人事、人材の分野で、ここ数年の間によく聞かれるようになった「タレントマネジメント」。
現在、タレントマネジメントは、アメリカで生まれた考え方で、日本の企業でも注目されています。
しかし、企業の人事に関わる方、経営者でも「どういった取り組みなのか」については良く分からない方も多いようです。
そこで今回は、タレントマネジメントとは何か、中小企業における人材管理の重要性について解説します。
■タレントマネジメントとは?
タレント(talent)は直訳すると「才能」で、派生して「才能・能力を持った人材」となり、HR(Human Resource領域においてはつまり「組織のパフォーマンスを向上させ、事業成長に貢献する人材」を指します。
タレントマネジメント(talent management、TM)とは、各社員の才能や能力を把握した上で、全ての社員に遺憾なく力を発揮してもらうために人事戦略を練り、人材管理(人材配置や人材開発、評価など)することを指します。
経営戦略を実現するために必要で、人材に関わる領域であれば、評価、処遇、採用、育成(教育)などの人事イベントすべてがタレントマネジメントに関係しているため、「タレントマネジメント≒人事戦略そのもの」ともいえます。
人事戦略は、目指すべき目標や人事課題によって企業ごとに異なります。そのため、企業ごとにタレントマネジメントの実践内容は異なるのが一般的です。
どんな企業でも具体的にこれさえやればタレントマネジメントをやったことになる、という内容はありません。
■タレントマネジメントが必要な理由
タレントマネジメントの最大の目的は、「売上・利益を上げる」「事業を拡大する」といった企業の経営目標を、人事戦略の視点から実現していくことです。
なぜなら、この視点を忘れてしまうと、「タレントマネジメントをするためにタレントマネジメントをする」というような手段の目的化が起こりがちだからです。
タレントマネジメントは、1990年代のアメリカで提唱され始めたメソッドです。当時のアメリカでは、「1つの会社に長く勤める」という考え方よりも、自身のスキルや経験を活かすために転職を繰り返すという考え方が一般的でした。
しかし、企業側からすれば能力の高い優秀な人材にはずっと働いてほしいものです。
各社員の才能や資質を会社がきちんと理解し、モチベーション管理やキャリアステップの提示をしながら社員満足度を高めることに注力するようになったのです。
■タレントマネジメントが注目される4つの背景
個人のスキルを最大限に発揮させることで企業成長を実現するのがいいのではないかという概念が生まれました。
1、終身雇用の崩壊のはじまり
日本では終身雇用制度を採用している企業が多く、基本的には定年まで同じ会社で働き続けることが当たり前でした。
また、昇格についても入社年数に応じて決まる年功序列制度が導入されていました。
一度入社すれば定年までその会社に居続けることから、個人の能力開発よりも、いかに企業の方針に従うことができるかが重要視されていたのです。しかし、こうした終身雇用・年功序列制度は見直され始めています。
2、少子高齢化に伴う労働力人口・生産年齢人口の減少
いままでのように多くの社員を新卒で採り続ける、というのがむずかしい時代になりました。
日本では急速な少子高齢化が進んでいて、2010年をピークに人口全体がゆるやかに下降線をたどっています。
そして生産年齢人口(15~64歳の人口)、労働力人口(15歳以上で労働の能力と意思を持つ者の人口)も減少傾向にあります。そのような背景もあり、「人を増やして成果を増やす」から「いまいる社員でより多くの成果を出す」という意識にシフトしつつあります。
2、グローバル競争
タレントマネジメントが注目されることになる2つ目の背景は、グローバル競争です。
グローバル競争の激化により、日本企業は世界と戦う必要が出てきました。世界規模で企業間競争が繰り広げられている現代社会では、世界中どこにもない製品、世界中の誰も思いつかないアイデアなどを生み出していくことが求められます。
人材の流動化が進んだ日本でも、ガラパゴス化している雇用慣行、例えば新卒一括採用や年功序列といった固定された人事制度が企業の競争力を弱めているケースが多々見られます。
世界と競争し、競り勝つ力を持った社員をいかに育成するかが、急務となっているため、場合によってはいままでの雇用慣行を切り捨て、「タレント」に着目して戦略を考えていく必要が生じてきたわけです。
3、働き方改革推進
政府主導で進められている「働き方改革」もタレントマネジメントを後押ししています。働き方改革の中でも特に注目されている「長時間労働の是正」。
この実現には一人ひとりの社員の生産性向上が鍵となります。その方法としてタレントマネジメントを検討する企業が増えています。
日本の少子高齢化が加速し労働人口が減少する中で、時短勤務者や高齢者の雇用、フリーランスの活用なども進んでいます。
さまざまな働き方が生まれて人材の流動性が高まっていく中で、個人の価値観が「会社への貢献」「会社依存」から、「個人のスキルアップ」「ワークライフバランス」などへと多様化してきているのです。
4、技術革新
技術革新によって、タレントマネジメントが実施しやすくなったこともひとつの理由です。
長年、人材に関わることは可視化や数値化がむずかしく、多くの企業で主観を頼りに扱われてきましたが、人事分野での技術(いわゆる「HRテクノロジー」)革新が進んだことでそれらも容易になりました。
テクノロジーの進化によりビジネスのスピード感も加速してきています。
これまでは、固定されたメンバーで協調性を重視しながらビジネスを進めればよかったところから、「いかにスピーディーに新しい価値を生み出していけるか」が重視されるようになってきたのです。
■タレントマネジメントを導入する6つの目的
タレントマネジメントはそれ自体が目的ではなく、あくまで「目的を達成するための手段」です。
導入する際は、事前にタレントマネジメントを通じて何を実現したいのか、目的(ゴール)を定めることが重要です。では、実際にタレントマネジメントを導入する目的には、どのようなものがあるのでしょうか?
