自ら学びなおすことは後回しになりがちではないでしょうか。ありたい姿や目指すキャリアを実現するためには、必要な知識やスキルが求められます。
人生100年時代では、副業やパラレルワークなど、仕事と学びを両立しながらリカレント教育を受けることによって、新しい知識やスキルを身に付けるスピードが速くなります。
必要に迫られて時代に合った知識やスキルを習得することは、日々の業務効率を上げたり、より高度な仕事に携わったりすることに繋がります。
新しい知識やスキルは、高い評価を得る要素の一つになります。
リカレント教育によって、能力をアップデートできれば、時代に合った能力を持つプロ人材として複数の企業から評価され、収入アップを期待できます。
卓越したスキルや強みがあれば、よりハイレベルな仕事に取り組めるフリーランスとして活躍できるチャンスも広がります。裏を返せば、人生100年時代では、誰もが定年後に「人的資産」を活かしたフリーランスになる可能性があるということになります。
会社の看板が無くなっても個人として知識やスキルを生かす場は無限にあります。自身の得意分野を理解し、仕事をしながら「ポータブルスキル」を磨くことで、活躍の機会を作ることも可能です。
「こうするのが正しいはずだ」「これが成功パターンだ」といった先入観をいったん横に置き、あるいは捨て去って新鮮な意識で学ぶことで、新しい知識やスキルをスムーズに、かつ、これまでの培ったものと融合しながら取り入れ、身に付けることが可能だとされています。
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