1、適材適所に人材を配置する
社員がこれまで何を経験し、どのような知識やスキル、資格を習得し、それをどのように発揮していきたいのか。
能力はもちろん、価値観やキャリアビジョンを把握することで、誰にどの業務をどこまでお願いすれば、より高い成果が生まれるのかを描けるようになります。
組織図を踏まえて適材適所に人材配置を行うことにより、業務の効率化や生産性のアップが期待できるでしょう。
社員自身も、自分に合った環境や、自分が求める環境に身を置くことで最大限に能力を発揮することができ、モチベーションアップにつながります。
適材適所への人材配置を目的としたタレントマネジメントの導入を行う場合、社員のプロフィールやスキル、強みなどを総合的に管理できるツールがお勧めです。
2、人材の育成に活かす
社員がどのようなキャリアプランを描いているのか、どのようなスキルや経験を身に付けたいのかを把握することで、効率的な人材育成が可能となります。
目指す方向に応じた業務を任せたり、トレーニングを行ったりすることで、おのおのの意欲向上にもつながるため、スピーディーな事業発展も見込めます。
人材育成を目的とする場合、キャリアプランの把握と同時に、社員のスキルが現状どのフェーズにあるかが把握できるようなツールを導入しましょう。社員に最適なアドバイスができるようになります。
3、社員のモチベーション管理に活かす
社員のモチベーションを高く保つことは、自身の能力を発揮し、事業に貢献してもらう上で非常に重要です。
ですが、多くの企業ではモチベーション管理が体系化されておらず、直属の上司が個人の経験や能力を基に、長年の勘を頼りに行っているのが現状です。
属人的な管理では、部署によって成果にばらつきが出たり、経験の浅いマネージャーがうまく管理できなかったりするケースも出てきます。
タレントマネジメントを導入することで、企業全体が体系的にモチベーション管理に取り組めるようになります。
社員のモチベーションの状態や悩み、ストレスをタイムリーに把握し、その都度、適切な指導を行うことで生産性の向上も期待できるでしょう。
モチベーション管理を目的にタレントマネジメントシステムを導入する場合、社員の悩みやストレスといった状況を把握できるツールが最適です。
定期的に社員の状況を把握し記録しておくことで、新たな悩みやストレスが出てきた際に、「この社員はどういう状況・業務で悩みがちなのか」「どういう解決方法が向いているのか」などの傾向も把握することができます。
4、正しく評価をする
社員の実績に応じて適切な評価を行うことはとても大事です。
社員間での不公平感の軽減はもちろん、「きちんと仕事をすれば正しく評価される」という前提があることは、社員の会社への貢献度にもつながります。
「誰がどのような目標を持って、どのような仕事に取り組んだのか。それにより、どのような成果を生み出し、どのように評価されているのか」が一元管理できるシステムを導入することで、評価に透明性が生まれます。評価制度とセットで導入するとよいでしょう。
5、人材採用に活かす
どのような人がどのような仕事を行っているかを一元管理できるようになることは、採用活動においてもメリットがあります。
新たな人材を採用する際に、「その仕事をするには、どのようなスキル・経験が必要なのか」をすぐに定義できます。
「このチームは今このような状況だから、マインド面・コミュニケーション面ではこのような人材が良い」などといった具合に、スキル面以外においても最適な人材を採用することができます。
さらに、採用難易度の高いポジションで欠員が出た場合にタレントマネジメントシステムを導入していれば、他部署からの異動で該当部署の欠員を補強するといったフレキシブルな対応も可能となります。
また選考・内定フェーズにおいて、求職者に対し「入社後のポジション・身に付くスキル・キャリアアップの流れ」を論理的に伝えることによって、求職者の安心感がアップします。具体的なキャリアステップの提案は、社員の動機付けに非常に有効です。
6、人材の流出を防ぐ
タレントマネジメントシステムを導入することで、人材の流出防止にもつながります。
自分の能力や業務内容の擦り合わせが企業としっかりできており、自分が目指すキャリアプランと企業の求めるスキルが一致した状態になることで、社員は「この会社であれば自分の目指す働き方が実現できる」と前向きな気持ちで働けるようになります。
また、社員に何かストレスや悩みが生まれたときに、アラートを察知することで最適なマネジメントができ、人材の流出を食い止めることができるでしょう。
労働人口が減少しており、限られたマンパワーで競争力を磨かなければならない時代だからこそ、「社員の定着」も課題の一つと捉え、状況を可視化することはとても重要です。
■タレントマネジメントを成功させる3つの要素
タレントマネジメントの導入を失敗で終わらせないために、多くのメリットを得るために、大切なポイントを3つご紹介します。導入を検討する際は、ぜひ以下の項目を参考にしてみてください。
1、企業課題を人材戦略に落とし込む
一つ目のポイントは、経営戦略や企業課題を明確化し、それを人材戦略に落とし込むことです。
将来、会社に必要になるのはどのような人材か、業績を上げるために、どのようなスキルを持つ人材をどの業務にアサインするのか。
より具体的に人材戦略を策定することが必要になります。先述したように、自社に必要な人材の確保や育成は、企業の成長になくてはならないものです。
同時に、事業戦略に即した人材マネジメントを行えるかどうかも企業の成長における重要なファクターとなります。
評価や採用、育成など、人事にかかわるさまざまな業務全てが経営戦略の実現に必要となるため、タレントマネジメントそのものが人事戦略になるとも言えるかもしれません。
2、全社的にタレントマネジメントの目的を理解する
二つ目のポイントは、社員全員のタレントマネジメント導入への理解です。必要な情報を収集するためには、従業員の協力が必要となります。
情報を収集する以外にも、各部署でのデータの共有や、適材配置による異動の際の人材の受け入れなど、社内で多くの協力が必要です。
社員全員の理解を得るのは簡単なことではありませんが、全社規模でのタレントマネジメントの必要性の理解が進んでいないと、協力を得ることは難しく、タレントマネジメントの導入が円滑に進まない要因の一つとなります。
そして、社内の協力を得るため重要なのは、まず経営層がタレントマネジメントをしっかりと理解し、導入の必要性やメリットを全社員に周知徹底することです。
その上で、主体的にプロジェクトを推進していく担当者に、丁寧にしっかりと説明していくことが必要になります。
また、社員に対しては、下記のような具体的なメリットを提示することで、タレントマネジメントに対してポジティブな反応や協力を得ることにつながります。
・タレントマネジメントが自身のキャリアの構築に有効であること
・成長機会の創出につながること
・業績に応じて報酬が上がること など
このように、会社のトップが舵を取り、全社規模で社内の環境整備をすると、タレントマネジメントの導入がスムーズになるとともに、導入後も柔軟に活用できるシステムを構築することが可能になります。
3、適切な運用・活用
三つ目のポイントは、収集する情報の整理や活用方法、システムの運用方法などを明確にすることです。
ただ闇雲に膨大な情報を収集しても、いざという時に情報量が多すぎて必要な情報が引き出せなかったり、肝心な情報が不足していたりして、結局活用できないという状況に陥りかねません。
まずは自社にとってどんな情報が必要かを洗い出し、収集した情報の整理や活用方法、システムの運用方法などの詳細までを、明確にしておくことが大切です。
また、システムは導入後も自社に合わせてチューニングを加えることで、より効果的に活用することができるようになります。だからこそ、定期的に適切なタイミングで振り返りを行い、評価と改善を繰り返すことが重要です。
■タレントマネジメントにおける「目標」の重要性
従来の人事評価制度における「目標」は、社員の職級や所属ごとに求められる業績への貢献を担保するために設定されるものです。
「目標管理」は、実際の貢献度合いに対する評価と、評価内容に合わせた処遇や昇格・降格の判断に必要なデータ取得のために行われるものでした。
一連のプロセスは「評価」をもって完結してしまうため、評価が終了してから取得したデータを活用する、という考え方はあまり浸透していなかったのです。
一方、タレントマネジメントの考え方においては、収集したデータはその後も様々な場面で活用されます。
目標管理や人事評価のプロセス上で得られたデータや評価結果は、人材配置や人材教育などの人事施策のみならず、本人のキャリア開発や能力開発に活用されるべき情報とされています。
タレントマネジメントのために活用できる正確で有益なデータを取得するためには、「目標」を適切に設定することがとても重要になってきます。
■まとめ
タレントマネジメントは、経営戦略を人事面から支援することを目的としています。タレントマネジメントは、経営戦略に沿って実施されなければいけません。
つまり、経営層も自社に必要な人材と現状についてしっかりと把握し、上手く活用していくべきだという認識を持つ必要があります。
タレントマネジメントは、導入すれば生産性が上がるというものではありません。
システムを活用して、全体を把握して、問題に気づき、実際に行動に移すことが重要です。人材データが宝の持ち腐れとならないように、経営層や現場にしっかりと活用してもらうことが必要です。
このタレントマネジメントの導入を成功に導くには、経営戦略及び人事戦略の両方を明確にして推進していくことが大切です。
各社員のスキルや経験を見極め、適材適所に配置することで、社員のモチベーションを向上させて流出を防ぐことができるほか、事業の生産性や効率性のアップにもつながります。
また、人事・採用担当者としても正当な評価ができるようになるでしょう。
採用のミスマッチを防ぎ、自社の従業員のスキルや能力により着目し活用することで、経営目標をよりスピーディに達成できるようになります。これこそが自社のメリットとなるのです。
タレントマネジメントは労働人口が減少している現在だからこそ必要になっています。目的を設定した上で最適なシステムを導入しながら、施策を進めていきましょう。
タレントマネジメントは単にツールを入れれば解決するというものではありません。きちんと機能させるためには、正しい目標管理を行うことが必須です。
適切な人材の配置、育成を可能にし、組織を強化していくために、優秀な人材をどう活かしていくか、育てていくのか。個人や企業のパフォーマンスを最大化させるタレントマネジメントは、今後の成長と存続のカギを握っていると言えるでしょう。
■最後に
日本最大級の顧問契約マッチングサイト「KENJINS」では、大手上場会社の幹部クラス、戦略系コンサルファーム、会計系コンサルファーム出身の40代から60代を中心にプロ人材が集結しています。
事業会社での経営戦略立案や、グローバル案件で海外展開経験のあるプロフェッショナル人材の顧問・コンサルタントが、クライアント企業と一緒になってプロジェクトを推進していきます。
KENJINSの専門コーディネーターが、クライアント企業のプロジェクトの概要、期待する役割、人材ニーズを伺い、最短で即日・原則3日以内にプロフェッショナルな顧問・コンサル人材を紹介します。
サービスの大きな特徴としては中間マージン無しで、業界最安値のリーズナブルなプラットフォーム利用料のみでご活用頂けます。
登録顧問やコンサルタントとは予めプロフィールの提出いただき運営が登録審査を徹底しております。
更にクライアント企業様とプロ人材は事前面談やミーティングを必須で行うことを徹底しており、プロジェクト経験、保有スキル、人柄などを確認することができるため、依頼企業の経営課題やプロジェクトの要件に合致した顧問・コンサル人材をご紹介可能です。
営業支援、マーケティング支援、システム開発のPMO、新規事業立ち上げ支援、業務改革支援などを中心に、最低3カ月の契約体系にてプロジェクトに参画させて頂きます。
海外進出プロジェクトや大規模システム導入など、1年以上の長期にわたり参画させていただくことも可能です。
ハイレベルで優秀な即戦力人材をプロジェクト期間や事業のフェーズに合わせて、必要な期間だけ登録コンサル人材を業務委託契約で活用することができます。
新規事業立ち上げプロジェクト、社長直下プロジェクトなど、人材要件やプロジェクト期間に合わせてご活用ください。
「顧問のサブスク」モデルを提供しているKENJINSなら、「人数無制限」で、企業の課題解決に適切な解決策を提案できる沢山の顧問と繋がることができます。
【人数無制限】顧問のサブスクと言えば、業界最安値のKENJINS
https://kenjins.jp/lp/subscription/